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第四章
第53話 てんまつ
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前回ほとんど出番の無かったつばめだが、もちろん遊んでいた訳ではない。むしろある意味、一番頑張っていたのはつばめだったと言っても過言では無いだろう。
つばめの治療行為もエコモードに開眼してからは順調『だった』。
過去形なのはエコモードであっても既に魔力を使い切って、現在地面にへたり込んで肩で息をしている状態であったからだ。
それでも通常モードで3人、エコモードで7人の合計10人の怪我を治せた。多少のバラつきはある物の、全員がつばめに対し多量の『感謝のエナジー』を放っていたのは紛れも無い事実であった。
事件の通報を受けてか、ようやく警察と消防(救急)が昼下がりの河川敷に集まり始めていた。
別に悪い事をしている訳では無いので、堂々としていても問題は無かったのだろうが、以前睦美から聞いた「魔法少女の存在を公にされると感謝エナジーが溜めにくくなる(意訳)」という話を思い出し、官憲に捕捉されるのは上策では無いと思い至る。
痛む頭を抱えつつも何とか平気な風を装い、警察の目を逃れて物陰に入り変態を解いた次第である。
警察が現場の状況を理解しようと、子コウモリに襲われた事件の被害者らを始め、その場に居合わせた民間人らに聞き込みを始める。
当然『無償で怪我の手当をして去っていった桃色の髪と服の少女』が話題の中心に上がるが、魔法少女のユニフォームによる認識阻害効果により誰もつばめの人相を覚えておらず、高齢の被害者の中には「赤い服」や「青い髪」などと認識阻害というよりも痴呆症を心配すべき証言をする者もおり、警察も少なからず混乱する事になる。
コウモリ怪人を倒した睦美も、頭を負傷したままの久子を抱えて動けなくなっていた。とりあえず変態を解き、事件の被害者に紛れて指定された避難場所に避難していた。
「…久子先輩、怪我してるんですか?!」
避難場所に足取り重くやって来て、ようやく合流できたつばめの第一声だ。治療してやりたいが、つばめ自身も立っているのがやっとで術を施せる状態では無い。
「このコは頑丈だから、この程度の傷なら絆創膏でも貼っておけば大丈夫よ。それよりアンタこそ大丈夫なの?」
睦美の言葉には『具合は大丈夫なのか?』と『マジボラの秘匿性は守られたのか?』の2つの意味があった。そしてその両方をつばめは理解し感じ取った。
「これ以上の魔法は多分無理です。でも怪我とかはしてません。正体もバレてない… と思います」
前者はともかく後者は自信が無い。客観的に検証する手段が無いのだから「~と思う」としか言いようが無い。
「そう…」
睦美はそれだけ答えると一度目を伏せ、数秒間何かを思案してつばめに『笑顔』を向ける。
「…何はともあれアタシ達の勝利よ。アンタの頑張りはアタシの魔法石にヒシヒシと伝わってきてたわ。よし、帰ってパーティーの続きをしましょう!」
胸元に手を当てて誇らしそうに笑顔を見せる睦美。
つばめはまたしてもネーミングの妙に引き攣った薄笑いを浮かべるのが精一杯だった。
☆
「はっ、ここは…?!」
薄暗い部屋で目が覚めたウマナミレイ?こと増田蘭。ここは見慣れたシン悪川興業の手術室の様だ。彼女の最後の記憶はオレンジ色の魔法少女と頭突き対決をしていた所までで途切れている。
うっすらと残る額の痛みがその事実を補強していた。
恐らくはあのまま気を失って、緊急脱出モードでここまで逃れてきたのであろう。
「気がついたか蘭。ねぇ何で『邪魔具』を持たせてるのにわざわざ肉弾戦やってんの? お爺ちゃん、お前の脳みそまでゴリラにした覚えは無いよ?」
壁のスピーカーから祖父である増田 繁蔵の厭味ったらしい声が響く。
「…うるさいなぁ。『現場の判断』ってやつよ。この感じだとコウモリ怪人もやられちゃったみたいね…」
特に懇意にしていた訳でも無かったが、クモ怪人に比べれば哺乳類であるコウモリの怪人はまだ正視できるデザインだった。
「そりゃもうキレイにサイコロステーキに加工されちゃったよ。もしお前が目の前でアレ見てたら、あまりのグロさにオシッコ漏らしてたね」
「そりゃ見れなくて残念ね… 所でマジボラって何者なの? 只のアブナイコスプレ集団じゃないの?」
蘭の問いにしばし沈黙する繁蔵。
「少なくともワシは知らん。今魔王様の方に問い合わせているから、そっち関係で何か分かるかも知れんけど…」
「そう… 何にしても面倒な奴らね。私が人間に戻るのを邪魔されるのは許せないわ…」
蘭とて元は普通の女子高生だ、好きで戦いに身を投じている訳では無い。成さねばならない『願い』があるのだ。簡単に譲る訳にはいかない。
「そうじゃな… とりあえず今度は頭突き勝負に勝てる様に、お前の額に鉄板を仕込んでおいたからな、頑張れよ!」
「おいそれバトル漫画で2コマでやられるザコ敵のよくやる改造ぉぉっ!!」
蘭の孤独な叫びが決して狭くはない手術室に響き渡った……。
つばめの治療行為もエコモードに開眼してからは順調『だった』。
過去形なのはエコモードであっても既に魔力を使い切って、現在地面にへたり込んで肩で息をしている状態であったからだ。
それでも通常モードで3人、エコモードで7人の合計10人の怪我を治せた。多少のバラつきはある物の、全員がつばめに対し多量の『感謝のエナジー』を放っていたのは紛れも無い事実であった。
事件の通報を受けてか、ようやく警察と消防(救急)が昼下がりの河川敷に集まり始めていた。
別に悪い事をしている訳では無いので、堂々としていても問題は無かったのだろうが、以前睦美から聞いた「魔法少女の存在を公にされると感謝エナジーが溜めにくくなる(意訳)」という話を思い出し、官憲に捕捉されるのは上策では無いと思い至る。
痛む頭を抱えつつも何とか平気な風を装い、警察の目を逃れて物陰に入り変態を解いた次第である。
警察が現場の状況を理解しようと、子コウモリに襲われた事件の被害者らを始め、その場に居合わせた民間人らに聞き込みを始める。
当然『無償で怪我の手当をして去っていった桃色の髪と服の少女』が話題の中心に上がるが、魔法少女のユニフォームによる認識阻害効果により誰もつばめの人相を覚えておらず、高齢の被害者の中には「赤い服」や「青い髪」などと認識阻害というよりも痴呆症を心配すべき証言をする者もおり、警察も少なからず混乱する事になる。
コウモリ怪人を倒した睦美も、頭を負傷したままの久子を抱えて動けなくなっていた。とりあえず変態を解き、事件の被害者に紛れて指定された避難場所に避難していた。
「…久子先輩、怪我してるんですか?!」
避難場所に足取り重くやって来て、ようやく合流できたつばめの第一声だ。治療してやりたいが、つばめ自身も立っているのがやっとで術を施せる状態では無い。
「このコは頑丈だから、この程度の傷なら絆創膏でも貼っておけば大丈夫よ。それよりアンタこそ大丈夫なの?」
睦美の言葉には『具合は大丈夫なのか?』と『マジボラの秘匿性は守られたのか?』の2つの意味があった。そしてその両方をつばめは理解し感じ取った。
「これ以上の魔法は多分無理です。でも怪我とかはしてません。正体もバレてない… と思います」
前者はともかく後者は自信が無い。客観的に検証する手段が無いのだから「~と思う」としか言いようが無い。
「そう…」
睦美はそれだけ答えると一度目を伏せ、数秒間何かを思案してつばめに『笑顔』を向ける。
「…何はともあれアタシ達の勝利よ。アンタの頑張りはアタシの魔法石にヒシヒシと伝わってきてたわ。よし、帰ってパーティーの続きをしましょう!」
胸元に手を当てて誇らしそうに笑顔を見せる睦美。
つばめはまたしてもネーミングの妙に引き攣った薄笑いを浮かべるのが精一杯だった。
☆
「はっ、ここは…?!」
薄暗い部屋で目が覚めたウマナミレイ?こと増田蘭。ここは見慣れたシン悪川興業の手術室の様だ。彼女の最後の記憶はオレンジ色の魔法少女と頭突き対決をしていた所までで途切れている。
うっすらと残る額の痛みがその事実を補強していた。
恐らくはあのまま気を失って、緊急脱出モードでここまで逃れてきたのであろう。
「気がついたか蘭。ねぇ何で『邪魔具』を持たせてるのにわざわざ肉弾戦やってんの? お爺ちゃん、お前の脳みそまでゴリラにした覚えは無いよ?」
壁のスピーカーから祖父である増田 繁蔵の厭味ったらしい声が響く。
「…うるさいなぁ。『現場の判断』ってやつよ。この感じだとコウモリ怪人もやられちゃったみたいね…」
特に懇意にしていた訳でも無かったが、クモ怪人に比べれば哺乳類であるコウモリの怪人はまだ正視できるデザインだった。
「そりゃもうキレイにサイコロステーキに加工されちゃったよ。もしお前が目の前でアレ見てたら、あまりのグロさにオシッコ漏らしてたね」
「そりゃ見れなくて残念ね… 所でマジボラって何者なの? 只のアブナイコスプレ集団じゃないの?」
蘭の問いにしばし沈黙する繁蔵。
「少なくともワシは知らん。今魔王様の方に問い合わせているから、そっち関係で何か分かるかも知れんけど…」
「そう… 何にしても面倒な奴らね。私が人間に戻るのを邪魔されるのは許せないわ…」
蘭とて元は普通の女子高生だ、好きで戦いに身を投じている訳では無い。成さねばならない『願い』があるのだ。簡単に譲る訳にはいかない。
「そうじゃな… とりあえず今度は頭突き勝負に勝てる様に、お前の額に鉄板を仕込んでおいたからな、頑張れよ!」
「おいそれバトル漫画で2コマでやられるザコ敵のよくやる改造ぉぉっ!!」
蘭の孤独な叫びが決して狭くはない手術室に響き渡った……。
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