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第十二章
第149話 へんよう
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「えっ…?」
睦美の言葉が理解できずに呆気に取られるつばめ。一拍置いてその意味を理解し始めたのか、肩から下げた小鞄の中から携帯型の鏡を取り出し己の顔を確認する。
「そうなのかな…? 気持ち赤い気もするけど、わたしって元からこんな色じゃありませんでしたっけ…?」
変態時のつばめの瞳の色は暗い赤色だ。現在の彼女の瞳は通常時と変態時の中間とも言える濃い茶色をしていた。
「え…? うそ…? イヤだよ。何で…?」
1人でこの世の終わりの如く落ち込んで項垂れるつばめ。睦美ら以外の面々はつばめの落ち込む事情を知らない為に、みな怪訝な顔でつばめを注視していた。
「ヒザ子、至急不二子に連絡して。武藤、このバスっていつまで使えるの?」
睦美の指示に久子は「ハイです!」と即座に携帯を取り出し、不二子への電話を掛ける。
一方武藤には同じタイミングでどこかから着信があった。
「はい武藤です。はい… はい。角倉 (まどか)もいます… 分かりました、すぐ向かいます…」
武藤は通話を切り「捜査範囲を拡大するってさ。ほれ、本部に呼ばれたから行くよ」と、まどかの首根っこを掴みながらバスを降りていった。
そして去り際に、
「すみません近藤さん、このバスもすぐ本署の人間が回収に来るのでなるべく早めに退去して下さい。あまりお力になれずに申し訳ありません」
「いいえ、これだけ目立つ連中を集めてゆっくり話が出来ただけでも助かったわ。またよろしくね」
睦美の返答に笑顔だけ残して武藤は去って行った。「横暴ッス~!」と喚くまどかを引き摺りながら……。
「…仕方無いわね、一旦部室に移動しましょう。ヒザ子、不二子は部室の方に呼んでおいて。あとアンドレとヒザ子は、アンドレが見たっていう『境界門』の調査をしてきて頂戴。何か分かったら部室ね」
手際よく指図して睦美は立ち上がる。俯いたまま動きを止めたつばめに対し、「行くわよ、立ちなさい」とだけ呟いた。
☆
本日は土曜日であるが運動部の各種夏季大会が近い事から、練習場として学園は生徒に開放、提供されていた。
さて、今から部室で話す内容はマジボラ内部の事情でもあり、女性としてかなりセンシティブな話題であるとして、あまり男性に聞かせたくないものである。
睦美の指令を受けた野々村は、大豪院と鍬形にここまでの協力への感謝と、有事の際には更なる協力の約束を取り付け2人を解放、いや追い出した。
大豪院の方はつばめ関係でまだ何か言いたい事があった様にも見受けられたが、元より積極的に発言したがる人物では無い。そのため野々村が敢えて雰囲気をスルーする事で発言の機会を封殺する事は余裕であったし、鍬形は特に何もせずとも「お、お前がそう言うなら仕方ねぇよな…」と野々村を一度も直視することなく、何故か顔を赤らめながら去って行った。
さて、調査に出かけたアンドレと久子を除き、無事マジボラ部室に集合した一行。先に到着していた不二子であったが、この部室に睦美、つばめ、蘭、綿子、御影、野々村に不二子を加えた7名は些か窮屈に過ぎていたかも知れない。
☆
「じゃあつばめちゃんはもう赤ちゃんが産めないって事なんですか?!」
悲壮な蘭の声が部室に響く。
不二子によるつばめの問診に始まり、自然と不二子を講師とした講義となっていく。
その中で不二子がカラーコンタクトを外して紫色の瞳を見せた所で先程の蘭の声が被るのであった。
「落ち着いて増田さん。『変容化』については詳しい事はまだ全然分かってないのよ。私もまさかこんなに早く進行するなんて思ってもみなかったし…」
「なるほど、道理でつばめに魔法が効きづらくなってたはずだわ…」
場を和ませるつもりで呟いた睦美だったが、それはつまりつばめの変容化を認める材料を1つ提供した訳で、雰囲気を余計に重くしただけだった。
今までは不二子の予想として『当分 (1年以上?)先の事』と認識されていた変容であったが、2ヶ月を待たずしてつばめに症状が顕れたのは、これらの事情を聞かされていなかった蘭、綿子、御影、野々村にとっても他人事ではない。
意味合いとしては子宮癌が近いのかも知れない。癌になったからと、すぐに子宮全摘出を選択出来る女性は少ない。たとえ向こう10年以内に妊娠や出産する予定が無くても、『今あるものを無為に奪われるのは嫌だ』と考える人間がほとんどだろう。
現在交際している男性がいる綿子以外にも、程度の軽重はあれど衝撃的に受け止められていた。
その中でつばめの肩が再び震えだす。やがて俯いた顔から2つ3つと涙がこぼれ落ち部室の床を濡らす。
つばめとしても「こんなはずじゃなかった」と大きく泣き叫んで睦美や不二子を糾弾したい気持ちはある。
しかし魔法による奇跡の力が無ければ、沖田は全身骨折で今頃生死の淵をさまよっていたかも知れないし、これからだって沖田を救いに行くのにつばめの能力は必要不可欠だろう。
つばめが何も言わずとも、周囲の者たちはつばめのジレンマに共感し、胸の痛みに声も出なかった。
綿子が傷付いたつばめを見かねて睦美に食って掛かろうとした時に、不意に蘭が立ち上がった。
「…つばめちゃんはもう何もしないで。私が… 私が絶対に沖田くんを連れ戻すから!」
言うが早いか部室を飛び出して走り去る蘭。蘭の気持ちが理解できずに呆然となる部室の中で、睦美だけが怪しむ様な表情で、蘭を目で追っていた。
睦美の言葉が理解できずに呆気に取られるつばめ。一拍置いてその意味を理解し始めたのか、肩から下げた小鞄の中から携帯型の鏡を取り出し己の顔を確認する。
「そうなのかな…? 気持ち赤い気もするけど、わたしって元からこんな色じゃありませんでしたっけ…?」
変態時のつばめの瞳の色は暗い赤色だ。現在の彼女の瞳は通常時と変態時の中間とも言える濃い茶色をしていた。
「え…? うそ…? イヤだよ。何で…?」
1人でこの世の終わりの如く落ち込んで項垂れるつばめ。睦美ら以外の面々はつばめの落ち込む事情を知らない為に、みな怪訝な顔でつばめを注視していた。
「ヒザ子、至急不二子に連絡して。武藤、このバスっていつまで使えるの?」
睦美の指示に久子は「ハイです!」と即座に携帯を取り出し、不二子への電話を掛ける。
一方武藤には同じタイミングでどこかから着信があった。
「はい武藤です。はい… はい。角倉 (まどか)もいます… 分かりました、すぐ向かいます…」
武藤は通話を切り「捜査範囲を拡大するってさ。ほれ、本部に呼ばれたから行くよ」と、まどかの首根っこを掴みながらバスを降りていった。
そして去り際に、
「すみません近藤さん、このバスもすぐ本署の人間が回収に来るのでなるべく早めに退去して下さい。あまりお力になれずに申し訳ありません」
「いいえ、これだけ目立つ連中を集めてゆっくり話が出来ただけでも助かったわ。またよろしくね」
睦美の返答に笑顔だけ残して武藤は去って行った。「横暴ッス~!」と喚くまどかを引き摺りながら……。
「…仕方無いわね、一旦部室に移動しましょう。ヒザ子、不二子は部室の方に呼んでおいて。あとアンドレとヒザ子は、アンドレが見たっていう『境界門』の調査をしてきて頂戴。何か分かったら部室ね」
手際よく指図して睦美は立ち上がる。俯いたまま動きを止めたつばめに対し、「行くわよ、立ちなさい」とだけ呟いた。
☆
本日は土曜日であるが運動部の各種夏季大会が近い事から、練習場として学園は生徒に開放、提供されていた。
さて、今から部室で話す内容はマジボラ内部の事情でもあり、女性としてかなりセンシティブな話題であるとして、あまり男性に聞かせたくないものである。
睦美の指令を受けた野々村は、大豪院と鍬形にここまでの協力への感謝と、有事の際には更なる協力の約束を取り付け2人を解放、いや追い出した。
大豪院の方はつばめ関係でまだ何か言いたい事があった様にも見受けられたが、元より積極的に発言したがる人物では無い。そのため野々村が敢えて雰囲気をスルーする事で発言の機会を封殺する事は余裕であったし、鍬形は特に何もせずとも「お、お前がそう言うなら仕方ねぇよな…」と野々村を一度も直視することなく、何故か顔を赤らめながら去って行った。
さて、調査に出かけたアンドレと久子を除き、無事マジボラ部室に集合した一行。先に到着していた不二子であったが、この部室に睦美、つばめ、蘭、綿子、御影、野々村に不二子を加えた7名は些か窮屈に過ぎていたかも知れない。
☆
「じゃあつばめちゃんはもう赤ちゃんが産めないって事なんですか?!」
悲壮な蘭の声が部室に響く。
不二子によるつばめの問診に始まり、自然と不二子を講師とした講義となっていく。
その中で不二子がカラーコンタクトを外して紫色の瞳を見せた所で先程の蘭の声が被るのであった。
「落ち着いて増田さん。『変容化』については詳しい事はまだ全然分かってないのよ。私もまさかこんなに早く進行するなんて思ってもみなかったし…」
「なるほど、道理でつばめに魔法が効きづらくなってたはずだわ…」
場を和ませるつもりで呟いた睦美だったが、それはつまりつばめの変容化を認める材料を1つ提供した訳で、雰囲気を余計に重くしただけだった。
今までは不二子の予想として『当分 (1年以上?)先の事』と認識されていた変容であったが、2ヶ月を待たずしてつばめに症状が顕れたのは、これらの事情を聞かされていなかった蘭、綿子、御影、野々村にとっても他人事ではない。
意味合いとしては子宮癌が近いのかも知れない。癌になったからと、すぐに子宮全摘出を選択出来る女性は少ない。たとえ向こう10年以内に妊娠や出産する予定が無くても、『今あるものを無為に奪われるのは嫌だ』と考える人間がほとんどだろう。
現在交際している男性がいる綿子以外にも、程度の軽重はあれど衝撃的に受け止められていた。
その中でつばめの肩が再び震えだす。やがて俯いた顔から2つ3つと涙がこぼれ落ち部室の床を濡らす。
つばめとしても「こんなはずじゃなかった」と大きく泣き叫んで睦美や不二子を糾弾したい気持ちはある。
しかし魔法による奇跡の力が無ければ、沖田は全身骨折で今頃生死の淵をさまよっていたかも知れないし、これからだって沖田を救いに行くのにつばめの能力は必要不可欠だろう。
つばめが何も言わずとも、周囲の者たちはつばめのジレンマに共感し、胸の痛みに声も出なかった。
綿子が傷付いたつばめを見かねて睦美に食って掛かろうとした時に、不意に蘭が立ち上がった。
「…つばめちゃんはもう何もしないで。私が… 私が絶対に沖田くんを連れ戻すから!」
言うが早いか部室を飛び出して走り去る蘭。蘭の気持ちが理解できずに呆然となる部室の中で、睦美だけが怪しむ様な表情で、蘭を目で追っていた。
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