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第六章
第72話 こいばな
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「え?! マジで?! だれだれ?!」
話題を変えようと投入した釣り餌であったが、早速入れ食い状態でつばめが釣れた。むしろその変わり身の早さに蘭の方が戸惑いを隠せない。
そして蘭はこっそりと服のボタンに仕掛けられた盗聴機のマイクのスイッチを切る。あの繁蔵に自分の恋バナを聞かれるなんて、とてもではないが耐えられるものではない。乙女のプライバシー保護は重要なのだ。
「う、うん… でも名前とか学年やクラスも何も分かんないんだよ。背が高くて多分サッカー部の子なのかな? っていうくらいで…」
言いながら顔を赤らめる蘭。まだ『気になる』レベルではあるが、戦闘中に助けてくれた彼の事を考えると、蘭の体温が1度ほど上昇する様な感覚を覚える。
「おぉー、何か良いねぇ。カッコ良い人? サッカー部なら沖田くんに聞けば誰だか分かるかも知れないよ?」
食いついて離れないつばめ。入れ食いではあったが、そのパワーに逆に蘭の方が海に引きずられそうになっていた。
「う、うん… あ、そう言えばつばめちゃんの方はその『沖田くん』と仲直り出来たの?」
つばめと蘭の出会いは、沖田に捨てられて(そういう訳では無いが)傷心のつばめを蘭が介抱した事が始まりだ。
蘭としては女の子を泣かせたデリカシーの足りない沖田に対して、せめて一言苦言を申したい所ではあるのだが、蘭は沖田とは面識が無い(と思っている)ので、誰に言えば良いのか分からない状態でもある。
「あ… うん! わたしの方は次の日にちゃんと挨拶できたから大丈夫! それよりももっと蘭ちゃんの話を聞かせろ下さい。詳細キボンヌ」
ふた昔前のネット民の様な事を言うつばめ。
「うーん、自分で話題を振っておいてナンだけど。これ以上聞かせる話なんて無いよ。まだそんな『好き』とかいう段階でも無いし…」
そこでつばめは蘭の手を取って強く握る。蘭の顔を覗き込み、満面の笑顔を見せた。
「違うよ蘭ちゃん! 女の子はね、もう『気になる』レベルは『好き』って事なんだよ。『ゲゲッ、何だコイツは?!』って思った瞬間に恋が始まるんだよ!」
つばめの熱意についていけない蘭。顔を引きつらせつつ「そ、そうなのかな…?」とだけ答えるのが精一杯だった。
「まずはその人の特徴を教えて。沖田くんに聞いてあげるよ。わたし絶対蘭ちゃんの恋を応援するからね!」
当然ながら蘭の『気になる人』が沖田その人だとは、つばめはもちろん蘭本人も知らない事だ。
つばめとしては蘭の恋を応援したい気持ちも強くあるが、むしろそれをネタに沖田と話す話題が出来た事に喜びを感じていた。
そしてつばめにここまで強く言われてしまっては、段々とその気になってきて件の男子が余計に気になってしまう蘭。その顔は既に林檎のように赤い。
「特徴って言われても… 背が高くてサッカーボール蹴ってて、サラサラっぽい茶髪… とか、そのくらいしか…」
『うん? 背が高くてサラサラ茶髪…? それって沖田くんの特徴に似ているけど、まさか蘭ちゃん…』
非常に重要なヒントを得て、あと一歩で真実に迫るところまで来たつばめだったが、
『…けどまぁ、きっとサッカー部ならそんな人ゴマンといるよね!』
情報の一切合切を無視して虚構に逃避する。『蘭の好きな人も沖田』という、つばめとしては一番考えたくない事態には仕方の無い対応と言えるだろう。
「そしたら馴れ初めを教えてよ。どんな経緯で知り合ったの?」
時系列を追って話を聞いていけば有力な手掛かりが掴めるかも知れない。そんな事は考えないつばめは好奇心のままに蘭に詰め寄る。
「え…? あの、昨日ちょっとピンチになりかけた所を助けてもらったの…」
「ほほぉー、カッコ良いねぇー。こりゃもう運命の出会いなんじゃないのー?」
無責任に囃し立てるつばめ。蘭をその気にさせても、つばめにとっては自殺行為以外の何物でも無いのだが、まさに『知らぬが仏』である。
「向こうも蘭ちゃんのキレイな顔を見てたらビビッと来ちゃってたんじゃないのぉ? 蘭ちゃんは黒の衣装で変身の前後にあまり差が無いから、学校で出会ったら向こうもすぐわかっちゃったりして」
楽しそうに話すつばめと対称的に、顔を真っ赤に染めて俯く蘭。少なくともつばめのせいで、蘭が昼まで抱いていた『錯覚かも?』という気持ちは消えてしまっていた。
「後で沖田くんに聞いておいて上げるから期待してて。わたし全力で応援しちゃうからね!」
予鈴と共に教室へと帰っていくつばめを見送りつつ、蘭は大きく息をつく。未だに顔は熱いし心臓のドキドキも治まらない。
火照った体を冷やす様に、手で顔を扇いで気持ちを鎮める。
「もう、本当にお節介なんだから…」
やっと口を出た言葉。その内容とは裏腹に蘭の口元は微かに緩んでいた。
暖かい気持ちで蘭も午後の授業に備えて教室への帰路につく。そんな蘭に後ろから声をかける人物が居た。
「ちょっと良いかい? 悪の女幹部ウマナミレイ?さん…」
蘭が振り返った先に居たのは、冷ややかな微笑みを浮かべた睦美であった。
話題を変えようと投入した釣り餌であったが、早速入れ食い状態でつばめが釣れた。むしろその変わり身の早さに蘭の方が戸惑いを隠せない。
そして蘭はこっそりと服のボタンに仕掛けられた盗聴機のマイクのスイッチを切る。あの繁蔵に自分の恋バナを聞かれるなんて、とてもではないが耐えられるものではない。乙女のプライバシー保護は重要なのだ。
「う、うん… でも名前とか学年やクラスも何も分かんないんだよ。背が高くて多分サッカー部の子なのかな? っていうくらいで…」
言いながら顔を赤らめる蘭。まだ『気になる』レベルではあるが、戦闘中に助けてくれた彼の事を考えると、蘭の体温が1度ほど上昇する様な感覚を覚える。
「おぉー、何か良いねぇ。カッコ良い人? サッカー部なら沖田くんに聞けば誰だか分かるかも知れないよ?」
食いついて離れないつばめ。入れ食いではあったが、そのパワーに逆に蘭の方が海に引きずられそうになっていた。
「う、うん… あ、そう言えばつばめちゃんの方はその『沖田くん』と仲直り出来たの?」
つばめと蘭の出会いは、沖田に捨てられて(そういう訳では無いが)傷心のつばめを蘭が介抱した事が始まりだ。
蘭としては女の子を泣かせたデリカシーの足りない沖田に対して、せめて一言苦言を申したい所ではあるのだが、蘭は沖田とは面識が無い(と思っている)ので、誰に言えば良いのか分からない状態でもある。
「あ… うん! わたしの方は次の日にちゃんと挨拶できたから大丈夫! それよりももっと蘭ちゃんの話を聞かせろ下さい。詳細キボンヌ」
ふた昔前のネット民の様な事を言うつばめ。
「うーん、自分で話題を振っておいてナンだけど。これ以上聞かせる話なんて無いよ。まだそんな『好き』とかいう段階でも無いし…」
そこでつばめは蘭の手を取って強く握る。蘭の顔を覗き込み、満面の笑顔を見せた。
「違うよ蘭ちゃん! 女の子はね、もう『気になる』レベルは『好き』って事なんだよ。『ゲゲッ、何だコイツは?!』って思った瞬間に恋が始まるんだよ!」
つばめの熱意についていけない蘭。顔を引きつらせつつ「そ、そうなのかな…?」とだけ答えるのが精一杯だった。
「まずはその人の特徴を教えて。沖田くんに聞いてあげるよ。わたし絶対蘭ちゃんの恋を応援するからね!」
当然ながら蘭の『気になる人』が沖田その人だとは、つばめはもちろん蘭本人も知らない事だ。
つばめとしては蘭の恋を応援したい気持ちも強くあるが、むしろそれをネタに沖田と話す話題が出来た事に喜びを感じていた。
そしてつばめにここまで強く言われてしまっては、段々とその気になってきて件の男子が余計に気になってしまう蘭。その顔は既に林檎のように赤い。
「特徴って言われても… 背が高くてサッカーボール蹴ってて、サラサラっぽい茶髪… とか、そのくらいしか…」
『うん? 背が高くてサラサラ茶髪…? それって沖田くんの特徴に似ているけど、まさか蘭ちゃん…』
非常に重要なヒントを得て、あと一歩で真実に迫るところまで来たつばめだったが、
『…けどまぁ、きっとサッカー部ならそんな人ゴマンといるよね!』
情報の一切合切を無視して虚構に逃避する。『蘭の好きな人も沖田』という、つばめとしては一番考えたくない事態には仕方の無い対応と言えるだろう。
「そしたら馴れ初めを教えてよ。どんな経緯で知り合ったの?」
時系列を追って話を聞いていけば有力な手掛かりが掴めるかも知れない。そんな事は考えないつばめは好奇心のままに蘭に詰め寄る。
「え…? あの、昨日ちょっとピンチになりかけた所を助けてもらったの…」
「ほほぉー、カッコ良いねぇー。こりゃもう運命の出会いなんじゃないのー?」
無責任に囃し立てるつばめ。蘭をその気にさせても、つばめにとっては自殺行為以外の何物でも無いのだが、まさに『知らぬが仏』である。
「向こうも蘭ちゃんのキレイな顔を見てたらビビッと来ちゃってたんじゃないのぉ? 蘭ちゃんは黒の衣装で変身の前後にあまり差が無いから、学校で出会ったら向こうもすぐわかっちゃったりして」
楽しそうに話すつばめと対称的に、顔を真っ赤に染めて俯く蘭。少なくともつばめのせいで、蘭が昼まで抱いていた『錯覚かも?』という気持ちは消えてしまっていた。
「後で沖田くんに聞いておいて上げるから期待してて。わたし全力で応援しちゃうからね!」
予鈴と共に教室へと帰っていくつばめを見送りつつ、蘭は大きく息をつく。未だに顔は熱いし心臓のドキドキも治まらない。
火照った体を冷やす様に、手で顔を扇いで気持ちを鎮める。
「もう、本当にお節介なんだから…」
やっと口を出た言葉。その内容とは裏腹に蘭の口元は微かに緩んでいた。
暖かい気持ちで蘭も午後の授業に備えて教室への帰路につく。そんな蘭に後ろから声をかける人物が居た。
「ちょっと良いかい? 悪の女幹部ウマナミレイ?さん…」
蘭が振り返った先に居たのは、冷ややかな微笑みを浮かべた睦美であった。
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