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第二章
第23話 しんそう
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警察と救急隊がおっとり刀でやって来た。面倒に巻き込まれるのを防ぐ為に睦美と久子は変態を解く。
増して睦美の『乱世丸』は完全な銃刀法違反であり、普段ならいざ知らず現段階では官憲との対決姿勢は賢明とは言えないだろう。
つばめも非力ながら蜘蛛の巣に囚われた人達の救出を試みたものの、クモ怪人の糸は女子の素手で引き千切る事は不可能な程に強靭な物だった。
「つばめ! アタシ達も一旦退くわよ。変態を解いて!」
睦美の声に後ろ髪を引かれる思いで犠牲者たちの元を去るつばめ。最後に近くの中年男性に声を掛けた。
「ごめんなさい、何も出来なくて…」
「いいや、あんたは頑張ってくれたよ。その気持ちで十分だ…」
その男性から微量ながらも感謝のエナジーが放出される。自身の不甲斐無さと、男性の優しさに涙を飲むつばめは『もっと強くなりたい…』密かにそう決意していた。
☆
3人とも無言のまま帰路を歩き部室へと戻ってきた。怪人らは撃退したのだからもう少し明るい顔をしていても良さそうな物だが、三者三様の理由で明るい顔を見せる事は出来なかった。
「皆さんおかえりなさい。サイレンが喧しくて何やら大きな事件みたいですが、今度は一体何をやらかしたんですか…?」
事情を知らないアンドレがおちゃらけて3人に声を掛ける。
「私達じゃ無いですよぉ!」
久子の抗議、そして、
「アンドレ、魔王の尖兵が現れたわ…」
睦美の言葉にアンドレは、今までヘラヘラしていた顔つきを、まるで別人であるかの様に一気に引き締めた。
「なんと… 遂に来てしまいましたか…」
「ええ、最悪の事態だわ…」
「はいですぅ…」
他の3人が沈痛な面持ちで話をしている所、つばめは全く会話に加われないでいた。
「え? あの、 皆さん何の話をしてるんですか…? 『魔王』ってよくゲームとかに出てくるあの…?」
睦美は何かを観念したかの様な視線をつばめに投げて、小さく溜息をつく。
「…本当はもっと慣れた頃に打ち明けようかと思ってたけど、事態が事態だから否応なしに巻き込む形になっちゃったわね。悪く思わないでね…?」
睦美の不穏な物言いに一層不安を濃くするつばめ。
「いい? つばめ、落ち着いて聞いて。アタシ達3人はこの世界の人間じゃないの。『アンコクミナゴロシ魔法王国』からやって来た異世界人なのよ…」
睦美の告白が理解できずに目を白黒させるつばめ。そして何より…
「え? 『暗黒皆殺し王国』!???」
どう考えてもまともな名前では無い。むしろ魔王側が喜んで用いそうなファンキーなネーミングである。
「ちょっと勘違いしないでよ? アンコクミナゴロシってのは現地の言葉で『夢と希望溢れる』って意味なんだからね。たまたま日本語として聞くと変になるだけで… まぁバヌアツ国のエロマンガ島みたいな物よ」
「はぁ…」
どこまで本当なのか分からずに生返事をするつばめ。
「アタシはそこの王女だったわ。そこで16年前に国が魔王軍の襲撃を受けて滅ぼされたのよ…」
「睦美さまがいる限り王国は滅んだりしません!」
久子が横から会話に入る。アンドレも力強く頷いていた。
「頑張って戦ったのだけれども、元々メルヘン色の強い所で争いなんて無かった国。アタシも幼かったし、当時7歳だった侍女見習いのヒザ子を助けるのが精一杯だったわ…」
「小さかった私を守って魔物と戦ってくれた睦美さまは、本当にヒーローみたいでカッコ良かったんだよぉ?」
久子の言葉に睦美は遠い目をして『ふっ』と微笑む。
「それでも魔王軍に囲まれて、『もうダメだ』って諦めかけた所にアンドレが助けに来てくれて…」
「はっ! これでも王家近衛隊の末席に名を連ねておりましたからな。当然の事です!」
アンドレが背筋を伸ばして言う。もうチャラチャラしたマジボラ顧問の面影は無い。
「なんとか窮地を脱したアタシ達は、王族しか知らない脱出路から続く隠し部屋に封印されていた王家の秘術を発見したの」
「はぁ、秘術…」
もう超展開すぎてつばめの頭には理解しきれなくなってきていた。
「そう、『別の世界に避難する転移魔法』よ。それを使ってアタシ達はこの世界にやって来たの…」
「そ、それからずっとこっちで暮らしてるって事ですか? 十何年も?」
「ええそうよ。元の世界に帰るにも力が足りなくてね、それに帰った後で魔王軍を追い出す分の力や、王国を再建する力も無くちゃでしょ? その為に必要なのが『感謝のエナジー』なのよ」
ようやく出てきた『感謝のエナジー』。予想していたよりも遥かに重い理由で活動していたマジボラの面々に、驚きを隠せないつばめ。
「それからアタシ達は学校に通って、この世界の事を勉強しながら暮らしてきたの。アンドレは1人で働いてアタシ達を養ってくれたわ」
「今の生活費もアンドレ先生が出してくれてるんだよぉ」
「いやー、お恥ずかしい。もう少しこの学校の給料が良ければ睦美様をあんなボロアパートに住まわせたりはしないのですが…」
照れ臭そうに頭を掻くアンドレ。しかし、
「そう思うなら少しは自分の女性相手の遊興費を下げたらどうなの?」
睦美のツッコミ睨みに、目を逸らし口笛を吹いて無視するアンドレ。
「まぁ、あの女の言った『魔王』とアタシ達の考える『魔王』が同じ物とは限らないし、どうにも巫山戯た連中でシリアス感に欠けていたから、そこまで深刻になる事も無いのでしょうけど…」
睦美はそこで一旦言葉を切ってその場の全員を見回す。
「ただ、敵の女幹部にはアタシの魔法が効かなかった。これはつまり王国の生き残りの民か、対魔法装備を身に着けた本物の魔王軍かのどちらかの可能性が高いの。…とにかく『最悪』を想定して行動しましょう。こちらにも作戦が必要ね…」
増して睦美の『乱世丸』は完全な銃刀法違反であり、普段ならいざ知らず現段階では官憲との対決姿勢は賢明とは言えないだろう。
つばめも非力ながら蜘蛛の巣に囚われた人達の救出を試みたものの、クモ怪人の糸は女子の素手で引き千切る事は不可能な程に強靭な物だった。
「つばめ! アタシ達も一旦退くわよ。変態を解いて!」
睦美の声に後ろ髪を引かれる思いで犠牲者たちの元を去るつばめ。最後に近くの中年男性に声を掛けた。
「ごめんなさい、何も出来なくて…」
「いいや、あんたは頑張ってくれたよ。その気持ちで十分だ…」
その男性から微量ながらも感謝のエナジーが放出される。自身の不甲斐無さと、男性の優しさに涙を飲むつばめは『もっと強くなりたい…』密かにそう決意していた。
☆
3人とも無言のまま帰路を歩き部室へと戻ってきた。怪人らは撃退したのだからもう少し明るい顔をしていても良さそうな物だが、三者三様の理由で明るい顔を見せる事は出来なかった。
「皆さんおかえりなさい。サイレンが喧しくて何やら大きな事件みたいですが、今度は一体何をやらかしたんですか…?」
事情を知らないアンドレがおちゃらけて3人に声を掛ける。
「私達じゃ無いですよぉ!」
久子の抗議、そして、
「アンドレ、魔王の尖兵が現れたわ…」
睦美の言葉にアンドレは、今までヘラヘラしていた顔つきを、まるで別人であるかの様に一気に引き締めた。
「なんと… 遂に来てしまいましたか…」
「ええ、最悪の事態だわ…」
「はいですぅ…」
他の3人が沈痛な面持ちで話をしている所、つばめは全く会話に加われないでいた。
「え? あの、 皆さん何の話をしてるんですか…? 『魔王』ってよくゲームとかに出てくるあの…?」
睦美は何かを観念したかの様な視線をつばめに投げて、小さく溜息をつく。
「…本当はもっと慣れた頃に打ち明けようかと思ってたけど、事態が事態だから否応なしに巻き込む形になっちゃったわね。悪く思わないでね…?」
睦美の不穏な物言いに一層不安を濃くするつばめ。
「いい? つばめ、落ち着いて聞いて。アタシ達3人はこの世界の人間じゃないの。『アンコクミナゴロシ魔法王国』からやって来た異世界人なのよ…」
睦美の告白が理解できずに目を白黒させるつばめ。そして何より…
「え? 『暗黒皆殺し王国』!???」
どう考えてもまともな名前では無い。むしろ魔王側が喜んで用いそうなファンキーなネーミングである。
「ちょっと勘違いしないでよ? アンコクミナゴロシってのは現地の言葉で『夢と希望溢れる』って意味なんだからね。たまたま日本語として聞くと変になるだけで… まぁバヌアツ国のエロマンガ島みたいな物よ」
「はぁ…」
どこまで本当なのか分からずに生返事をするつばめ。
「アタシはそこの王女だったわ。そこで16年前に国が魔王軍の襲撃を受けて滅ぼされたのよ…」
「睦美さまがいる限り王国は滅んだりしません!」
久子が横から会話に入る。アンドレも力強く頷いていた。
「頑張って戦ったのだけれども、元々メルヘン色の強い所で争いなんて無かった国。アタシも幼かったし、当時7歳だった侍女見習いのヒザ子を助けるのが精一杯だったわ…」
「小さかった私を守って魔物と戦ってくれた睦美さまは、本当にヒーローみたいでカッコ良かったんだよぉ?」
久子の言葉に睦美は遠い目をして『ふっ』と微笑む。
「それでも魔王軍に囲まれて、『もうダメだ』って諦めかけた所にアンドレが助けに来てくれて…」
「はっ! これでも王家近衛隊の末席に名を連ねておりましたからな。当然の事です!」
アンドレが背筋を伸ばして言う。もうチャラチャラしたマジボラ顧問の面影は無い。
「なんとか窮地を脱したアタシ達は、王族しか知らない脱出路から続く隠し部屋に封印されていた王家の秘術を発見したの」
「はぁ、秘術…」
もう超展開すぎてつばめの頭には理解しきれなくなってきていた。
「そう、『別の世界に避難する転移魔法』よ。それを使ってアタシ達はこの世界にやって来たの…」
「そ、それからずっとこっちで暮らしてるって事ですか? 十何年も?」
「ええそうよ。元の世界に帰るにも力が足りなくてね、それに帰った後で魔王軍を追い出す分の力や、王国を再建する力も無くちゃでしょ? その為に必要なのが『感謝のエナジー』なのよ」
ようやく出てきた『感謝のエナジー』。予想していたよりも遥かに重い理由で活動していたマジボラの面々に、驚きを隠せないつばめ。
「それからアタシ達は学校に通って、この世界の事を勉強しながら暮らしてきたの。アンドレは1人で働いてアタシ達を養ってくれたわ」
「今の生活費もアンドレ先生が出してくれてるんだよぉ」
「いやー、お恥ずかしい。もう少しこの学校の給料が良ければ睦美様をあんなボロアパートに住まわせたりはしないのですが…」
照れ臭そうに頭を掻くアンドレ。しかし、
「そう思うなら少しは自分の女性相手の遊興費を下げたらどうなの?」
睦美のツッコミ睨みに、目を逸らし口笛を吹いて無視するアンドレ。
「まぁ、あの女の言った『魔王』とアタシ達の考える『魔王』が同じ物とは限らないし、どうにも巫山戯た連中でシリアス感に欠けていたから、そこまで深刻になる事も無いのでしょうけど…」
睦美はそこで一旦言葉を切ってその場の全員を見回す。
「ただ、敵の女幹部にはアタシの魔法が効かなかった。これはつまり王国の生き残りの民か、対魔法装備を身に着けた本物の魔王軍かのどちらかの可能性が高いの。…とにかく『最悪』を想定して行動しましょう。こちらにも作戦が必要ね…」
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