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第十章
第119話 おとこ
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「ううん?! おめーはさっきの…」
「はい、実は貴方を探していたんです。会えて良かったです」
厄介事から解放された野々村のホッとした瞬間の笑顔が夕日に映えて、鍬形の心に刺さる。
正直野々村は美人ではない。身長は169cmと睦美よりも長身で、髪型はヘルメットかと見紛う様な色気の無いパッツンボブ、体型は御影同様に女子としての凹凸に乏しい。
鼻筋は通っていて顔つきのバランスは悪くないのだが、目が細い上に一重まぶたなので余計に細く見える。似顔絵を描いたら間違いなく線一本で描写される目であった。
加えて普段使っている眼鏡も教育ママ御用達みたいな縁無しの細いタイプなので、余計に性格がキツそうに見えているのだ。
それでもどんな女性でも笑顔は魅力的な物である。それも作った笑顔では無くて、心の底から湧き出た自然な笑顔ならば尚更であろう。
『な、なんで俺、こんな線目のメガネ女なんかにドキッとしてんだよ?! しっかりしろ鍬形 甲! 瓢箪岳高校の頂点《てっぺん》獲るんだろ?! 女なんかに余所見をしている場合じゃ…』
「あの、どうかしましたか…?」
こちらを見たまま動きを止めてしまった鍬形を見て、野々村が怪訝そうに声を掛ける。
ちなみに野々村は女子としての自分の身分と立場をイヤと言うほど理解しているので、自分が男子から見初められる可能性などゼロであるとの強い自信を持っていた。従って鍬形の心の機微など野々村には到底察し得ようはずも無かったのである。
更に加えるなら野々村は元とは言え沖田彰馬の親衛隊メンバーだった。つまり彼女は『イケメン好き』であり、昔のヤンキー漫画の塩っぱい主人公の様な鍬形は『男性』として眼中に無い状態であった。
現状で色々と報われない鍬形であるが、彼はまだ自身の胸の動機の理由が今ひとつ理解出来ずに少々混乱していた。
「あ、いや、な、何でも無い何でも無い。所で『探してた』って、俺に何か用でもあったのか?」
心の中で『もしかして俺に一目惚れして告白しに来たのか?』などと頭ピンク色モードになっている鍬形は密かに期待する。
『やれやれ、あんまり可愛くないんだけど、ちょっと気になる娘ではあるよなぁ…』などと上から目線で考えたりもする。
「はい。貴方、あの大豪院覇皇帝くんと親しいのですか? ちょっと彼と話がしたいなぁ、と思いまして…」
鍬形の心象風景として、頑張って高く組み上げてきたブロックの城が、彼の目の前で音を立てて崩れ落ちて行った。
『…そうだよな。俺みたいな半端者を好きになってくれる女子なんて居るわけ無いよな… 大豪院の方が強くてデカくてカッコイイもんな…』
失意によって再び動きを止めた鍬形を気遣う野々村。何にしても大豪院を動かすにはこの鍬形という男が必要なのだ。いちいち動きを止めてもらっていては困る。
ここで野々村は大きな誤算をしているのだが、まだ本人は気がついていない。それは『女子や今風の男子と違って、昔風の男子やオッサンはあまり連絡先の交換などしない』という事だ。
鍬形も例に漏れず大豪院と連絡先のやり取りなど行っていないし、それ以前に大豪院が携帯電話の類を持っているのかどうかすら知らない。半日近く一緒に居て(付きまとって)、大豪院がどこかへ連絡しようとか何かを調べようとした場面が皆無だったのだ。
『それを正直に言ったら幻滅されてここでオサラバなんだろうな… それはそれでちょっとプライドが傷付くよな… よし、これも何かの縁だ!』
計算というにはあまりにも稚拙な思考で鍬形が導き出した答えは『よくわかんねぇけど助けになってやりたい』であった。
「そ、そんじゃあ、明日の昼休みにでも俺が大豪院を連れてきてやるよ! んで、どこに行けば良いんだ?」
そう言われて今度は野々村が考え込む。やはりマジボラ部室が妥当であろうか? しかし野々村の独断で決めてしまっても良いものかどうか…?
まだ大豪院が魔王軍の手先である可能性は残っているのだから、いきなり部室に呼び込んで睦美らに何かあったら即ゲームオーバーである。
「…彼を確保出来たら一度私に連絡を貰えますか? その後で私も合流しますから、それから移動しましょう」
そう言って野々村は鍬形に名前と彼女の連絡先の書かれた名刺を渡す。
野々村としては新聞部時代に取材用にと大量に作っていたカードを流用しただけであったが、生まれて初めて女子の連絡先を受け取った鍬形は驚きを隠せないでいた。
『いきなりこんな物渡されて、そんなすぐに女子に電話なんて出来るかよっ!』
業務連絡とはいえ男子と女子である。完全にビジネスライクと割り切っている野々村に比べて、鍬形の方は場数の足りなさからかあまりにも純情過ぎた。
それでも『明日は朝イチで大豪院と話つけねーとな… 連れてきてやるなんて言った手前、嘘つきにはなりたくねぇ』などと考える鍬形は良くも悪くも『漢』であった。
「はい、実は貴方を探していたんです。会えて良かったです」
厄介事から解放された野々村のホッとした瞬間の笑顔が夕日に映えて、鍬形の心に刺さる。
正直野々村は美人ではない。身長は169cmと睦美よりも長身で、髪型はヘルメットかと見紛う様な色気の無いパッツンボブ、体型は御影同様に女子としての凹凸に乏しい。
鼻筋は通っていて顔つきのバランスは悪くないのだが、目が細い上に一重まぶたなので余計に細く見える。似顔絵を描いたら間違いなく線一本で描写される目であった。
加えて普段使っている眼鏡も教育ママ御用達みたいな縁無しの細いタイプなので、余計に性格がキツそうに見えているのだ。
それでもどんな女性でも笑顔は魅力的な物である。それも作った笑顔では無くて、心の底から湧き出た自然な笑顔ならば尚更であろう。
『な、なんで俺、こんな線目のメガネ女なんかにドキッとしてんだよ?! しっかりしろ鍬形 甲! 瓢箪岳高校の頂点《てっぺん》獲るんだろ?! 女なんかに余所見をしている場合じゃ…』
「あの、どうかしましたか…?」
こちらを見たまま動きを止めてしまった鍬形を見て、野々村が怪訝そうに声を掛ける。
ちなみに野々村は女子としての自分の身分と立場をイヤと言うほど理解しているので、自分が男子から見初められる可能性などゼロであるとの強い自信を持っていた。従って鍬形の心の機微など野々村には到底察し得ようはずも無かったのである。
更に加えるなら野々村は元とは言え沖田彰馬の親衛隊メンバーだった。つまり彼女は『イケメン好き』であり、昔のヤンキー漫画の塩っぱい主人公の様な鍬形は『男性』として眼中に無い状態であった。
現状で色々と報われない鍬形であるが、彼はまだ自身の胸の動機の理由が今ひとつ理解出来ずに少々混乱していた。
「あ、いや、な、何でも無い何でも無い。所で『探してた』って、俺に何か用でもあったのか?」
心の中で『もしかして俺に一目惚れして告白しに来たのか?』などと頭ピンク色モードになっている鍬形は密かに期待する。
『やれやれ、あんまり可愛くないんだけど、ちょっと気になる娘ではあるよなぁ…』などと上から目線で考えたりもする。
「はい。貴方、あの大豪院覇皇帝くんと親しいのですか? ちょっと彼と話がしたいなぁ、と思いまして…」
鍬形の心象風景として、頑張って高く組み上げてきたブロックの城が、彼の目の前で音を立てて崩れ落ちて行った。
『…そうだよな。俺みたいな半端者を好きになってくれる女子なんて居るわけ無いよな… 大豪院の方が強くてデカくてカッコイイもんな…』
失意によって再び動きを止めた鍬形を気遣う野々村。何にしても大豪院を動かすにはこの鍬形という男が必要なのだ。いちいち動きを止めてもらっていては困る。
ここで野々村は大きな誤算をしているのだが、まだ本人は気がついていない。それは『女子や今風の男子と違って、昔風の男子やオッサンはあまり連絡先の交換などしない』という事だ。
鍬形も例に漏れず大豪院と連絡先のやり取りなど行っていないし、それ以前に大豪院が携帯電話の類を持っているのかどうかすら知らない。半日近く一緒に居て(付きまとって)、大豪院がどこかへ連絡しようとか何かを調べようとした場面が皆無だったのだ。
『それを正直に言ったら幻滅されてここでオサラバなんだろうな… それはそれでちょっとプライドが傷付くよな… よし、これも何かの縁だ!』
計算というにはあまりにも稚拙な思考で鍬形が導き出した答えは『よくわかんねぇけど助けになってやりたい』であった。
「そ、そんじゃあ、明日の昼休みにでも俺が大豪院を連れてきてやるよ! んで、どこに行けば良いんだ?」
そう言われて今度は野々村が考え込む。やはりマジボラ部室が妥当であろうか? しかし野々村の独断で決めてしまっても良いものかどうか…?
まだ大豪院が魔王軍の手先である可能性は残っているのだから、いきなり部室に呼び込んで睦美らに何かあったら即ゲームオーバーである。
「…彼を確保出来たら一度私に連絡を貰えますか? その後で私も合流しますから、それから移動しましょう」
そう言って野々村は鍬形に名前と彼女の連絡先の書かれた名刺を渡す。
野々村としては新聞部時代に取材用にと大量に作っていたカードを流用しただけであったが、生まれて初めて女子の連絡先を受け取った鍬形は驚きを隠せないでいた。
『いきなりこんな物渡されて、そんなすぐに女子に電話なんて出来るかよっ!』
業務連絡とはいえ男子と女子である。完全にビジネスライクと割り切っている野々村に比べて、鍬形の方は場数の足りなさからかあまりにも純情過ぎた。
それでも『明日は朝イチで大豪院と話つけねーとな… 連れてきてやるなんて言った手前、嘘つきにはなりたくねぇ』などと考える鍬形は良くも悪くも『漢』であった。
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