上 下
131 / 209
第十一章

第131話 うまなみかい

しおりを挟む
「『乱世丸』はお兄様から頂いた形見、命の次に大事な品なのよ。それを壊した罪、万死に値するわ!」
 
 大事な品の割には今まで随分と雑に扱っていたが、ともかくそういう事らしい。
 睦美の目に浮かんだのは一筋の涙… そして狂気と殺気だった。
 
「刀折ったのはゴメンナサイ! でも話聞かない先輩も悪いんですよ?!」
 
 完全に素に戻って弁解する蘭。目の前の睦美がマジギレしているため、最早繁蔵の盗聴がどうとか気にしていられる状態では無くなっていた。
 
「良いわ… アンタにはどっちが上だか分からせる必要があると思っていたからね… 観念しな!」
 
 暴走状態の睦美だが、蘭の体の中には魔法を遮断する邪魔具が装備されており、睦美の魔法攻撃は効果が無い。
 もちろん蘭もその事を認知しており、睦美と戦う事があっても、剣戟の様な魔法以外の攻撃に備えておけば良かったのだ。
 
 睦美が態勢を低くして大振りのアッパーカットを打つ仕草をする。
 アッパーならば射程は極めて短い。蘭はバックステップで距離を取り逃れる。
 
 しかし睦美の攻撃はパンチでは無く、その手に握られた砂利と小石だった。睦美の手を離れた自然の散弾が蘭の顔目掛けて飛んでくる。
 対して蘭は背中のマントの裾を持ち、前面を覆う様に展開する。砂利粒程度なら布製のマントでも簡単に防げる… 筈だった。
 
 しかし睦美は砂利が蘭に届く前に、魔法で砂利周りの時間を『固定』し、攻撃を防いだつもりの蘭がマントを下ろしたタイミングで『固定』を解いた。
 結果、油断した蘭の顔に砂利が直撃し、幾ばくかの砂がウマナミ改のマスクをすり抜け、蘭の目に入ったのだった……。

 ☆
 
 久子とコブラ怪人との戦いも佳境に入っていた。足元に群がるコブラの群れを回避しながら、コブラ怪人より繰り出される両腕の牙を躱していた久子だったが、遂に勝機を掴む事になる。
 
 なかなか当たらない攻撃に業を煮やしたコブラ怪人が、起死回生を狙って大技を仕掛けてきたのだ。
 両腕を上方に振りかぶり、2本の腕を同時に伸ばしてくる。命中すれば牙+毒+衝撃で久子に大ダメージを与える事が可能だったろう。
 
 しかし久子はその一瞬を見逃さなかった。伸ばされたコブラ怪人の両腕を体を捻って避け、更にその腕にしがみつく。そのまま全パワーを集中し、一本背負いの要領でコブラ怪人を投げたのである。
 
 久子の動きに合わせて、更に余分に腕を伸ばしていればコブラ怪人はダメージを負う事なく背を向けて無防備な久子を攻撃出来ただろう。
 
 しかし、久子に腕を掴まれた事で反射的に腕を縮める動作をしてしまったコブラ怪人は、久子に引っ張られる様に態勢を崩し、空中に弧を描いて頭から地面に激突した。
 
 そのまま霞が消えていく様に、コブラ怪人の体は蒸気を発しながら徐々に消滅していった。久子の勝利である。
 
 ☆
 
「目だ! 耳だ! 鼻!」
 
 砂利によって視界を奪われた蘭、咄嗟に目を庇おうとするが、そこに睦美の裏拳が隙だらけの蘭の耳を殴打する。更に追撃で蘭の鼻目掛けて放たれる掌底。
 相手が女子であると十分に理解しつつ顔面への集中攻撃を続ける睦美。正に鬼畜の所業である。
 
 それはともかく、今見せた流れる様な格闘術は、睦美の攻撃力が剣術だけでは無い事を物語っていた。
 
「ちょっ、マジでシャレになんないんだけど…?」
 
 あまりにも容赦無い睦美の攻撃にたじろぐ蘭。背中の羽根を展開し、いったん上方に避難する。
 
「全く、頭を冷やしなさいよ、バカ先輩!」
 
 蘭の腰に装着された装置から卵大の物体が数個投下される。それは地面に触れると直ぐに網膜を焼く程の強い光と、鼓膜を震わせる大きな音を発した。鎮圧並びに緊急回避用の新装備スタングレネードである。
 
 睦美も物体であれば対応出来たかも知れないが、光と音が相手では手も足も出ない。意趣返しの如く目と耳を塞がれた睦美を尻目に、コブラ怪人の敗北を確認した蘭は無言で何処かへ飛び去って行った。
 
「睦美さま、大丈夫ですかぁ…?」
 
 睦美の目と耳が回復し始めた頃、久子と綿子がやって来る。
 
「ゴリ子の奴、生意気な事してくれるじゃない…  次会ったら『死刑』よ『死刑』!」
 
「まぁまぁ、刀はまた私が通販で買って研いでおきますから、あんまり蘭ちゃんをイジメちゃ駄目ですよぉ?」
 
 つまり睦美の愛刀「乱世丸」とは通販で買った模造刀を違法に研磨しただけの物であり、『兄の形見』と言うのは実はその場のノリでついた真っ赤なウソである。

 破損した理由も蘭の攻撃だけでなく、経年劣化と長年の酷使の結果に間の悪いタイミングが重なっただけなのであるが、睦美にはその愛刀喪失の苛立ちをぶつける相手が必要であった。

 目の前にいる、かつて睦美を『おばさん』呼ばわりした相手がやや苛烈な八つ当たりをされただけ、と言うのが事の真相である。

「だいたいゴリ子のくせに生意気なのよ。今回の戦いだって…」
 
「あの…?」
 
 睦美の言葉の途中だが、綿子が挙手して会話に参加する。
 綿子は口を開き、その素朴な疑問を言葉にする。
 
「ちょっと気になったんですけど、今のお二人の会話を聞くにさっきのビキニ仮面の女の子ってランランなんですか? 何であの子が敵やってるんです…?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

酒池肉林王と7番目の天使

日向かなた
ファンタジー
完結しました。 生まれながらに並外れて強く『力の王』と持て囃される一方で、一部からは『酒池肉林王』だなんて皮肉を叩かれる程に女好きの、小さな宝島カプリコルノの国王フラヴィオ・マストランジェロは、32歳の誕生日パラータ(パレード)の際に、とある貴族の玄関先に立っている見知らぬ少女を見つける。 パラータのために着飾った華やかな民衆の中で、少女はひとりボロボロの衣類を纏い、栗色の髪は散切りで、服の上からでも分かる骸骨のようだと分かる身体に、死んだ魚のような目をしていた。 それはまるで、一昔前までカプリコルノ国に存在していた『奴隷』の姿だった。 しかし、どんなに薄汚れていようが、みすぼらしかろうが、その繊細な顔立ちは酒池肉林王の碧眼には隠し切れない―― 「あれは、笑顔を失ったアンジェラ(天使)だ」 そんな国王の寵愛する『天使』の第7番目に選ばれた元奴隷少女が、忠誠に生きた約10年間の物語。 恋愛もありますが(21話頃から突入)、それ以上に『忠誠』のお話です。国造りとか戦闘とかそっち系が多くなると思います。元奴隷少女も戦います。使用人としての仕事もします。お金も稼ぎます。後に国も拡大しますし、戦争もします。何でもします。酒池肉林王に寵愛されていますが、やること多いので恋愛中心ではありません(嘘です。気付けば愛と忠誠の話です)。 奴隷少女は成り上がりです。恋愛モードに入ってからは溺愛。 コメディもありますが、そこそこ硬派なハイファンタジーです。性描写・残虐描写あり。 『番外編』は分けてあります。 小説家になろう(ムーンライトノベルズ)さんでも。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

国守護楽団 Brillante

貴良一葉
ファンタジー
<その運命に抗うな、この国と美しき音楽を守るために――>  国守護楽団(こくしゅごがくだん)ブリッランテ――それはかつて、日本各地を守っていた守護団の名称。    各地の首領には守っていた土地の名が与えられ、彼らを統括していたのは和泉国の首領である。彼らは国を守る使命を請け負っていたが、普段は華やかな音楽を披露し人々を癒やす音楽団でもあったのだ。不思議な力を持った守護楽団は時に楽器を武器に変化させ、敵対する暗黒軍メストと激戦の日々を送っていた。  戦いの末、彼女たちはついにメストの長・黒使(こくし)の封印に成功したが、その封印は百年以上先に破られることを予期していた。それに対抗すべく首領の何人かを転生させる方法を編み出し、未来の自分たちの生まれ変わりに全てを託した。  そして現代、ついに封印が解かれるその時、国守護楽団は再び立ち上がる。  音楽とアクションが織りなす新感覚バトルファンタジー! ◇  筆者が中学三年生の時に構想した物語をベースに執筆した作品です。  文字数の都合で基本的に2話で1エピソードという構成になっております。  なお、作中の団体名等は架空のものであり、実在いたしません。  旧国名は敢えて「~のくに」ではなく「~こく」という読みにしております。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

処理中です...