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第九章
第113話 よそく
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大豪院への『イタズラ』が不発に終わった睦美は唖然としながら歩み去る大豪院達の背中を見つめていた。
「…? 睦美さま、どうかしましたかぁ?」
珍しく固まっている睦美を案じて久子が声を掛ける。野々村は魔法の効かない人種についての情報をまだ得ていないので、2人の横で怪訝そうな顔をしていた。
「どういう事…? アイツも邪魔具を持っている魔王軍の関係者なの? でなきゃこの世界の人間にアタシの魔法が効かないなんてあり得ないわ…」
神妙な顔つきで呟く睦美、その言葉で久子も粗方の状況を理解する。
「もぉ、睦美さまは誰彼構わずに魔法使ったら駄目ですよぉ? そのうち舞子ちゃんに逮捕されちゃいますからね?」
そう、睦美は以前、警察官である武藤にもイタズラ魔法を掛けている。
子供の様な可愛らしいイタズラ心では無く、多分にマウンティングの代替行為である所が厄介ではあるが……。
その時、不意に久子の携帯電話が呼び出し音を鳴らす。
余談であるが睦美は個人携帯を持たない。王女である睦美は常に『呼び出す立場』であり『呼ばれる立場』では無い。睦美と久子は四六時中を共にしている為に、応対は全て久子が執り行っている次第である。
「あ、蘭ちゃんからですね。ついでだからさっきの人が蘭ちゃんの関係者かどうか聞いてみましょう」
蘭の関係者。つまり魔王軍と繋がりのあるシン悪川興業の人間であるならば、魔法を遮断する『邪魔具』を持っていても不思議では無い。
尤も大豪院自身が魔王軍から命を狙われている身分なのだが、この世界でそれを知っているのは油小路とその部下のみであり、神の陣営ですらその情報は掴んでいない。
電話を受けて「ハイハイ?」「ふんふん」「そうなの?!」と、しばし電話口の向こうの蘭と談笑する久子。
「あ、それでねそれでね、蘭ちゃんに聞きたいんだけど、例の転校生の大っきい人って蘭ちゃんの関係者だったりする?」
話の終わりに近づいたのか、久子が蘭に問いかける。その答えはスピーカーモードにしていないにも関わらず、隣にいた睦美と野々村にも蘭の「はぁっ?」という声が聞こえた事でお分りいただけるだろう。
「蘭ちゃんも『そんな人が身内に居たら私が苦労しなくて済んでますよ』って言ってましたから違うみたいです。あと、今度の土曜日にまた悪さをするそうです。今度は2ヶ所で、詳しい時間と場所は追って連絡くれるそうです」
蘭との電話を終えた久子が一気に話す。
久子の報告にも睦美はどこか上の空て聞いていた。魔法が効かず、久子に伍するか或いは上回る膂力の持ち主が町中を闊歩しているのだ。
味方に取り込めれば大きいが、万が一それほどの人物が敵に回ると面倒な事この上ない。
そして何より、睦美の感じている原因不明の胸騒ぎは、彼を放置したままではいけないと、その勘が激しく主張していた。
「あの男に感じている違和感がアタシとヒザ子だけで野々村には感じない物だとしたら、アイツは王国の縁の者という可能性もあるわね。それなら魔法が効かない理由にもなるわ…」
誰ともなく呟いた睦美だが、その発言は即座に久子によって否定された。
「そんな事ある訳無いですよ睦美さま。だってあの人が本当に高1で15歳なら、王国が滅んだ時にはまだ生まれていない計算になりますよ? それにもし万が一魔法王国の生き残りがいたとしても、この世界に転移できたのは私達だけですから…」
「なら王国民の生き残りが魔王軍に捕まって戦士、或いは工作員として送り込まれてきた、って可能性は…?」
睦美の即座の切り返しに、久子は一瞬言葉を失ってしばらく考え込む。
「うーん… それでも違うと思います… 戦士なら軍団で攻めて来るでしょうし、工作員ならあんな目立つ人を選ばないんじゃないかなぁ…? と…」
久子に詰め寄っても答えが分かる訳ではない。睦美は深く息をつき「ゴメン、ちょっと熱くなったわ…」と素直に久子に詫びた。
「睦美さま、これは『もしかして』なのですが、もしあの人が王国に関係ある人だとしたら、私達よりもアンドレ先生の方が何かを掴めるかも知れませんよ。ホラ『魔力』よりも『気』とかそっち系は特に…」
久子の提案に、我が意を得たりと目を輝かせる睦美。
「なるほど、その発想は無かったわ。今日は冴えてるわねヒザ子! 急いで学校に戻るわよ!」
今ひとつ概要を飲み込めずに困惑する野々村を置いて、学校へと走り始めた睦美を追う久子の顔は、笑顔満開のとても満ち足りた表情をしていた。
「…? 睦美さま、どうかしましたかぁ?」
珍しく固まっている睦美を案じて久子が声を掛ける。野々村は魔法の効かない人種についての情報をまだ得ていないので、2人の横で怪訝そうな顔をしていた。
「どういう事…? アイツも邪魔具を持っている魔王軍の関係者なの? でなきゃこの世界の人間にアタシの魔法が効かないなんてあり得ないわ…」
神妙な顔つきで呟く睦美、その言葉で久子も粗方の状況を理解する。
「もぉ、睦美さまは誰彼構わずに魔法使ったら駄目ですよぉ? そのうち舞子ちゃんに逮捕されちゃいますからね?」
そう、睦美は以前、警察官である武藤にもイタズラ魔法を掛けている。
子供の様な可愛らしいイタズラ心では無く、多分にマウンティングの代替行為である所が厄介ではあるが……。
その時、不意に久子の携帯電話が呼び出し音を鳴らす。
余談であるが睦美は個人携帯を持たない。王女である睦美は常に『呼び出す立場』であり『呼ばれる立場』では無い。睦美と久子は四六時中を共にしている為に、応対は全て久子が執り行っている次第である。
「あ、蘭ちゃんからですね。ついでだからさっきの人が蘭ちゃんの関係者かどうか聞いてみましょう」
蘭の関係者。つまり魔王軍と繋がりのあるシン悪川興業の人間であるならば、魔法を遮断する『邪魔具』を持っていても不思議では無い。
尤も大豪院自身が魔王軍から命を狙われている身分なのだが、この世界でそれを知っているのは油小路とその部下のみであり、神の陣営ですらその情報は掴んでいない。
電話を受けて「ハイハイ?」「ふんふん」「そうなの?!」と、しばし電話口の向こうの蘭と談笑する久子。
「あ、それでねそれでね、蘭ちゃんに聞きたいんだけど、例の転校生の大っきい人って蘭ちゃんの関係者だったりする?」
話の終わりに近づいたのか、久子が蘭に問いかける。その答えはスピーカーモードにしていないにも関わらず、隣にいた睦美と野々村にも蘭の「はぁっ?」という声が聞こえた事でお分りいただけるだろう。
「蘭ちゃんも『そんな人が身内に居たら私が苦労しなくて済んでますよ』って言ってましたから違うみたいです。あと、今度の土曜日にまた悪さをするそうです。今度は2ヶ所で、詳しい時間と場所は追って連絡くれるそうです」
蘭との電話を終えた久子が一気に話す。
久子の報告にも睦美はどこか上の空て聞いていた。魔法が効かず、久子に伍するか或いは上回る膂力の持ち主が町中を闊歩しているのだ。
味方に取り込めれば大きいが、万が一それほどの人物が敵に回ると面倒な事この上ない。
そして何より、睦美の感じている原因不明の胸騒ぎは、彼を放置したままではいけないと、その勘が激しく主張していた。
「あの男に感じている違和感がアタシとヒザ子だけで野々村には感じない物だとしたら、アイツは王国の縁の者という可能性もあるわね。それなら魔法が効かない理由にもなるわ…」
誰ともなく呟いた睦美だが、その発言は即座に久子によって否定された。
「そんな事ある訳無いですよ睦美さま。だってあの人が本当に高1で15歳なら、王国が滅んだ時にはまだ生まれていない計算になりますよ? それにもし万が一魔法王国の生き残りがいたとしても、この世界に転移できたのは私達だけですから…」
「なら王国民の生き残りが魔王軍に捕まって戦士、或いは工作員として送り込まれてきた、って可能性は…?」
睦美の即座の切り返しに、久子は一瞬言葉を失ってしばらく考え込む。
「うーん… それでも違うと思います… 戦士なら軍団で攻めて来るでしょうし、工作員ならあんな目立つ人を選ばないんじゃないかなぁ…? と…」
久子に詰め寄っても答えが分かる訳ではない。睦美は深く息をつき「ゴメン、ちょっと熱くなったわ…」と素直に久子に詫びた。
「睦美さま、これは『もしかして』なのですが、もしあの人が王国に関係ある人だとしたら、私達よりもアンドレ先生の方が何かを掴めるかも知れませんよ。ホラ『魔力』よりも『気』とかそっち系は特に…」
久子の提案に、我が意を得たりと目を輝かせる睦美。
「なるほど、その発想は無かったわ。今日は冴えてるわねヒザ子! 急いで学校に戻るわよ!」
今ひとつ概要を飲み込めずに困惑する野々村を置いて、学校へと走り始めた睦美を追う久子の顔は、笑顔満開のとても満ち足りた表情をしていた。
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