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第七章

第93話 ひかり

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 変態して小枝を持ったまま固まる野々村。周りにはそんな野々村に何かを期待しているかの様に目を煌めかせた4人の女子高生(平均年齢20.75歳)がいた。

『ホントに何がどうしてこうなったの? 何で誰も何も説明してくれないの? この妙な羞恥プレイが私への罰だと言うの?!』

 恥ずかしさと不条理への怒りで顔を赤くし、わずかに涙ぐむ野々村。

『何よ! 私を笑い者して晒し上げたいならそう言えばいいじゃない! こんな… こんな陰険な事しなくても…』

 自身の行為を棚に上げ、恨み言で頭が埋まる野々村の手をそっと握る者が居た。

「大丈夫、落ち着いて呪文を唱えれば大丈夫だよ…」

 久子が野々村の手を取り励ます。

 久子の屈託の無い笑顔に『これは復讐の為の悪意の儀式だ』という野々村の疑心暗鬼も、差し込んだ光が影を駆逐する様に徐々に晴れていった。

「は… はい…」

 野々村は大きく息を吸う。

「行きます… 『こうかきょきゅこうか…』」

 最早様式美とも言える噛みタイム。ごっそりと魔力を奪われ頭痛を引き起こしながらも周囲を窺う野々村。

「…取って食ったりしないから落ち着きなさいよ」
「ドンマイだよ、千代美ちゃん!」
「あー、『か行』って結構難易度高いかもですねー」
「そうねぇ… 私も『か行』責めは自信ないかも…」

 4人が好き勝手に論評している。しかし、怒ったり嘲笑っている者が居ない為に、どうやら罰ゲームのたぐいでは無いと理解する。

 はっきりと認識できるのは、いま野々村に向けられている視線はいずれも暖かく、彼女を激励しようとしてくれている視線だと言う事だ。

 そして全員の『さぁ、再チャレンジだ!』との無言の圧力も……。

 野々村は小枝を高く掲げ、再び大きく息を吸う。

「こ… こうかきょうきょうきゃくぶ…」

 何とか噛まずに言えた事を名も知らぬ神に感謝する野々村。今後2度と噛まずに言える気がしないのだから尚更だろう。

 これまでの彼女は唯物論的な思考の持ち主で、これまでの人生でもキッパリ『神など居ない』と断言してきた。
 しかし今、野々村は神の存在を身近に感じている。彼女を導く光がその存在を指し示している。
 辺りを煌煌と照らし出す、手にした小枝からの力を野々村ははっきりと感じていた。

『何の細工もされていない小枝が光る』視力の事も併せて、これが神の御技みわざで無くて何であると言うのか? その対象は不明ではあるが、今まさに野々村千代美が信仰に目覚めた瞬間であった。

「光りましたねぇ…」

 久子の呟きから全員が沈黙する。文字通り『光った』それだけであったから。

 神との出会いを満喫して恍惚としていた野々村とは対称的に、マジボラのメンバーは反応に困って固まっていた。

「え、えーと、千代美ちゃん凄いよ、初魔法だよ! おめでとう!」
「そ、そうだね。凄いキレイだよ!」
「これで夜間戦も対策バッチリ! …的な?」

 久子、つばめ、蘭が何とかフォローしようと、懸命に言葉を捻り出す中で、

「光るだけなら100均の懐中電灯の方が使い勝手良さそうねぇ…」

 睦美だけが率直な意見を述べていた。

「あ… でも何だかほんのり温かいですよぉ?」

 久子がフォローに入るも、

「…じゃあLEDじゃなくて白熱灯なのかしら? 夏場は余計鬱陶しいわねぇ。蘭とセットで活用しなきゃならないじゃないの…」

 返す刀の睦美のコメントでバッサリと斬られてしまう。

「…………」

 せっかくの新メンバーの前なのに、気の利いたコメントが思いつかずに、互いに苦笑いで「あはは…」「うふふ…」と視線を交わす久子、つばめ、蘭。

 一方の野々村は神との邂逅(?)を経て、興奮冷めやらぬ様子で睦美らに問いかける。

「そう言えばここって魔法奉仕同好会ですよね? 書類上活動実績らしい実績も無く、噂では部室は『開かずの扉』で、『中には昔、幽閉されて殺された女生徒の怨霊が出る』なんて噂も聞いてましたけど、密かにその名の通り魔法少女達が正義の戦いをしていたんですね?!」

 野々村とて子供の頃は『その手の』アニメをよく見ていたし、むしろ大好きだった。親に映画に連れて行ってもらい、懸命に「プイクアがんばえ~!」とミラクルライトを振ったものだ。

 そしていつしか『その手の』番組を「幼稚だ」「下らない」と考える様になり、視聴する事も無くなっていった。

 だが、現実に変態して実際に魔法を発動させた野々村はかつての童心、『正義と友情を尊ぶ心』を取り戻していた。

『神と出会い』『正義に目覚めた』

 今の野々村は、嫉妬心から同級生のネガティブキャンペーンを張ったり、罠に誘い込んで暴行事件を起こさせようとしていた頃の『汚い野々村』では無い。

『光に導かれた戦士』&『この世に救済をもたらす正義の魔法少女』として浄化され覚醒した事で、本来冷静な性格のはずの彼女は、かつて無い興奮の極みにいた。

「私、魔法奉仕同好会への入部を希望します! この満ち足りた気持ちを1人でも多くの人に分けて上げたいです…」

 魔法にる事無く、キラキラと瞳を輝かせて話す野々村のあまりの変わり様に、『何かヤベーの来ちゃったよ…』とドン引きしつつもリアクションが取れずに固まる4人。やがて睦美が「つばめ、ちょっと…」と手招きする。

「さっき『マジボラが思っているような良い所じゃない』って言ってた罰。アンタがしっかりアイツの面倒見なさいよね」

睦美の地獄耳に戦慄しつつ、体のいい厄介払いを押し付けられたつばめは、隣にいる蘭の腕をガッチリ掴んで「友達だよね…?」と縋る目つきで呟いた。
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