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第十章
第123話 だち
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南瓢箪岳駅の隣り、瓢箪岳駅の駅前広場にて足取り重く歩いていた大豪院を発見した鍬形。
『大豪院は目立つから街をブラついていればすぐに見つかる』
と言う目論見が的中し、大豪院捜索は開始と共に発見に至った事ですこぶるご機嫌であった。
一方の大豪院はエトの残した「明日、この時間にまたここで話をしましょう」と言う言葉が頭から離れないまま、トボトボと1駅分歩いてきてしまった、と言う訳である。
「どうした? 元気無いな兄弟。ここに来るまでに何かあったのか?」
いつの間にか大豪院と『兄弟』になったらしい鍬形が大豪院を励ます様に声を掛ける。
普段から大豪院の表情筋はまるで仕事をしておらず、見た感じ昨日と寸分の狂いも無いように見受けられるのだが、その中から寸毫の違いを見抜いたのか、はたまた只の挨拶文句なのかは謎であるが、鍬形の言葉に大豪院は始めに出会ってからほぼ24時間ぶりの反応を見せた。
「何故、俺に構う…?」
正直、大豪院はこれまで鍬形の事など眼中に無かった。自身に纏わり付く羽虫と同様の感想しか抱いてこなかった。
これは別に鍬形に限った事では無い。大豪院のこれまでの人生において大豪院に関わりを持とうとする人間は少なく無かった。
大半は大豪院の巨体を隠れ蓑に悪さを企てる奴か、大豪院家の御曹司に取り入って経済的な利点を得ようとする者達であった。大人、子供、縁者、他人を問わずである。
もちろん中には純粋に友達として仲良くなろうとしていた者も居たには居たが、その多くは大豪院を利用しようとする者達によって関係を引き裂かれてしまっていた。
加えて大豪院には幼少時から科せられた『呪い』、いや『使命』があり、その命は人ならざる者達に常に狙われ続けていた。
彼の進む所、植木鉢やハサミはしょっちゅう落ちてくるし、自動車事故は多発する。終いには乗っていた飛行機が墜落する始末だ。
そういった事件が1つ起こる度に周りに居た人間が1人、また1人と離れて行った。大豪院を恐れて自発的に離れて行ったか、事故等に巻き込まれて強制的に去らざるを得なかったのかはこの際問題では無い。
結果大豪院には『友達』と呼べる存在は現れなかった。
そして大豪院は『人間関係』と言う「大豪院には有りもしないもの」を見限ってしまっていた。
この鍬形にしても結局は大豪院を利用しようと近づいて来ただけだ。大豪院を山車にして学園の覇権を握ろうとする小物の悪党だ。
そんな奴は今までの人生でゴマンと居たし、そんな奴らの末路も嫌と言うほど見てきた。
その中にあって身を挺してまで暴漢から大豪院を守ろうとした者は居なかったし、傍目にはまるで変化の無い彼の表情を読んだ者は、これまで家族の中にも居なかった。
まぁ表情は当てずっぽうが当たっただけの可能性はあるが……。
大豪院が他人に興味を持った初めての(エトの件は話には乗ったが、エト自身にはまるで興味が無い)経験である。
「『なぜ?』って… 俺らダチだろ、兄弟!」
質問の答えとして成立していない上に、友達なのか兄弟なのか判然としない鍬形の返答であるが、その顔に邪気は無い。
その笑顔に大豪院は言い知れぬ安心感を抱いていた。目の前のこの男も間違い無く近いうちに大豪院の元を離れていくだろう。ただそれまでの間、この男と行動を共にするのも面白いかも知れない、と思わせる位には2人の心は近づいていたと言える。
これまで『超越者』として人類とは別の種であるかの様に振る舞ってきた大豪院が、ほんの気まぐれで地上に降りてきた。と言う表現が一番近いかも知れないが、経緯はどうあれ大豪院は鍬形甲と言う男に興味を抱いた。
「危険だぞ…?」
会話の受け答えとして、これまた成立していない大豪院の言葉を直感的に理解した鍬形が、歓喜にその身を震わせる。
「はっ! 不運と踊るのが怖くて不良はやってらんねーぜ。これから瓢箪岳高校の頂点獲るんだからよ!」
大豪院には今ひとつ鍬形の言葉が理解出来ないでいたのだが、とりあえず鍬形が嬉しそうなので沈黙を守る事にした。
「そうと決まれば、もう今日は授業もサボってどっか遊びに… って、あの野々村に連絡しなきゃいけねーんだったな…」
昨日の野々村との約束を思い出し、鍬形は胸ポケットに忍ばせておいた野々村の名刺を取り出す。そこには彼女の名前と携帯番号、メールアドレス、一言SNSのIDが記されていた。
『で、これでどうすりゃいいんだ? いきなり電話とかして良いのか? メールとか面倒くさくてやった事ねぇし、この@chiyochiyoってのも意味が分からねぇ! ど、どうすれば…? ええぃ、ままよっ!』
鍬形は意を決して野々村の電話番号を入力しコールボタンを押す。
女性の携帯に電話を掛けるなど初めての事だ。途端に緊張が鍬形を襲う。呼び出し音が鳴るまでの数秒間、彼の鼓動はかつて無い程に大きく強い鼓動を打っていた。
やがてプルルルと言う電話の呼び出し音が鳴る… 事はせずに「この電話は現在電波の届かない所に居るか電源の入っていない状態…」と言う不通メッセージが再生された。
「あー、今まだ授業中だもんな…」
大きな期待に肩透かしを食らって賢者化する鍬形を、大豪院は不思議そうに見つめていた。
『大豪院は目立つから街をブラついていればすぐに見つかる』
と言う目論見が的中し、大豪院捜索は開始と共に発見に至った事ですこぶるご機嫌であった。
一方の大豪院はエトの残した「明日、この時間にまたここで話をしましょう」と言う言葉が頭から離れないまま、トボトボと1駅分歩いてきてしまった、と言う訳である。
「どうした? 元気無いな兄弟。ここに来るまでに何かあったのか?」
いつの間にか大豪院と『兄弟』になったらしい鍬形が大豪院を励ます様に声を掛ける。
普段から大豪院の表情筋はまるで仕事をしておらず、見た感じ昨日と寸分の狂いも無いように見受けられるのだが、その中から寸毫の違いを見抜いたのか、はたまた只の挨拶文句なのかは謎であるが、鍬形の言葉に大豪院は始めに出会ってからほぼ24時間ぶりの反応を見せた。
「何故、俺に構う…?」
正直、大豪院はこれまで鍬形の事など眼中に無かった。自身に纏わり付く羽虫と同様の感想しか抱いてこなかった。
これは別に鍬形に限った事では無い。大豪院のこれまでの人生において大豪院に関わりを持とうとする人間は少なく無かった。
大半は大豪院の巨体を隠れ蓑に悪さを企てる奴か、大豪院家の御曹司に取り入って経済的な利点を得ようとする者達であった。大人、子供、縁者、他人を問わずである。
もちろん中には純粋に友達として仲良くなろうとしていた者も居たには居たが、その多くは大豪院を利用しようとする者達によって関係を引き裂かれてしまっていた。
加えて大豪院には幼少時から科せられた『呪い』、いや『使命』があり、その命は人ならざる者達に常に狙われ続けていた。
彼の進む所、植木鉢やハサミはしょっちゅう落ちてくるし、自動車事故は多発する。終いには乗っていた飛行機が墜落する始末だ。
そういった事件が1つ起こる度に周りに居た人間が1人、また1人と離れて行った。大豪院を恐れて自発的に離れて行ったか、事故等に巻き込まれて強制的に去らざるを得なかったのかはこの際問題では無い。
結果大豪院には『友達』と呼べる存在は現れなかった。
そして大豪院は『人間関係』と言う「大豪院には有りもしないもの」を見限ってしまっていた。
この鍬形にしても結局は大豪院を利用しようと近づいて来ただけだ。大豪院を山車にして学園の覇権を握ろうとする小物の悪党だ。
そんな奴は今までの人生でゴマンと居たし、そんな奴らの末路も嫌と言うほど見てきた。
その中にあって身を挺してまで暴漢から大豪院を守ろうとした者は居なかったし、傍目にはまるで変化の無い彼の表情を読んだ者は、これまで家族の中にも居なかった。
まぁ表情は当てずっぽうが当たっただけの可能性はあるが……。
大豪院が他人に興味を持った初めての(エトの件は話には乗ったが、エト自身にはまるで興味が無い)経験である。
「『なぜ?』って… 俺らダチだろ、兄弟!」
質問の答えとして成立していない上に、友達なのか兄弟なのか判然としない鍬形の返答であるが、その顔に邪気は無い。
その笑顔に大豪院は言い知れぬ安心感を抱いていた。目の前のこの男も間違い無く近いうちに大豪院の元を離れていくだろう。ただそれまでの間、この男と行動を共にするのも面白いかも知れない、と思わせる位には2人の心は近づいていたと言える。
これまで『超越者』として人類とは別の種であるかの様に振る舞ってきた大豪院が、ほんの気まぐれで地上に降りてきた。と言う表現が一番近いかも知れないが、経緯はどうあれ大豪院は鍬形甲と言う男に興味を抱いた。
「危険だぞ…?」
会話の受け答えとして、これまた成立していない大豪院の言葉を直感的に理解した鍬形が、歓喜にその身を震わせる。
「はっ! 不運と踊るのが怖くて不良はやってらんねーぜ。これから瓢箪岳高校の頂点獲るんだからよ!」
大豪院には今ひとつ鍬形の言葉が理解出来ないでいたのだが、とりあえず鍬形が嬉しそうなので沈黙を守る事にした。
「そうと決まれば、もう今日は授業もサボってどっか遊びに… って、あの野々村に連絡しなきゃいけねーんだったな…」
昨日の野々村との約束を思い出し、鍬形は胸ポケットに忍ばせておいた野々村の名刺を取り出す。そこには彼女の名前と携帯番号、メールアドレス、一言SNSのIDが記されていた。
『で、これでどうすりゃいいんだ? いきなり電話とかして良いのか? メールとか面倒くさくてやった事ねぇし、この@chiyochiyoってのも意味が分からねぇ! ど、どうすれば…? ええぃ、ままよっ!』
鍬形は意を決して野々村の電話番号を入力しコールボタンを押す。
女性の携帯に電話を掛けるなど初めての事だ。途端に緊張が鍬形を襲う。呼び出し音が鳴るまでの数秒間、彼の鼓動はかつて無い程に大きく強い鼓動を打っていた。
やがてプルルルと言う電話の呼び出し音が鳴る… 事はせずに「この電話は現在電波の届かない所に居るか電源の入っていない状態…」と言う不通メッセージが再生された。
「あー、今まだ授業中だもんな…」
大きな期待に肩透かしを食らって賢者化する鍬形を、大豪院は不思議そうに見つめていた。
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