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第四章

第51話 げきとう

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「よーっし、じゃあ行くよぉっ! 私は… えーっと何だっけ…? そうそう『ドリームエターナル』! 勝負だよウマナミレイちゃん!」

「自分の名前忘れんな! あと『ウマナミレイ?』だからね? 『?』を付けろよデコスケ野郎!」

「ムカ。おでこ広いの気にしてるのに酷いよ! 許さないからね!」

 額を隠す様に両手で押さえながら怒りを顕わにする久子。

「そういう意味じゃないんだけど… まぁいいわ、邪魔はさせない!」

 睦美の看破した通りウマナミレイ?には魔法が効かない。彼女のコスプレパーツのどこかに、魔王ギルより貸し与えられた魔法を阻害する妨害装置ジャマーである『邪魔具』があるからだ。

 それならば『魔法では無く肉弾戦で』との判断でウマナミレイ?の相手として久子が割り振られたという訳である。

 身体強化した久子がウマナミレイ?に吶喊とっかんする。走り寄る力に更に腕力を乗せたストレートパンチを繰り出す久子。
 だがしかし、悪の組織の幹部とは言え外目にはウマナミレイ?は幼気いたいけな少女である。あまり本気で殴って大怪我させたり、傷跡が残る様な怪我をさせるのも不憫と考えた久子の拳には『気』が乗っていなかった。

 もちろんウマナミレイ?が昨日までの生身の体であったなら、久子の舐めプパンチでも大ダメージを受けて即座に敗退する所だが、今の彼女には自動車すらも持ち上げられる腕力が有る。

 そしてこの仏心は久子にとって裏目に出た。久子の『軽い』パンチを掴む様に左手で難無く受け止め、右手で久子に逆襲のパンチを打ち出す。

 予期せぬ反撃に一瞬怯む久子だが、反射神経は理性よりも早く反応し、今度はウマナミレイ?のパンチを久子が左手で掴んで受け止めた。
 まるでゴリラの様な力強さに(いや実際ゴリラなのだが)、身体強化している久子も押され気味だ。

『この娘も凄いパワー… 女子レスリング同好会の智子ちゃんかそれ以上の力が有るとか、最近この町どうなってるの?!』

 お互いに右手を相手の左手で封じられ、共に動けなくなった久子とウマナミレイ?。しばらく一進一退の力比べが続くことになる。

 睦美vsコウモリ怪人であるが、こちらも長期戦の様相を呈していた。
 空を飛びながら翼から小型のコウモリを射出して睦美を襲うコウモリ怪人だが、睦美の近くに寄るだけで小型コウモリは動きを『止め』られて、睦美の手に持つ乱世丸によってそのことごとくを切り落とされていた。

 一方睦美もコウモリ怪人本体の動きを止めてやろうとするのだが、近接攻撃の射程外を飛び回る上に、コウモリ怪人の本体にも邪魔具が取り付けられているのか、睦美の魔法が通じずにイライラを募らせていた。

『魔法が効かないなら剣術で倒すしか無いわ。なんとか近づかないと…』

 睦美の考えを嘲笑うかの様に、子コウモリを次々と撃ち出すコウモリ怪人。防戦一方で決め手に欠く睦美の顔に焦りの色が浮かんでいた。

 最後に負傷者の救護を行っていたつばめだが、3人目を治療した所で早くも息切れしていた。

『ヤバイ… たった3人治しただけで疲労感がドッと襲って来た…』

 恐らくこのまま4人目を治療したら、その瞬間につばめは昏倒し治療される側になり果てるだろう。それではこの場に馳せ参じた意味が無い。

『何とか早急に魔力総量を底上げするか、消費を抑える方向でレベルアップしないと役に立てない。と言っても今すぐどうこうできる訳でも…』

 そこまで考えてつばめに天啓が舞い降りる。

『確か綿子はきゃりーぱみゅぱみゅ×3を提示されてて、でも呪文1回でも効果はともかく術を発動できた。と言う事は、わたしもひょっとして…』

 つばめの頭に浮かんだのは、本来のつばめの呪文『東京特許許可局許可局長』から後半の『許可局長』を抜いた『東京特許許可局』だけで魔法を使っても、コウモリに噛まれた傷くらいなら塞げるのではないか? と言う物だった。

 確証は無い。しかし不思議な安心感があるのも確かだ。だがもし呪文を短縮する事で発動に失敗したら、消費した魔力は無駄撃ちになるばかりか、魔力切れで倒れる事になり兼ねない。

『ええぃ! どのみち倒れるならやれる事はやってやんよ!』

 つばめは賭けに出た。素早く4人目の要救助者(年配男性)に駆け寄り、彼の傷を押さえながら「東京特許許可局」と短縮バージョンの呪文を唱える。
 今まで同様に傷は塞がり出血も止める事に成功する。

「おお、ありがとうお嬢さん。あんた一体何者だい…?」

「話は後です。早く逃げてください!」

 術の発動に成功した事で安堵の息を漏らすつばめ。魔力消費も今までのフルバージョンに比べてかなり低くなっており、このままならあと数人の怪我は治せそうだ。

『つまりわたしは今まで10円で買える物に、お釣りも出ないのに100円払ってたって事なのかしら…?』

 エコモードの新機能に目覚めたつばめだったが、何だか凄く人生で損をしてきた様な気がして釈然としないものを感じていた。
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