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第十二章
第150話 ひーろー
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蘭の飛び出した後に再び沈黙に包まれるマジボラ部室。
「…とりあえず不二子、アンタの考えでいいからつばめに今何が起きているのか教えなさい。それを聞いて今後の対応を考えるわ」
睦美の口調は相変わらずだが、言葉に責める意思は感じられない。元々不二子の提唱していた『マジボラ活動を長期間 (1年以上?)続けると変態が固定化される』という説ですら、不二子自身の体験から導き出された仮説であり、普遍的な根拠のある物ではないのだ。
「そうね… 考えられるとしたら、活動期間では無くて魔法の使用頻度とか魔力の消費量が変容の決め手になっていたのかも知れないわ。私の様な『破壊』の力は使い所を絞る必要があったけど、芹沢さんの回復魔法はやたら使ってきたみたいだから…」
「あの… これって治せないんですか…?」
不二子の言葉につばめが小さく、しかしはっきりと言葉を挿し込む。
「原因とか、もうどうでもいいですよ。私自身に回復魔法を使うとかで元の体に戻せませんかね…?」
つばめは縋るような瞳を不二子に向ける。不二子はその救いを求める瞳を直視出来ず、力無く首を振るしかなかった。
「それは… お勧めしないわね。逆に症状の進行を加速させる結果になりかねないわ…」
「じゃあっ!」
つばめが顔を上げて大きな声を上げる。胸一杯の悲しみを抱えて、いかにも苦しそうにつばめは言葉を続けた。
「じゃあわたしはどうすれば良いんですか…? 前にもこの事で1日悩んで、結局答えを導いてくれたのは沖田くんだった… その時は『もっとノンビリ考えよう』で済んだけど、今はそうも言ってられなくなった… わたしのせいで沖田くんが攫われて、助けに行きたいのに怖くて動けない… 『人間じゃ無くなっちゃう』事が怖くて仕方無い…!」
顔を覆って号泣するつばめ。仮に沖田を救い出せたとしても、その後に沖田と結ばれる可能性は低いだろうし、更に相手が誰であれ今後結婚しても恒久的に子供を授かる事も無い。
つばめ的にお先真っ暗、である。
「泣かないでつばめちゃん。沖田くんを助けるのは私が行くから」
つばめの肩に優しく手を置いて、その耳元に囁いたのは御影である。
つばめはまだ鼻を啜りながらも泣くのを止めて御影を見る。
「私はどうせ今後結婚も出産もするつもりは無いから、バンバン気にせず魔法を使えるし、それにホラ、『ジャズ歌手シャンソン歌手』!」
御影がパチンと指を鳴らすと、御影の姿はあっと言う間につばめの姿に変身した。
「つばめちゃんに化けて相手を騙すことも出来るよ? それに私、変身した後の自分の翠の瞳が大好きなんだよね…」
御影がつばめにウインクを投げ、もう一度指を鳴らして元の姿に戻る。
「蘭ちゃんのセリフじゃないけど、つばめちゃんはもう何もしないで。今までたくさん頑張って来たんだから、少し休みなさい。良いね…?」
つばめは俯いて動かない。様々な感情に揺られて未だ決意が固まっていないのだろう。
「綿子ちゃんと千代美ちゃんも、これを期にもう魔法少女なんて辞めちゃった方が良いかも知れないよ? 幸せな結婚生活とか少しでも夢見てるならね」
御影が今度は後ろに座っている綿子や野々村を気遣う言葉を掛け、綿子も野々村も下を向いて考え込んでしまう。
実は綿子は部活の練習で結構『振動』の技を使っていたし、野々村は日課の呪文練習で何度も魔法を使っていた。
変容の条件が魔法使用の頻度であるのなら、2人にとってつばめの事例は他人事ではない。
御影に対して睦美が『ちょっと勝手な事しないで』と声を掛けようとして止まる。
睦美とてこう見えて女性の端くれだ。つばめや綿子らの気持ちはとても理解できるし、巻き込んだ責任感や罪悪感の様な物も無いと言えば嘘になる。
それより何より綿子や野々村の存在は現状睦美的に『戦力外』であり、「別に居なくなってもあまり困らない」事に思い至り、口を閉じた次第であった。
「魔界には御影と近藤先輩、久子先輩、アンドレ先生、あと大豪院くんで行くから、他のみんなは家で大人しく待ってて…」
寂しく微笑む御影。
これは遠足ではない。行って帰って来れる保証などどこにも無いのだ。それなのに御影の瞳には悲壮感は浮かんでいない。
すでに覚悟を決めているのか、あくまでレジャー気分で戦地に向かおうとしているのかは周りからは計り知れないが、御影薫という人物の破天荒さは大いにアピール出来ていた。
「御影が仕切ってるのが気に入らないけど、とりあえずの話は済んだわね。ゴ… 蘭が出て行っちゃったから何するつもりなのか読めないのが不安だけど、まずは解散にしましょう。追ってヒザ子から連絡させるから、各自の行動指針だけは決めておきなさい」
睦美の締めで、長い会合もようやく終わりとなった。まだ話すべき事はあったのかも知れないが、全員の疲労度が高く有意義な会議が期待できないままに無駄に話し合っても無意味である、と判断されたのである。
解散し、マジボラ部室を三々五々退出する。そこで不二子は御影に声をかけた。
「御影くん、教師として、いえ大人として言わせてもらうけど、私は高校生の貴女が魔界に行くのは反対ですからね? まぁどうせ睦美と同じで何言っても聞かないタイプだと思うから強くは言わないけど…」
心配そうな不二子の言葉に御影は楽しそうにニヤリと微笑みを返した。
「…とりあえず不二子、アンタの考えでいいからつばめに今何が起きているのか教えなさい。それを聞いて今後の対応を考えるわ」
睦美の口調は相変わらずだが、言葉に責める意思は感じられない。元々不二子の提唱していた『マジボラ活動を長期間 (1年以上?)続けると変態が固定化される』という説ですら、不二子自身の体験から導き出された仮説であり、普遍的な根拠のある物ではないのだ。
「そうね… 考えられるとしたら、活動期間では無くて魔法の使用頻度とか魔力の消費量が変容の決め手になっていたのかも知れないわ。私の様な『破壊』の力は使い所を絞る必要があったけど、芹沢さんの回復魔法はやたら使ってきたみたいだから…」
「あの… これって治せないんですか…?」
不二子の言葉につばめが小さく、しかしはっきりと言葉を挿し込む。
「原因とか、もうどうでもいいですよ。私自身に回復魔法を使うとかで元の体に戻せませんかね…?」
つばめは縋るような瞳を不二子に向ける。不二子はその救いを求める瞳を直視出来ず、力無く首を振るしかなかった。
「それは… お勧めしないわね。逆に症状の進行を加速させる結果になりかねないわ…」
「じゃあっ!」
つばめが顔を上げて大きな声を上げる。胸一杯の悲しみを抱えて、いかにも苦しそうにつばめは言葉を続けた。
「じゃあわたしはどうすれば良いんですか…? 前にもこの事で1日悩んで、結局答えを導いてくれたのは沖田くんだった… その時は『もっとノンビリ考えよう』で済んだけど、今はそうも言ってられなくなった… わたしのせいで沖田くんが攫われて、助けに行きたいのに怖くて動けない… 『人間じゃ無くなっちゃう』事が怖くて仕方無い…!」
顔を覆って号泣するつばめ。仮に沖田を救い出せたとしても、その後に沖田と結ばれる可能性は低いだろうし、更に相手が誰であれ今後結婚しても恒久的に子供を授かる事も無い。
つばめ的にお先真っ暗、である。
「泣かないでつばめちゃん。沖田くんを助けるのは私が行くから」
つばめの肩に優しく手を置いて、その耳元に囁いたのは御影である。
つばめはまだ鼻を啜りながらも泣くのを止めて御影を見る。
「私はどうせ今後結婚も出産もするつもりは無いから、バンバン気にせず魔法を使えるし、それにホラ、『ジャズ歌手シャンソン歌手』!」
御影がパチンと指を鳴らすと、御影の姿はあっと言う間につばめの姿に変身した。
「つばめちゃんに化けて相手を騙すことも出来るよ? それに私、変身した後の自分の翠の瞳が大好きなんだよね…」
御影がつばめにウインクを投げ、もう一度指を鳴らして元の姿に戻る。
「蘭ちゃんのセリフじゃないけど、つばめちゃんはもう何もしないで。今までたくさん頑張って来たんだから、少し休みなさい。良いね…?」
つばめは俯いて動かない。様々な感情に揺られて未だ決意が固まっていないのだろう。
「綿子ちゃんと千代美ちゃんも、これを期にもう魔法少女なんて辞めちゃった方が良いかも知れないよ? 幸せな結婚生活とか少しでも夢見てるならね」
御影が今度は後ろに座っている綿子や野々村を気遣う言葉を掛け、綿子も野々村も下を向いて考え込んでしまう。
実は綿子は部活の練習で結構『振動』の技を使っていたし、野々村は日課の呪文練習で何度も魔法を使っていた。
変容の条件が魔法使用の頻度であるのなら、2人にとってつばめの事例は他人事ではない。
御影に対して睦美が『ちょっと勝手な事しないで』と声を掛けようとして止まる。
睦美とてこう見えて女性の端くれだ。つばめや綿子らの気持ちはとても理解できるし、巻き込んだ責任感や罪悪感の様な物も無いと言えば嘘になる。
それより何より綿子や野々村の存在は現状睦美的に『戦力外』であり、「別に居なくなってもあまり困らない」事に思い至り、口を閉じた次第であった。
「魔界には御影と近藤先輩、久子先輩、アンドレ先生、あと大豪院くんで行くから、他のみんなは家で大人しく待ってて…」
寂しく微笑む御影。
これは遠足ではない。行って帰って来れる保証などどこにも無いのだ。それなのに御影の瞳には悲壮感は浮かんでいない。
すでに覚悟を決めているのか、あくまでレジャー気分で戦地に向かおうとしているのかは周りからは計り知れないが、御影薫という人物の破天荒さは大いにアピール出来ていた。
「御影が仕切ってるのが気に入らないけど、とりあえずの話は済んだわね。ゴ… 蘭が出て行っちゃったから何するつもりなのか読めないのが不安だけど、まずは解散にしましょう。追ってヒザ子から連絡させるから、各自の行動指針だけは決めておきなさい」
睦美の締めで、長い会合もようやく終わりとなった。まだ話すべき事はあったのかも知れないが、全員の疲労度が高く有意義な会議が期待できないままに無駄に話し合っても無意味である、と判断されたのである。
解散し、マジボラ部室を三々五々退出する。そこで不二子は御影に声をかけた。
「御影くん、教師として、いえ大人として言わせてもらうけど、私は高校生の貴女が魔界に行くのは反対ですからね? まぁどうせ睦美と同じで何言っても聞かないタイプだと思うから強くは言わないけど…」
心配そうな不二子の言葉に御影は楽しそうにニヤリと微笑みを返した。
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