上 下
49 / 209
第四章

第49話 ぱーてぃー

しおりを挟む
「つばめちゃんは胸肉ともも肉はどっちが好きなの?」

「どちらも好きで、交互に食べる派です!」

「たくさんあるからイッパイ食べて… って、睦美さま! いつの間にお酒なんか…」

「たまのパーティーなんだから良いじゃない。この1本だけよ」

「そうそう、適度なアルコールは健康にも良いからね。睦美様は僕が見張ってるから大丈夫だよ」

 宴もたけなわとなり、親交を深める目的は十二分に果たせているだろう。

「そう言えば久子先輩って、ずっと近藤先輩から『ヒザ子』って呼ばれてますけど、何か由来があるんですか? それとも初めて会った時に言われた膝だの肘だの言うダジャレのまんまなんですか?」

「あー、『久子』は日本に来た時にアンドレ先生が付けてくれた偽名で、『ヒザコ』が私の本名なんだよ。本名は『ヒザコ・コムラガエリ』っていうんだ!」

 またしても面妖なアンコクミナゴロシ王国風の名前に戸惑うつばめ。

「はぁ、『こむら返り』ッスか… ちなみに意味とかあるんです…?」

「もちろん。コムラガエリは『美しい星』って意味だよ!」

「な、なるほど… とことん日本語と相性悪そうな言語ですねぇ… アンドレ先生も偽名なんですか?」

 ゲッソリとしたつばめはアンドレに話を振る。

「いや、アンドレ・カンドレぼくは本名だよ。お二人の様に貴族じゃないから姓に意味は無いけどね」

「いや、その名前が一番ヤバイと思うんですが…?」

 もし然るべき所からクレームが来たら作者が何事も無かったかの様に修正するから問題は無い。

「そ、そして睦美様が『ムッチー・マジ・アンコクミナゴロシ』王女殿下という訳さ」

 1人無視されて面白くなさそうな顔をしていた睦美を忖度してアンドレが補完する。結果的に一番怖い人を一番後回しにしてしまったつばめも、己の不敏に恥じ入りかしこまる。

「アタシの事は別にどうでも良いわよ。つばめもそんな事で怒ったりしないからいちいちビビらないで」

 睦美の本心は計り知れないが、少なくとも表情は穏やかなままで主賓のつばめを気遣う態度は崩さない。

 あまり追求されないうちに話題を変えた方が得策と考えたつばめは、再び久子に話を振る。

「それにしてもこれだけたくさんの料理を作ったり、普段からお掃除や洗濯もしているなんて、久子先輩って女子力高いですよね」

「そりゃ私は睦美さまの侍女だからね。7歳の頃から身の回りのお世話は全部やらせてもらってるよ。王女様に家事なんかさせられないもん。お料理なんかも日本こっちで全部覚えたんだよ!」

「…おかげで30にもなって米も炊けない女の出来上がりよ…」

 誇らしげな久子と対称的に、なんとも捨鉢な睦美の呟き。

「あははは… でも今まで聞いてた魔法王国の話って暗い話ばかりだったので、明るい話があるなら聞いてみたいです」

 乾いた笑いのつばめの問いに顔を見合わせる3人。

「…何かあったかしら?」
「私は小さかったから、家の外の事はあんまり…」
「なんでしょう? 幼少時の睦美様が木登りしていて木から落ちて、泣きながらその木に決闘を挑んだ話とか…?」
「アンドレ、それ以上その話をしたら死刑を宣告するわよ?」

「……」
「……」
「……」

 アンドレが睦美の黒歴史的な事を話そうとした所で会話が止まってしまった。
 つばめとしても自分の軽い一言からアンドレが死刑になってしまっては夢見が良くないのだが、上手く場を収める言葉が出てこない。

「あ、じゃあ勇者殿下ガイラムさまの話とかどうですか? あの方にはたくさん可愛がってもらいましたよ」

 久子の提案に睦美の顔が一瞬曇り「お兄様…」と呟いた。

「ガイラム殿下は睦美様の兄上で、王国随一の剣技の使い手だった人だよ。僕も騎士学校で同級生だったので大変良くしてもらったものだよ」

 つばめに説明しつつも当時に思いを馳せて目を細めるアンドレ。

「『勇者』の異名で呼ばれるほど心技体、全てを兼ね備えた完璧なお人だったんだけど、魔王侵攻の前年に病に倒れてしまってねぇ…」

「お兄様さえご健勝であれば魔王軍などに遅れは取らなかったのに… って何回思ったことかしらねぇ…」

「あー、えとえと… でもとっても強くて優しい人だったんだよ!」

 予想したほどに明るい話にならなかった久子が慌ててフォローを入れる。

 今のつばめには、その様なヒーロー然としたキャラクターはどうしても全て御影に変換されてしまうので、御影が異世界風の衣装を着て怪物どもを薙ぎ払っているイメージが頭から離れない。その姿が妙に似合っているから尚更だ。

 つばめの頭の中では男装した御影と若かりし頃の睦美が「お兄様!」「妹よ!」と、ひしと抱き合っているシーンが再生されていた。

「それはそうと、つばめ、アンタ変態バンドちゃんと洗ってる? 皮脂の汚れは目立つから、こまめに洗えって言った筈だけど?」

 唐突に話題を変えてきた睦美に、つばめは『待ってました』とばかりに食いついた。

「そう、それですよ! 外し方を聞いてないんですよ! …あと一応お風呂入った時にちゃんと洗ってますよ…?」

 初めてバンドを受け取ってから4日。話数にして40余話、ようやくその話が出てきた。

「あれ? 言ってなかったっけ? 外す呪文は『❆〆✺』よ」

「日本語でお願いします… なんか『ラーリ』みたいに聞こえましたけど…」

 睦美の呪文を真似して、つばめが唱えた言葉に頭に巻いたバンドが反応して広がる。『はらり』という感じでつばめに花輪のレイを掛けるように肩に落ちてきた。
 ちなみにバンドを巻いていたアホ毛は、バンドがあろうが無かろうが関係なくつばめの頭頂に屹立していた。

「おぉ! 取れた取れた! 何げに困ってたんですよ…」

「まぁこれからはこまめにキレイに…」

 睦美の言葉が途切れる。遠くに女性の悲鳴の様な声が聞こえたのだ。更に男性の声、子供の声、複数が街に響く。

「…事件でしょうか?」

 久子の言葉に睦美がすくっと立ち上がり無言でシュッと変態する。アルコールが入って少しうっとりとしていた表情も、いつものクールな戦士の顔に戻っていた。

「唐揚げパーティーの腹ごなしにいっちょ調べてみましょうか…?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学園首席の私は魔力を奪われて婚約破棄されたけど、借り物の魔力でいつまで調子に乗っているつもり?

今川幸乃
ファンタジー
下級貴族の生まれながら魔法の練習に励み、貴族の子女が集まるデルフィーラ学園に首席入学を果たしたレミリア。 しかし進級試験の際に彼女の実力を嫉妬したシルヴィアの呪いで魔力を奪われ、婚約者であったオルクには婚約破棄されてしまう。 が、そんな彼女を助けてくれたのはアルフというミステリアスなクラスメイトであった。 レミリアはアルフとともに呪いを解き、シルヴィアへの復讐を行うことを決意する。 レミリアの魔力を奪ったシルヴィアは調子に乗っていたが、全校生徒の前で魔法を披露する際に魔力を奪い返され、醜態を晒すことになってしまう。 ※3/6~ プチ改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

処理中です...