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第二章

第25話 きゅうてき

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「全く… なんだってアタシがあの女に頭を下げないといけないのよ?!」

「まぁまぁ、睦美さまもこの作戦には賛成してくれたじゃないですかぁ」

「だからって、頭で理解は出来ても納得は出来ないわ…」

 部室からずっとプンスコしている睦美をなだめながら、3人が向かった先は保健室であった。

 久子の立てた作戦は「明日行われる生徒の身体測定の際に、女子生徒全員に(つばめにも行った)イチジク判定による魔力検査をドサクサに紛れて敢行する」といった物であった。

 身体測定の総括は保健教諭の山崎不二子であり、当然彼女の承認無しには勝手な事は行えない。
 そこでマジボラの面々は山崎教諭に許可を取るべく保健室までやって来た次第である。

 理由は分からないが、も山崎教諭が嫌いらしい。『敵の敵は味方』理論で、つばめは25話にして初めて睦美に対してシンパシーを抱いていた。

「実はね、不二子ちゃんはマジボラのOGなんだよ」

 久子がつばめに耳打ちする。なるほど、だから魔法の存在を知っていたり、こんな胡散臭い計画への協力を打診する事が出来る、という訳なのか、と妙に納得するつばめだった。


「な、なんですかこれは?!」

 保健室に到着した一行、そしてつばめの驚きの声。保健室の前には男子生徒による長蛇の列が出来ていたのだ。

 未だに外ではクラブ対抗の新1年生の争奪戦が行われていたが、その際にもみ合いになって負傷した、普通に部活で転んで膝を擦りむいた、小説を書いていて腱鞘炎になった、睡眠不足で頭が痛い、山崎先生を思うと胸が苦しい等々、全員山崎教諭の診断や治療を目当てに集まっていた生徒達だ。

 もちろん全員が男子。2、3年生がほとんどだが、美人に目敏い1年生も若干名混じっている。みな一様に行儀よく並んで、愛しの山崎教諭めがみさまへの順番待ちをしていた。

 保健室までの廊下数十mを占拠し、最後尾には『列の最後尾』と書かれた手持ち看板を新しい生徒が並ぶ度に次々とリレー形式で渡してアピールしていた。

「ホント男って… でもこれじゃ1時間以上並ぶんじゃないですかぁ…?」

 ゲッソリとして呟くつばめ。

「大丈夫だよぉ」

 久子がズンズンと廊下を進み、列を無視して保健室の扉を開けた。整列していた男子の中には「おい何だよ?」と不満を漏らす者も居たが、全体的には概ね大人しい。

 どうやら慣例として『女子は並ばなくても良い』という事になっている様だ。

「不二子ちゃん、お邪魔します!」

 保健室に入って明るく挨拶する久子。ちょうど男子生徒の額に湿布を貼っていた山崎、いや不二子も久子を見やる。

「あらひさちゃん、しばらくぶりじゃない。今日は1人?」

 不二子の問いに久子が体を半歩横にずらすと、久子の後ろに控えていた不貞腐れ気味の睦美が姿を現した。

「…な訳ないわよねぇ。更に珍しいお客様がいらっしゃるなんてね、お元気ですか『睦美センパイ』?」

 久子に対する言葉よりも1オクターブ下がった挑発的な不二子の声に対して、睦美は努めて冷静に

「話があるんだけど…?」
 と小さく呟いた。

 睦美の表情に何かを読み取った不二子は目を細めて何かを一考した後、行列の男子連中に向けて手をパンパンと打ち鳴らす。

「はいはい、本日の営業はこれまで! あとは部屋の外の机に湿布と赤チン置いておくから勝手に自分らで処理してちょうだいね!」

 とだけ言うと保健室内の男子を全員締め出して、机と湿布とヨードチンキを廊下に設置して後、保健室の扉に施錠してしまった。

 並んでいた男子生徒達もブーブー文句を言いながらも、間もなく三々五々散って行った。つまり大半が不二子目当てで、元から治療が必要だった者はほとんど居なかったという訳だ。

「…はい、これでヤバい話も大丈夫。それに睦美センパイ、まだ生徒やってたんですかぁ? 毎度毎度お尻を拭かされるアンドレ先生もお気の毒ねぇ」
 薄ら笑いで睦美を嘲るように言い放つ不二子。

「アンタ新年度の度にそれ言わないと気が済まないの?」
 睦美も憎々しげに答える。一触即発、最低の雰囲気だ。

「…睦美あんた保健室ここに来るなんて珍しいから茶化しただけよ。それで何事? まさか『魔王が現れた』とか言わないでよね?」
 睦美の来訪が冷やかしでは無いと悟り、敢えて一歩引く不二子。

「…その通りよ」
 深刻な表情を崩さずに不二子の目を見て答える睦美。

「…え? まさかウソでしょ? 十何年も前からあんたが『来る来る』言ってて結局来なかった訳でしょ? なんで今更…?」

「何で今更なのかはアタシにも分からないよ。でも来ちまった物はしょうがないだろ? こっちも早急に戦力を揃える必要があるんだよ」

「戦力ったって私の魔法はとっくに…」

「そんなの分かってるよ。アンタに直接動かれて痛い目を見るのはもう沢山だしね」

「古い話を… それにあれはあんたがやれって言ったんじゃない?!」

「アンタの頭が足りなかったから余計に騒ぎを大きくしたんでしょうよ! 何よ『爆裂魔法エクスプロージョン』って? 建物ごと消し飛ばすバカがどこに居るのよ?!」

「私の特性が『爆発』だったんだから仕方ないでしょ?!」

 女2人のキャットファイトにおずおずと久子が介入する。

「あのぅ… お二人とも、話が進まないので思い出話に花を咲かせるのはまた後ほどで…」

 久子の言葉に睦美と不二子、2人同時にそっぽを向いて鼻息をフンと鳴らした。

 さて、この状況で交渉の開始である。
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