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第十章
第116話 ねつべん
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「あら『言いたいこと』? 何かしら?」
今の話題から議題を変えるか、つばめを無理矢理言いくるめるかで思案していた睦美にとっては、つばめの言葉は渡りに船であった。
この状況でつばめの言いたい事なんて十中八九なにかしらの文句であろうが、それこそ適当に言いくるめてしまえば済む事である。
「わたし気付いてしまったんですよ。わたしがマジボラに入部する条件として交した『わたしの恋の応援をする』って約束がまるで果たされていない事を!」
高らかに宣したつばめ。睦美には約束を果たすどころか「勝手にくっつくな」と無理矢理引き剥がされた事すらあるのだ。
つばめの話を聞いた他の3人はそれぞれ異なったリアクションを見せる。
久子は『そう言えばそんな約束してたかも』という顔で「おー」と手を合わせる。
野々村は『無邪気そうに見えてそんな狡っ辛い事してたの?』というドン引き顔。
そして睦美は『ちっ、覚えていやがったか…』という渋い顔だった。
「まぁ、ぶっちゃけわたしも今まで忘れていたので、今から何かをして欲しいとかは言いませんよ」
つばめは呼吸を整える為に一旦言葉を切る。
「だから、だからですね… せめてわたしの立てたフラグは折らずにそっとしておいて欲しいんです…」
睦美らの注目する中、つばめは顔を伏せ、舞台女優の様なアクションでガバと向き直り、言葉を繋げる。
「今度の土曜日は南瓢箪岳高校でサッカー部の練習試合があって、それの応援に行く約束をしているんです。先輩たちには分かってもらえないかもだけど、これは女の子にとって一大イベントなんですよ… だから、だからその日だけは部活に参加できません!!」
つばめは睦美の目を見ながら言い切った。たとえ瞼や、最悪呼吸器官を『固定』されようとつばめは戦い抜く覚悟だった。人生には何度か正面から戦わなければならない時があるのだ。
さすがの睦美も今のつばめの気迫には若干圧され気味である。
緊迫した空気の中、睦美は「フッ」と小さく笑いつばめに笑みを見せた。
「…負けたわ。土曜日はつばめ抜きでやりましょ。今まで何も出来なかった分、アンタのデートを応援させてもらうわ…」
観念した睦美を見て、つばめも笑顔になる。張り詰めていた緊張感が解けて自然に涙が溢れそうになる。
「先輩…」
「つばめ…」
目に涙を浮かべた女性2人が共に手を取り合い、友誼を確かめ合う。
「大一番の勝負ならそれなりの準備も必要でしょう? 今日はもう良いから帰って色々準備しなさい」
かつて見せた事の無いほど慈愛に満ちた睦美の表情に感激するつばめ。
「はい、失礼します! ありがとうございました!」
つばめは最敬礼の後、軽やかに部室を去っていった。
☆
「ふぅ、なんとか誤魔化せたわね…」
睦美は大きく息をついて額の汗を拭うふりをする。
「つばめちゃん青春してるなぁ!」
「いやぁ『何が始まったんだろう?』って思いながら見てましたよ」
久子と野々村も呪縛が解かれたかの様に動きを取り戻す。
「言ったでしょ? その場の勢いで何とか出来る娘なのよ、つばめは」
「でも本当に良いんですかぁ? 怪我人が出る事を考えたら、つばめちゃんが居ないと苦しくないですか?」
久子の質問に睦美は一瞬顔を曇らせる。
「と言っても無いものは仕方ないわ。つばめ抜きで作戦を考えましょう。2ヶ所攻撃される前提で… アタシとヒザ子、今回はアンドレにも手伝ってもらいましょう。で、つばめと蘭は無理。野々村… は戦力外だから、御影と新見(綿子)のヘルプは是が非でも欲しいわね…」
恐縮する野々村。直接の戦力外通告は厳しいが、バトルで役に立てないのは事実だ。
「さっきの大豪院くんとか、もしかして頼めば助けてくれませんかねぇ?」
久子の提案に睦美は渋い顔で応える。
「面識も無いのにいきなり頼んで動いてくれるタイプじゃないでしょアレは。何か弱みでも握ってるならまだしも…」
「あ、それならひょっとしてお役に立てるかも知れません!」
元気を取り戻した野々村が意気揚々と懐からスマホを取り出した。
「さっきの大豪院くんらのケンカを動画に収めてますから、それをゆすりネタに協力を働きかけるのは可能かと」
「そんなんでアイツが動くかねぇ…?」
野々村の提案にも懐疑的な睦美。
「じゃ、じゃああそこにいたもう1人の男子に声をかけてみます。もしかして彼の助けがあれば大豪院くんを動かせるかも…」
考え込み、野々村の提案の可能性を吟味する睦美。
「んじゃあそっちは任せるわ。期待しないで待ってる」
「ハイ!」
文字通り期待値ゼロの睦美と、マジボラ初ミッションで意気上がる野々村、対照的な構図である。
その時、睦美の横で再び久子の携帯が鳴る。先程と音が違うのは通話とショートメールの違いなのだろう。
久子が早速メールの内容を確認する。
「蘭ちゃんから続報です。襲撃の一か所は町の中央公園、もう一か所は南瓢箪岳高校近くのショッピングモールだそうです…」
久子から場所の報告を聞いた睦美は、その口元をニヤリと歪ませていた。
今の話題から議題を変えるか、つばめを無理矢理言いくるめるかで思案していた睦美にとっては、つばめの言葉は渡りに船であった。
この状況でつばめの言いたい事なんて十中八九なにかしらの文句であろうが、それこそ適当に言いくるめてしまえば済む事である。
「わたし気付いてしまったんですよ。わたしがマジボラに入部する条件として交した『わたしの恋の応援をする』って約束がまるで果たされていない事を!」
高らかに宣したつばめ。睦美には約束を果たすどころか「勝手にくっつくな」と無理矢理引き剥がされた事すらあるのだ。
つばめの話を聞いた他の3人はそれぞれ異なったリアクションを見せる。
久子は『そう言えばそんな約束してたかも』という顔で「おー」と手を合わせる。
野々村は『無邪気そうに見えてそんな狡っ辛い事してたの?』というドン引き顔。
そして睦美は『ちっ、覚えていやがったか…』という渋い顔だった。
「まぁ、ぶっちゃけわたしも今まで忘れていたので、今から何かをして欲しいとかは言いませんよ」
つばめは呼吸を整える為に一旦言葉を切る。
「だから、だからですね… せめてわたしの立てたフラグは折らずにそっとしておいて欲しいんです…」
睦美らの注目する中、つばめは顔を伏せ、舞台女優の様なアクションでガバと向き直り、言葉を繋げる。
「今度の土曜日は南瓢箪岳高校でサッカー部の練習試合があって、それの応援に行く約束をしているんです。先輩たちには分かってもらえないかもだけど、これは女の子にとって一大イベントなんですよ… だから、だからその日だけは部活に参加できません!!」
つばめは睦美の目を見ながら言い切った。たとえ瞼や、最悪呼吸器官を『固定』されようとつばめは戦い抜く覚悟だった。人生には何度か正面から戦わなければならない時があるのだ。
さすがの睦美も今のつばめの気迫には若干圧され気味である。
緊迫した空気の中、睦美は「フッ」と小さく笑いつばめに笑みを見せた。
「…負けたわ。土曜日はつばめ抜きでやりましょ。今まで何も出来なかった分、アンタのデートを応援させてもらうわ…」
観念した睦美を見て、つばめも笑顔になる。張り詰めていた緊張感が解けて自然に涙が溢れそうになる。
「先輩…」
「つばめ…」
目に涙を浮かべた女性2人が共に手を取り合い、友誼を確かめ合う。
「大一番の勝負ならそれなりの準備も必要でしょう? 今日はもう良いから帰って色々準備しなさい」
かつて見せた事の無いほど慈愛に満ちた睦美の表情に感激するつばめ。
「はい、失礼します! ありがとうございました!」
つばめは最敬礼の後、軽やかに部室を去っていった。
☆
「ふぅ、なんとか誤魔化せたわね…」
睦美は大きく息をついて額の汗を拭うふりをする。
「つばめちゃん青春してるなぁ!」
「いやぁ『何が始まったんだろう?』って思いながら見てましたよ」
久子と野々村も呪縛が解かれたかの様に動きを取り戻す。
「言ったでしょ? その場の勢いで何とか出来る娘なのよ、つばめは」
「でも本当に良いんですかぁ? 怪我人が出る事を考えたら、つばめちゃんが居ないと苦しくないですか?」
久子の質問に睦美は一瞬顔を曇らせる。
「と言っても無いものは仕方ないわ。つばめ抜きで作戦を考えましょう。2ヶ所攻撃される前提で… アタシとヒザ子、今回はアンドレにも手伝ってもらいましょう。で、つばめと蘭は無理。野々村… は戦力外だから、御影と新見(綿子)のヘルプは是が非でも欲しいわね…」
恐縮する野々村。直接の戦力外通告は厳しいが、バトルで役に立てないのは事実だ。
「さっきの大豪院くんとか、もしかして頼めば助けてくれませんかねぇ?」
久子の提案に睦美は渋い顔で応える。
「面識も無いのにいきなり頼んで動いてくれるタイプじゃないでしょアレは。何か弱みでも握ってるならまだしも…」
「あ、それならひょっとしてお役に立てるかも知れません!」
元気を取り戻した野々村が意気揚々と懐からスマホを取り出した。
「さっきの大豪院くんらのケンカを動画に収めてますから、それをゆすりネタに協力を働きかけるのは可能かと」
「そんなんでアイツが動くかねぇ…?」
野々村の提案にも懐疑的な睦美。
「じゃ、じゃああそこにいたもう1人の男子に声をかけてみます。もしかして彼の助けがあれば大豪院くんを動かせるかも…」
考え込み、野々村の提案の可能性を吟味する睦美。
「んじゃあそっちは任せるわ。期待しないで待ってる」
「ハイ!」
文字通り期待値ゼロの睦美と、マジボラ初ミッションで意気上がる野々村、対照的な構図である。
その時、睦美の横で再び久子の携帯が鳴る。先程と音が違うのは通話とショートメールの違いなのだろう。
久子が早速メールの内容を確認する。
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