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第6話 ちから

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「この葉っぱを持って念を込めてみて。アンタの魔力適性が分かるんだよ。ちなみにゾアマンドットコムで1枚3000円ね」

『マジかよ、ゾアマンで買えるのかよ?!』
 魔力適性判定などと言う不可解な物よりも、そんな奇妙な商品が一般の通信販売で買える事に驚くつばめ。

「ウソだよぉ」
 久子の屈託の無い笑顔に、久子ではなく睦美のしょーもないギャグにイラッとする。

 差し出された葉っぱを受け取ったつばめは、事態を理解できずに頭の上に『?』マークを出したまま、両手で萎びかけた葉を挟んで合掌する様に持つ。

 言われた通りに念を込め… ようとしたのだが、つばめには『念の込め方』と言うのがよく分からない。とりあえず両手に挟んだ葉っぱを圧し潰すつもりで左右から力を込める。

 30秒ほど継続してみたのだが、無駄に力むのも結構疲れるものである。両手に挟まれた葉っぱには、未だこれ・・という変化は見られない。

『これ何にも変わらなかったら今度は何されるんだろう…?』
 睦美からまた何らかの折檻を受けるのではないかと考え、怯え竦むつばめ。

 上級生2人の興味の視線はつばめの手の中の葉っぱに集中していたが、やがて睦美のため息と共にそれも終了した。

「…もう良いよ、葉に特に変化は無いみたいだねぇ。アタシの見立て違いだったかな…?」
 失望した時の睦美の憂い顔は、傍から見るととても美しくはあるのだが、今のつばめには恐怖の象徴でしか無い。

「あ、あのっ、そのっ…」
 つばめは何とか暴力だけは回避するべく必死で言い訳を考えるが、考えれば考えるほど頭が混乱してきて、まともに口を利く事すら出来ない。

「しょうがない、次の候補を探そうか…」

「あ、睦美さま! でもこの葉っぱ、少し元気になってますよ!」

 葉っぱを手にして検分していた久子が声を上げる。確かに久子の言葉通り、つばめが手にする以前と以後では葉の表面の張り具合が違っている様に見えなくは無い。

「なんですって?! ちょっと貸しなさい!」

 久子から葉を奪い取った睦美が、視線で葉に穴を開けんとばかりに凝視する。睦美の目から見ても、葉の生気が戻った様に見える。

「ヒザ子、こ、これって…?」

「はい! 待ちに待った『力』の持ち主ですよ!」

 2人で向かい合って何か盛り上がっている。すっかり蚊帳かやの外に置かれたつばめは帰るに帰れずに1人ポツンと立ち尽くす。

「ちょっとアンタ!」
「つばめちゃん!」

 睦美と久子、2人揃って瞳を輝かせてつばめに詰め寄る。それに対し頭を抱える様にしゃがみ込んで防御態勢を取るつばめ。

「ごめんなさいごめんなさい! 殺さないで下さい!!」
 必死に命乞いをする。土下座すれば許してもらえるだろうか? 財布の中には… 多分小銭が300円位しか入ってない。一発芸の『つばめブーメラン』で笑いを取れれば或いは…?

「まさかいきなり黄金ルーキーが釣れるとは思わなかったわ」

「はい! おめでとうございます睦美さま!」

 殴られ… ない…? 薄目を開けてこっそりと2人を窺うつばめ。

「立ちな。アンタは晴れてうちの部員だよ!」
「良かったね、つばめちゃん!」

 2人の声に喜色を感じて、安堵のため息をつくつばめ。何かの試験には合格したらしいが、正直あまり嬉しくない。出来うる事ならこのまま縁が無かったと解放して欲しかった。

「え、と… それでわたしはどうしたら…?」

 つばめは『帰してもらえるのですか?』と言いたかったのだが、不幸な事に睦美たちには『部員として貢献できますか?』という意味で受け取られた。

「まずはアンタ… つばめだっけ? の能力を確定させましょう。葉っぱの生気を蘇らせたのは多分『生命』の力ね」

「凄いねつばめちゃん! 『生命』の能力者ってとってもレアなんだよ?」

 睦美と久子の2人興奮具合から、つばめの能力は予想外の大当たりであった事は確からしい。

「『生命』の力は対象の生命活動に干渉する事が出来るの。怪我や病気を治したり、極めればいきなり相手の心臓を止める事も出来るそうよ」

 つばめは必死の思いで「ハハ…」と笑顔を作る。確かに治癒の力は便利だけど、どう考えても物騒な殺人術は必要ないだろう。

 自分が有用らしいのは理解したが、次にくる手はその能力を利用しようとするやからと相場が決まっている……。

「このの力があれば人助けもはかどりますね、睦美さま!」

「そうね。今までは怪我人を病院に運ぶのが精一杯だったけど、これからは現場で治療できるわ」

 …あれ? 特殊な力を使ってお金儲けをするとか、そんな感じじゃなくて、純粋に人助けがしたい人たちなのかしら…?

 揺らぐつばめの心。もし何らかの力が自分にあって、それが誰か他人の私欲の為では無く善行として使われるのなら、それはそれで素晴らしい事だとも思える。信用して良いのかな…?

「そうすれば感謝エナジーもがっぽり手に入って、アタシ達の悲願も達成されるわ!」

「はい! その通りです!」

 え? なんかめっちゃ私欲っぽくない? やっぱりこの人達ダメくない?
 つばめの心のツッコミ。一瞬でも感心した自分が馬鹿だった、と後悔を始めたつばめの手を睦美が取り、固く握手を結ぶ。

「ようこそ期待の新星。改めて自己紹介するよ。こっちのお下げメガネが土方久子、2年生の23歳。そしてアタシは近藤睦美、3年生で30歳よ」

「あ、はい。芹沢つばめ、15歳です…」

 ………………?

「って、え? 23歳と30歳ですか? え? でも高校生… え?」

 つばめの言葉を受けて睦美の目が再び細くなる。いつの間にどこから取り出したのか、仕込み刀仕様のキャンディスティックを手にしている。

「あ? 12年留年してますけど何か文句ある? こっちだって好きでやってんじゃないのよ。何が悲しくてこんな…」

「まぁまぁ睦美さま、つばめちゃんが仲間になってくれれば、きっと全てうまく行きます。みんなで頑張りましょう!」

 睦美の攻撃衝動を久子がうまく逸らす。睦美は軽く舌打ちをしただけで平静を取り戻す。
 危うく本日2度目の斬首の危機を乗り越えたつばめは密かに久子に感謝した。

「まぁいいわ。とにかく大型新人を発見できたのはラッキーだったわね。正直同好会の構成メンバーが足りなくて誰でも良かったんだけどねぇ」

『だから言い方…』

 心でツッコんでも、やはり口には出せないつばめだった。
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