上 下
27 / 209
第二章

第27話 とどけもの

しおりを挟む
 困難なミッションをこなし、無事部室に戻ってきた3人を迎えるアンドレ。

「お帰りなさい。どうでしたか?」

 心配そうなアンドレに久子が指でVサインをしてみせる。

「バッチリ成功だよ! 1年生だけだけど、それでも6クラスで70人以上を検査できれば何人か有望なのがいるはずだよ」

「おぉ、それは良かった… それはそうと不二子先生とは揉めなかったんですか?」

 アンドレの心配の根源はそこにあった。マジボラと不二子との関係を今以上に拗らせられると、アンドレの活動にも小さくない支障が現れるからだ。

「一時はどうなるかとハラハラしたけど、つばめちゃんのおかげで何とかなったよ」

「え? いえそんな、わたしは何も…」

 アンドレはその2人のやりとりで大体の流れを把握できた。大方睦美が全てをぶち壊そうとした所で新人であるつばめの『お願いアタック』が炸裂したという感じだ。そしてその予想は概ね間違っていなかった。

「ふぅ… 今日は魔王の手下に不二子あの女の相手と無駄に疲れたわ。もう今日はなんにもする気が起きないから帰って寝る…」

 それだけ言うと睦美は眠そうに大欠伸あくびをして、挨拶も無しに部室を出て行ってしまった。慌てて久子も睦美の後を追う。

「じゃあ私達は帰ります。つばめちゃんもお疲れ様。アンドレ先生、またね!」

部室を出る直前に久子が振り返り、大きく手を振りながら去って行った。

 部室に2人残されたつばめとアンドレ。つばめは突如電気が走るかの様な、最強マックスな危機感を覚えた。
 狭い室内で男女が2人きり、しかも男の方は名うてのプレイボーイ、女の方は純情可憐で一点の穢れもない乙女(自称)だ。
 この状況、紛れもなく男は狼で乙女のピンチでSOSである。

「つばめくん…」

「は、はいっ! 何ですか? 変な事しようとしたら大声出しますよ?! て言うか、わたしも帰りたいんですけど?」

 つばめは両手チョップで防御姿勢をとる。命に替えても貞操だけは守らなければならない。

「…そんなに警戒しなくてもいいよ。僕は未成年、しかも貧乳の子には絶対に手を出さないからさ」

 つばめを安心させようというアンドレの微笑み。優しい気持ちから出た言葉であったが、その言葉は余計につばめを傷つけた。
 そんなつばめにお構い無しにアンドレは話を続ける。

「睦美様の事だけど、もしかしてワガママで高慢ちきな人だと思ってるかい?」

 アンドレに問われたものの、つばめは回答に詰まる。2人の内密な話なのか、後からそれが睦美や久子に報告つげぐちされるのかが判断付かなかったからだ。

「あれでも昔はもっと輝いていてね、『清く正しく美しく』を絵に描いた様な高潔な女性だったんだよ…」

 アンドレの真意が読めない以上、つばめとしてもリアクションが取りづらい。ただ、睦美の過去の逸話に関しては興味が無いわけではない。
 特に『清く正しく美しく』生きていた少女が、何があったらあそこまでヤサグレてしまうのか? はとても知的好奇心を刺激する物がある。

「家臣の僕が言っても説得力無いよね? じゃあ届け物ついでにもうちょっとだけ付き合って貰えるかな…?」

 アンドレにそう言われて、つばめは再び保健室の前まで連れられて来ていた。廊下に湿布その他がまだ置かれており、先程の様な男子生徒の行列は出来ていない。

「僕の言葉は胡散臭いかも知れないけど、今し方まで睦美様とケンカしていた不二子先生の言葉ならどう受け止めるかな? と思ってね」

 アンドレは楽しそうに保健室の扉をノックする。中から「どうぞ」の声を待ってアンドレとつばめは中に入る。

「あらアンドレ先生、どうされました? デートのお誘いでしたら2万年先まで埋まってましてよ?」

「そりゃ残念、でも今度の日曜日辺りにキャンセルが出そうなんじゃない? 僕の予定なら空いてるよ?」

 慣れた感じの大人の男女の会話に入っていけないつばめ。と言うか、アンドレは誇張無しにプレイボーイの様だ。

「週末の予定はともかく、若い女の子連れて別の女の所に遊びに来るほど野暮な人じゃないでしょ? 何の御用?」

 不二子も長い付き合いの為かアンドレの事をよく知っている。つまり不二子にモーションをかけてくる時とそうでない時の見極めが出来ているのだ。

「まずは睦美様らのお願いを聞いてくれてありがとう。そして頼んでおきながら放置して行った『これ』を持ってきたのさ」

 アンドレがふところから取り出したのは、つばめの魔力判定の際に用いたイチジクの葉っぱである。

「そうそうそれよ。こちらから連絡入れるのもアホらしいし面倒くさいから放置してたけど、持ってきてくれたのなら助かるわ」

「それで届け物ついでに君から彼女つばめくんに睦美様の事を色々教えてあげて欲しいんだ。黄金コンビ時代のね」

『黄金コンビ』という単語に反応し、顔を少し赤らめる不二子。

「昔の事でしょ…? 楽しい話を予想しているなら御期待には応えられないわよ?」

 ここまでの観察から、睦美と不二子が反目こそしている物の、口も聞きたくない程に憎み合っている訳では無い事は容易に推し量れる。

「あの、近藤先輩は以前はもっと優しい人だったと聞いたのですが…」

「…まぁ、そうねぇ。ちょっとお茶でも飲みながら話しましょうか?」

 そこで見せた不二子の艶っぽい微笑みは、女のつばめですら引き込まれそうな程に美しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

処理中です...