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第二章

第16話 あくゆう

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 沖田の登校で女生徒の人気を一気に攫っていったかと思われたが、1年C組の女子生徒の興味は、現在2人のイケメンに分かれて拮抗していた。

 1人は言わずと知れた出席番号2番、沖田彰馬。180cm前後の細身の長身だが、朝の身のこなしを鑑みるに運動神経は悪くないものを持っているはずだ。
 緊張感の足りない雰囲気はあるが、終始笑顔で何でもワガママを許してくれそうな優しい男性に思える。
 少女漫画で言うならば「オレサマ系」への対抗馬として配置される「癒やし系」男子の系譜であると言えよう。

 そしてもう1人は出席番号19番、御影みかげ かおる。沖田同様身長180cm程の細身の長身、中性的な美しい顔立ち、ウェーブのかかった肩まである長い髪。
 やや芝居がかった様にも見える落ち着いた身のこなし、何やら気だるげに小説を読んでいる雰囲気等、近寄り難いイメージはあるものの耽美系の好きな数名の女生徒はため息をつきながら御影を見つめている。

 現在1時間目終了後の休み時間、沖田の周りには3人の女子が集まって『怪我大丈夫?』だの『湿布痛そう、可哀想~』だの『どこの中学?』だの『着痩せしてるけど筋肉あるっぽいね』だのと益体もない事をダラダラと話している。

 気が気ではないのはつばめだ。早急に沖田と友達ポジション(出会って2日目で彼女ポジションに座れると思う程つばめも自惚れていない)、最低でも沖田を囲むグループメンバーその1くらいにその身を置きたかったのだが、予想外の妨害が入ったのだ。

「ねーねー、つばめっちは何のクラブ入るの? あたしは女子レスリング部に興味あるんだけど良かったら一緒に見学に行かない?」

 昨日、職員室の前で知り合った新見綿子がつばめに絡んできたのだ。

 前述の通り今日の学校は午前中は通常授業だが、午後は新一年生のクラブ活動見学の時間に充てられていた。

 瓢箪岳高校は学校の方針として生徒達の積極的な部活動を推奨しており、各種部活動からプロの道に進んでいった者達も少なからず存在していた。

 私立高校で資金面に余裕があり、部活動未満の同好会も含めて多種多様な部活動が行われている。
『魔法奉仕同好会』等という訳の分からない同好会の存在すらも容認されているふところの深さは、傍目には逆に心配になる様にも思える。

 そしてクラスのイケメンには興味が無いのか、綿子はつばめを午後の見学に誘いに来たのだ。
 沖田の動向を気にしている最中に、人を携帯型育成ゲームの様に呼ぶ綿子に軽く苛つくつばめ。

 そもそもつばめにはクラブ見学など許されるのか分からない。例えば綿子の言う女子レスリング部になど微塵も興味は無いのだが、仮に綿子と共にレスリング部を見学している所を睦美に見つかったら、そのまま一生まばたき出来ない体にされる可能性もある。

「あー… ゴメンね。わたしはもう入る所決まってて、もし他所で浮気している所を先輩に見られたら(比喩で無しに)殺されるかも…」

「キャハッ、『殺す』とか受ける。どんだけ厳しい部なのよ? 殺し屋部とか(勿論そんな部は無い)?」

 つばめの悲痛な面持ちを全く意に介さずに綿子は話を続ける。つばめとしては部活の事は出来れば聞かれたくなかったのだが、この流れでそれを回避するのは不可能だったろう。

「…えっと『魔法奉仕同好会』っていう変な所。正直あまり関わり合いにならない事をオススメするよ…?」

「なにそれ!? めっちゃ気になるじゃん! 何すんの? 魔法使うの? まさかパステルカラーのフリフリの服着て魔法で人助けすんの? マジ受ける! つばめっちはそういうの好きなんだ? 意外~」

『お前見てたのかよ?』と思わずツッコミそうになる程、活動内容を的確に表現する綿子。

 そしてつばめは思わず身構える。『そういうの』とは『幼稚な魔法少女アニメ』類の意味と思われる。大抵の女子は『そういうの』は小学校高学年にはほぼほぼ卒業し、それ以降も見続けている層もまず友人相手に口外はしない。

 入学2日目で『オタク』のレッテルを貼られると、卒業までずっとオタク扱いで、同種の仲間としか交流できなくなる。もっとこう『恋と青春』に打ち込みたいつばめとしては、この話題は早急に終わらせたいのだ。

 返答に困るつばめ、何とか綿子を黙らせて話の主導権を握りたいのだが、完全に劣勢の中で考えがまとまらずにいた。

 事態が動き、救いが現れた。
 つばめの右斜め前に座って有象無象(つばめ観)の女子達と話をしていた沖田がおもむろに立ち上がり、つばめの元へと歩いてきたのだ。
 そして次の一言はその場の全員の耳を疑わせる物だった。

「やぁ、午後のクラブ活動見学、良かったら俺と行かないかい?

 沖田の言葉につばめを含めた周囲の女子の動きが止まる。誰も沖田の真意を掴みきれずにいたのだ。

 沖田の誘いに対してつばめも頭の動きを止めていたのだが、

「うん、行く!」
 思考よりも口が早く動いた。
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