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第二章
第28話 あのころ
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「さて、それじゃあ何から話しましょうか…? あとあの女に関する事は基本的に文句しか出てこないわよ? アンドレ先生もそれでよろしくて?」
保健室の奥から引っ張り出してきたティーテーブルを囲んで、つばめ、アンドレ、不二子の3人で優雅に紅茶を飲む。
お茶受けに出された高級そうな外国のクッキーに手を伸ばしていいものか葛藤するつばめ。
「もちろん構いませんよ、僕もほとんどの事情を聞いているので。そしてそれを聞いてどう判断するかはつばめくんに任せます」
「まぁ、さっき聞いたかもだけど、私は睦美センパイの1コ後輩でね、初めて出会ったのは私が高1、センパイが高2で、梅雨が明けるかどうかって頃だったかしら…?」
「そうだね、僕も確かその位だと記憶しているよ」
不二子の不確定情報をアンドレが補足する。
「当時の私は引っ込み思案の大人しい子でね、スタイルの事とかで皆に冷やかされて、よく1人で校舎裏で泣いてたりしてたの…」
不二子の恥ずかしそうな告白。高校生当時から超ナイスバディであったのだろう。可哀想な話ではあるのだが、『持たざる者』たるつばめには正直な所『持てる者』の贅沢な悩みにしか思えなかった。
「しばらくした頃、いつもの場所で泣こうかな? と校舎裏に向かったら、そこにセンパイと久ちゃんが居たのよ。まだ10歳くらいの久ちゃんにセンパイが魔法の稽古を付けていたのかな?」
「そう、久子くんの力は近接戦闘向きだけど、彼女は殴ったり殴られたりが嫌いな優しい子だったからね。それを睦美様は心を鬼にして鍛えていたよ」
「あら、あの娘は今でも優しい子よ。なんたってあの睦美センパイを、未だに見捨てずにずっと一緒に居るんだから」
不二子の言葉で笑いが場を支配する。つばめはまだ一言も発していないが、当初想定したよりも雰囲気は悪くないだろう。
「それで『目の前で魔法少女が何かしてる』っていう信じ難い事態に固まってた私をセンパイが見つけてね…」
感慨深げに不二子が言葉を切る。睦美は『以前は優しかった』らしいから、きっと傷心の不二子を見て、彼女を優しく慰めて友誼を紡いだ、とかそういう話なのだろう、とつばめは予想したのだが、
「そしたらあいつ何て言ったと思う? 『ワタクシたちのこの姿を見られたからには生かしておけませんわ!』って、いきなり剣を抜いて襲いかかってきたのよ?!」
剣とは恐らく例のキャンディスティックの仕込み刀『乱世丸』であろう。しかしこれは予想の斜め上にも程がある。目を丸くして言葉を失うつばめ。
それにしても昔の睦美は俗に言う『お嬢様言葉』を使っていたのか…… まぁ一国の姫だったという話だからおかしな話ではないのだが、今の睦美からはとてもでは無いが想像できない状況だ。
「あれ? 僕は『物陰に隠れてコソコソ覗いていた奴が居たから、魔王軍の手先と確信して殺そうと思った』って聞いたよ?」
「何でその辺の女子高生がいきなり『魔王軍』になって、即殺意マックスになるのか小一時間問い詰めたいわよ!」
アンドレの茶々にすかさずツッコむ不二子。
「それで必死になって逃げ回っていたら、久ちゃんが『睦美さま、この人普通の人ですよぉ…?』って言ってくれて、何とか助かったのよ」
「それがきっかけになって睦美様らと仲良くなって、魔法少女になったんだよね」
今の話のどこに仲良くなるフラグが隠されていたのだろうか? と頭をひねるつばめ。
「久ちゃんはともかく、睦美センパイとは仲良かった時期なんてありませんからね? 魔法少女になったのだって、私が断れない性格なのをいい事に『魔王軍がいつ攻めてくるか分からないから皆で戦いませんと!』ってあれよあれよと言いくるめられて魔法少女にさせられたんだから」
「そして君は今でも頼まれたら断れない素敵な女性さ… 言いくるめられた試験でイチジクを爆発させて、その責任を感じるくらいにね」
どうにもアンドレと不二子で事実認識に齟齬がある様だが、とりあえず両方聞いて判断すれば良かろう。そう考えたつばめは、無言のままで話の続きを促す。
今の所、つばめ自身に起きた境遇を考えると、不二子の言葉は説得力に満ちており、嘘とは思われなかった。
「確かに面倒見の良い人だったのは否定しないわよ? まぁそれで数カ月後、私と組むようになってからマジボラを立ち上げたの。尤も部活や同好会として認められる活動じゃないし、顧問になってくれる先生も居なかったから、完全にアングラ活動だったわ」
「僕がこの高校の教師として赴任して上手いこと小細工するまでの4年間、マジボラは文字通り有志によるボランティア活動だったんだよね」
アンドレの衝撃告白だが、ここでツッコむとまた話が脱線しそうなので敢えてスルーする。
「その後、小学生の久ちゃんを入れて3人で町の人を助けながら『感謝のエナジー』を集めていたわ。今にして思えばそれなりに楽しかったかも…」
思い出に顔を綻ばせる不二子。本人が言う程に悪い思い出だけでは無いのは確かだろう。
「そんなこんなで1年半くらいつるんでたかな? それで… まぁ… 『あの事件』で睦美センパイが大怪我しちゃってね…」
保健室の奥から引っ張り出してきたティーテーブルを囲んで、つばめ、アンドレ、不二子の3人で優雅に紅茶を飲む。
お茶受けに出された高級そうな外国のクッキーに手を伸ばしていいものか葛藤するつばめ。
「もちろん構いませんよ、僕もほとんどの事情を聞いているので。そしてそれを聞いてどう判断するかはつばめくんに任せます」
「まぁ、さっき聞いたかもだけど、私は睦美センパイの1コ後輩でね、初めて出会ったのは私が高1、センパイが高2で、梅雨が明けるかどうかって頃だったかしら…?」
「そうだね、僕も確かその位だと記憶しているよ」
不二子の不確定情報をアンドレが補足する。
「当時の私は引っ込み思案の大人しい子でね、スタイルの事とかで皆に冷やかされて、よく1人で校舎裏で泣いてたりしてたの…」
不二子の恥ずかしそうな告白。高校生当時から超ナイスバディであったのだろう。可哀想な話ではあるのだが、『持たざる者』たるつばめには正直な所『持てる者』の贅沢な悩みにしか思えなかった。
「しばらくした頃、いつもの場所で泣こうかな? と校舎裏に向かったら、そこにセンパイと久ちゃんが居たのよ。まだ10歳くらいの久ちゃんにセンパイが魔法の稽古を付けていたのかな?」
「そう、久子くんの力は近接戦闘向きだけど、彼女は殴ったり殴られたりが嫌いな優しい子だったからね。それを睦美様は心を鬼にして鍛えていたよ」
「あら、あの娘は今でも優しい子よ。なんたってあの睦美センパイを、未だに見捨てずにずっと一緒に居るんだから」
不二子の言葉で笑いが場を支配する。つばめはまだ一言も発していないが、当初想定したよりも雰囲気は悪くないだろう。
「それで『目の前で魔法少女が何かしてる』っていう信じ難い事態に固まってた私をセンパイが見つけてね…」
感慨深げに不二子が言葉を切る。睦美は『以前は優しかった』らしいから、きっと傷心の不二子を見て、彼女を優しく慰めて友誼を紡いだ、とかそういう話なのだろう、とつばめは予想したのだが、
「そしたらあいつ何て言ったと思う? 『ワタクシたちのこの姿を見られたからには生かしておけませんわ!』って、いきなり剣を抜いて襲いかかってきたのよ?!」
剣とは恐らく例のキャンディスティックの仕込み刀『乱世丸』であろう。しかしこれは予想の斜め上にも程がある。目を丸くして言葉を失うつばめ。
それにしても昔の睦美は俗に言う『お嬢様言葉』を使っていたのか…… まぁ一国の姫だったという話だからおかしな話ではないのだが、今の睦美からはとてもでは無いが想像できない状況だ。
「あれ? 僕は『物陰に隠れてコソコソ覗いていた奴が居たから、魔王軍の手先と確信して殺そうと思った』って聞いたよ?」
「何でその辺の女子高生がいきなり『魔王軍』になって、即殺意マックスになるのか小一時間問い詰めたいわよ!」
アンドレの茶々にすかさずツッコむ不二子。
「それで必死になって逃げ回っていたら、久ちゃんが『睦美さま、この人普通の人ですよぉ…?』って言ってくれて、何とか助かったのよ」
「それがきっかけになって睦美様らと仲良くなって、魔法少女になったんだよね」
今の話のどこに仲良くなるフラグが隠されていたのだろうか? と頭をひねるつばめ。
「久ちゃんはともかく、睦美センパイとは仲良かった時期なんてありませんからね? 魔法少女になったのだって、私が断れない性格なのをいい事に『魔王軍がいつ攻めてくるか分からないから皆で戦いませんと!』ってあれよあれよと言いくるめられて魔法少女にさせられたんだから」
「そして君は今でも頼まれたら断れない素敵な女性さ… 言いくるめられた試験でイチジクを爆発させて、その責任を感じるくらいにね」
どうにもアンドレと不二子で事実認識に齟齬がある様だが、とりあえず両方聞いて判断すれば良かろう。そう考えたつばめは、無言のままで話の続きを促す。
今の所、つばめ自身に起きた境遇を考えると、不二子の言葉は説得力に満ちており、嘘とは思われなかった。
「確かに面倒見の良い人だったのは否定しないわよ? まぁそれで数カ月後、私と組むようになってからマジボラを立ち上げたの。尤も部活や同好会として認められる活動じゃないし、顧問になってくれる先生も居なかったから、完全にアングラ活動だったわ」
「僕がこの高校の教師として赴任して上手いこと小細工するまでの4年間、マジボラは文字通り有志によるボランティア活動だったんだよね」
アンドレの衝撃告白だが、ここでツッコむとまた話が脱線しそうなので敢えてスルーする。
「その後、小学生の久ちゃんを入れて3人で町の人を助けながら『感謝のエナジー』を集めていたわ。今にして思えばそれなりに楽しかったかも…」
思い出に顔を綻ばせる不二子。本人が言う程に悪い思い出だけでは無いのは確かだろう。
「そんなこんなで1年半くらいつるんでたかな? それで… まぁ… 『あの事件』で睦美センパイが大怪我しちゃってね…」
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❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
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