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第三章
猫と罠
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謎の声と交信を試みる。
《え? あれ? あの、どちら様ですか…?》
《…どちら様とはご挨拶ね。貴方達が私をここに連れて来たんでしょう?》
謎の声はさも迷惑であったかの様に、責めた口調で俺に迫る。
『連れて来た』って事は恐らく……。
《あの、もしかしてあなた様は『ワガハイ』様でいらっしゃいますか…?》
《…私には『アナスタシア』って言う高貴な名前があるんですけどね。まぁ『ワガハイ』でも『チューハイ』でも好きに呼ぶと良いわ》
やっぱり連れて来たロボ猫が謎の声の正体だった。しかもパーソナルがメス(?)っぽい。
って言うか、猫型ロボットに人格とか付けなくても良くない? こいつが絡むイベントには俺様ドキドキしっぱなしだよ。心臓無いけど。
《ねぇ貴方、名前は…?》
艶めかしい声で猫が聞いてくる。声だけなら凄くセクシーな感じ。これでもし香奈さん並みのダイナマイトボディの持ち主だったら、大抵の男ならルパンダイブ確定だろうね。
《あ… 俺は宮本。ここじゃ71って呼ばれてるよ》
まぁ俺はロボ紳士だから、そんな事はしないし出来ない。
《ふーん、じゃあ71、私達の結婚式はいつにする?》
《…は?》
急に何を言い出すんだこいつは。
《だって貴方さっき私に告白してたでしょ? 受けてあげるから次は結婚でしょ?》
さもそれが当然であるかの様に論を重ねるお猫様。
《いやいや、待て待て。その理屈はおかしい。まずは友達からだな…》
《私の事が好きなんでしょ? 私も貴方が気に入ったわ。お互い気に入った男女はもう結婚して『つがい』になるしかないでしょ?》
…だめだ。こいつも、いやこのメス猫も人の話を聞かないタイプだ。
《な、なぁ、ちょっと待ってくれ。お互い冷静になろうぜ。そもそもなんでペット用のロボ猫に人間並みの思考回路が付けてあるの? 意味分かんないんだけど?》
《…もともと猫型ドローンは、その気まぐれな行動をシミュレートするために、カオス理論に基づいて思考パターンを構築してあるから、他の動物型ドローンに比べて高性能なのよ》
凄く興味無さげに対応された。『そんな事も知らないの?』的なニュアンスだ。
《ふむふむ。つまり自己進化して人格を獲得するに至った訳?》
《仕組みはよく分からないけど、そういう事かしら? 猫型は特に仲間で集まってデータ交換とかしているから、1匹そういう子が出てくると、連鎖的に人格が発生したりするわね》
マジかよ。俺らの世界の空き地とかの猫会議も何か深い話し合いがされていたのかもな……。
《そんな事はどうでも良いじゃない。大切なのは私達の今後でしょ…?》
…ここではっきりと分かった。こいつは人格を持っているのでは無くて、あくまで『人間並みの知能を持つ猫』なんだ。
だから判断基準や価値基準が猫のそれになるし、人間の常識は通じない。
えー? これどうしたら良いんだろう…?
《あ、でもごめんなさい。私には子孫を作るシステムが装備されていないの。だから私達には子供は望めないわ…》
そんなシステム俺だって無いわ!
《あのさ、今この船って戦争してるのよ。だから結婚とかそういう話は、この戦いが終わってから改めてやらないか?》
…そりゃ確かに俺だって異世界に転移してハーレム展開とか、想像してたし期待してたよ?
『獣人娘が出会って5分で「好き! 抱いて!」』とかいうシチュエーション憧れたし、あれば良いなぁとも思ってたよ。
でもよ……。
いくら何でもこれはケモナーレベル高すぎるだろ… せめてボディだけでも獣人系にするとか入れ替えてくれれば夢も広がるんだがなぁ……。
くそっ、せめて高橋か丑尾さんが《すざく》に居てくれれば獣人ボディにバージョンアップしてもらえたかも知れないのに…。
《ふーん、まぁ良いわ。でも待ってる間に他に素敵な男の子を見つけたら、靡いちゃうかも。ちゃんと私を捕まえてなきゃダメよ、ボ、ウ、ヤ》
…もう訳わかんねぇな。
とりあえずこの場は『ワガハイ』?『アナスタシア』?も気が済んだらしく、退屈そうに俺の足元から離れて行った。
☆
今、鈴代小隊は『鎌付き』らに襲撃されたと思しき2番目の基地の偵察に向かっていた。『鎌付き』達の進路は地上から見た場合、真っ直ぐに南下している様だった。
今はまだソ大連の領域内だから『すざく』も普通に行動できるが、これがもし他の国に逃げ込まれたら面倒な事になる。
外国… 全米連合や欧州帝国の奴らから見たら、俺達東亜連邦とソ大連所属の輝甲兵は全て『虫』に見えてしまうだろう。
また、東亜は東亜で厄介だ。俺達は彼らから反逆者の汚名を着せられている状態だから、問答無用で撃たれる可能性が高い。
しかも『鎌付き』らが奪っていった『はまゆり』は東亜連邦の船で、中には丙型や零式等の東亜の機体が積まれている。
現在『はまゆり』の扱いが東亜国内でどの様になっているのかは分からないが、近衛隊の言葉に拠れば脱走者扱いの様だった。
とりあえず貴重な零式や丙型を積んでいる以上、大人しく投降する振りでもしておけば一時的にでも姿を隠す事はできる。
もし『鎌付き』らに俺達の追跡を躱す為に東亜連邦に入られでもしたら、その時点でこの作戦は『詰み』になりかねない。
ただ、もし本当に『鎌付き』らが東亜に逃げ込むつもりなら、最初から東に逃げて東亜の領内に入ってしまえば良かったはずだ。
同様に欧州帝国が目的地なら、西に進路を取れば良かった。
だがしかし実際は『鎌付き』達は南に向かっている。これはつまり『奴らは南極点を通過して全米連合に入ろうとしている』のではないかと予想される訳だ。
始めから北極点経由で進まなかった理由も幾つか考えられる。
まず補給を必要としたならば、直近は大連から南下した台湾上空に東亜連邦の補給基地がある。
しかし近衛隊の連中が言っていた様に、始めはそこに向かって零式等で普通に戦おうとしたものの、東亜の守備隊に撃退されたのだろう。
恐らくはまどかの技量不足と、自爆戦術の確立前だったのだと予想される。
そこで西に逃げてからソ大連G-29宙域の第2中継基地に流れ着いたと考えるのが妥当だろう。
そして東亜連邦から追っ手が来る可能性を考えたら、東や北に戻るルートは取りづらいはずだ。
更に北極点には地球連合の政府コロニーがある。ここで何か行動を起こすと全世界から注目を集め、敵に回す事になる。
そこまでのリスクはいくら『鎌付き』でも取りたくないだろう。
何より奴らの目的地が南米大陸にある可能性も否めない。
といった感じで『鎌付き』らはアメリカで何かをしようとしている、という仮説のもとに俺達は行動している訳だ。
《…という事があったんだよ》
俺は『ワガハイ』との事の顛末を鈴代ちゃんに語っていた。
「そんなまさかぁ。ペットドローンにそこまでの高性能AIは積んでないでしょ?」
鈴代ちゃんは端から信じる気が無さそうだな。
《いや、俺もそう思ったんだけどさ、あの時の通信は確かに接触通信だったんだぞ? ロボ猫以外に俺に触ってた奴は居ないんだし、どう考えてもあの猫がな…》
「ハイハイ、お喋りはそこまで。次の基地に着いたわよ… って言っても前回と同じ様な感じで、大した情報は期待出来なさそうね…」
鈴代ちゃんの言う通り、俺達の目の前には前回と同様に虫食いだらけの基地があった。
《今度は犬のロボとか居たりしてな》
「…そしたら賑やかになるわね」
鈴代ちゃんはあまり興味が無さそうだ。犬はあまり好きじゃないのかな? いや『そうそう都合よく生き残りは居ない』って感じの答えだな。
「今回もαと∂で先行します。他は周囲の警戒を」
慣れた感じで鈴代ちゃんが命令を飛ばす。すかさず「了解」と5つの声が返って来る。
虫食い基地の探索も2度目だから、こちらも慣れたものだ。まずは基地全体を走査してみる。
《生体反応も熱源反応も無いな。ここもゴーストタウンだよ…》
「…今回の基地は完膚なきまでにやられていて、得られる情報は無さそうね」
そう、今回の基地は前回とほぼ同じ大きさだが、虚空現象による虫食いが余計に大きく見受けられた。
何と言うか、前回は物資を得る為に保管場所を探りながら穴を開けていたけれど、今回はそんな事お構い無しに、手当たり次第に穴を開けており、俺には『単に殺戮を目的とした襲撃』であるかの様に見受けられた。
これが『鎌付き』か或いはまどかかの考えで成されたのならば、奴らは輝甲兵爆弾のより効果的な使い方を『練習』していたのかも知れない。
まどかが自発的にそんな事を思いつくとは思えないから、恐らくは『鎌付き』の指示、または命令でやっているのだろう。
『鎌付き』が次第にまどかを使いこなして来ている状況に、並々ならぬ危機感を覚える。
『鎌付き』の中の人が悪人、或いは狂人であるならば、そう遠くないうちに居住コロニーに狙いを定める事は想像に難くない。コロニーなんて輝甲兵爆弾数発もあれば全壊させられちまう。
鈴代ちゃんの家族を含めて、この世界の住人はみな泥を啜る思いで生きている。そんな懸命に生きている罪も無い人達を応援してやりたい、守ってやりたい、という気持ちは外様の俺にだってもちろんある。
何にせよ今の段階では全てが仮説だ。少しでも良いから奴らの動機や目的に繋がる物が見つかって欲しいものだ。
「基地の内部にまで入り込んで、一際大きな虚空現象を起こした様な形跡がありますねぇ」
∂立花ちゃんが基地の外観から所見を述べる。確かに入り口よりも広い空間が中に確認できる。
「そこなら中のどこへ向かうにもアクセスが良さそうね。そこから入りましょうか」
という鈴代ちゃんの指示で2機の輝甲兵が基地内部へと侵入する。
…そして俺達は罠に嵌められた。
外壁と中の空間を繋ぐ通路の出口付近に恐らくはワイヤー式のブービートラップが仕掛けられていたんだ。
金属反応の無いカーボン繊維で張られたワイヤーに足を引っ掛け、すぐ後方で起きる爆発。その衝撃で俺達は反対側の球状内面の壁に正面から叩きつけられる。
爆発に後頭部を殴りつけられた様な感覚を受けて、俺の意識が段々と遠のいていくのを感じた……。
《え? あれ? あの、どちら様ですか…?》
《…どちら様とはご挨拶ね。貴方達が私をここに連れて来たんでしょう?》
謎の声はさも迷惑であったかの様に、責めた口調で俺に迫る。
『連れて来た』って事は恐らく……。
《あの、もしかしてあなた様は『ワガハイ』様でいらっしゃいますか…?》
《…私には『アナスタシア』って言う高貴な名前があるんですけどね。まぁ『ワガハイ』でも『チューハイ』でも好きに呼ぶと良いわ》
やっぱり連れて来たロボ猫が謎の声の正体だった。しかもパーソナルがメス(?)っぽい。
って言うか、猫型ロボットに人格とか付けなくても良くない? こいつが絡むイベントには俺様ドキドキしっぱなしだよ。心臓無いけど。
《ねぇ貴方、名前は…?》
艶めかしい声で猫が聞いてくる。声だけなら凄くセクシーな感じ。これでもし香奈さん並みのダイナマイトボディの持ち主だったら、大抵の男ならルパンダイブ確定だろうね。
《あ… 俺は宮本。ここじゃ71って呼ばれてるよ》
まぁ俺はロボ紳士だから、そんな事はしないし出来ない。
《ふーん、じゃあ71、私達の結婚式はいつにする?》
《…は?》
急に何を言い出すんだこいつは。
《だって貴方さっき私に告白してたでしょ? 受けてあげるから次は結婚でしょ?》
さもそれが当然であるかの様に論を重ねるお猫様。
《いやいや、待て待て。その理屈はおかしい。まずは友達からだな…》
《私の事が好きなんでしょ? 私も貴方が気に入ったわ。お互い気に入った男女はもう結婚して『つがい』になるしかないでしょ?》
…だめだ。こいつも、いやこのメス猫も人の話を聞かないタイプだ。
《な、なぁ、ちょっと待ってくれ。お互い冷静になろうぜ。そもそもなんでペット用のロボ猫に人間並みの思考回路が付けてあるの? 意味分かんないんだけど?》
《…もともと猫型ドローンは、その気まぐれな行動をシミュレートするために、カオス理論に基づいて思考パターンを構築してあるから、他の動物型ドローンに比べて高性能なのよ》
凄く興味無さげに対応された。『そんな事も知らないの?』的なニュアンスだ。
《ふむふむ。つまり自己進化して人格を獲得するに至った訳?》
《仕組みはよく分からないけど、そういう事かしら? 猫型は特に仲間で集まってデータ交換とかしているから、1匹そういう子が出てくると、連鎖的に人格が発生したりするわね》
マジかよ。俺らの世界の空き地とかの猫会議も何か深い話し合いがされていたのかもな……。
《そんな事はどうでも良いじゃない。大切なのは私達の今後でしょ…?》
…ここではっきりと分かった。こいつは人格を持っているのでは無くて、あくまで『人間並みの知能を持つ猫』なんだ。
だから判断基準や価値基準が猫のそれになるし、人間の常識は通じない。
えー? これどうしたら良いんだろう…?
《あ、でもごめんなさい。私には子孫を作るシステムが装備されていないの。だから私達には子供は望めないわ…》
そんなシステム俺だって無いわ!
《あのさ、今この船って戦争してるのよ。だから結婚とかそういう話は、この戦いが終わってから改めてやらないか?》
…そりゃ確かに俺だって異世界に転移してハーレム展開とか、想像してたし期待してたよ?
『獣人娘が出会って5分で「好き! 抱いて!」』とかいうシチュエーション憧れたし、あれば良いなぁとも思ってたよ。
でもよ……。
いくら何でもこれはケモナーレベル高すぎるだろ… せめてボディだけでも獣人系にするとか入れ替えてくれれば夢も広がるんだがなぁ……。
くそっ、せめて高橋か丑尾さんが《すざく》に居てくれれば獣人ボディにバージョンアップしてもらえたかも知れないのに…。
《ふーん、まぁ良いわ。でも待ってる間に他に素敵な男の子を見つけたら、靡いちゃうかも。ちゃんと私を捕まえてなきゃダメよ、ボ、ウ、ヤ》
…もう訳わかんねぇな。
とりあえずこの場は『ワガハイ』?『アナスタシア』?も気が済んだらしく、退屈そうに俺の足元から離れて行った。
☆
今、鈴代小隊は『鎌付き』らに襲撃されたと思しき2番目の基地の偵察に向かっていた。『鎌付き』達の進路は地上から見た場合、真っ直ぐに南下している様だった。
今はまだソ大連の領域内だから『すざく』も普通に行動できるが、これがもし他の国に逃げ込まれたら面倒な事になる。
外国… 全米連合や欧州帝国の奴らから見たら、俺達東亜連邦とソ大連所属の輝甲兵は全て『虫』に見えてしまうだろう。
また、東亜は東亜で厄介だ。俺達は彼らから反逆者の汚名を着せられている状態だから、問答無用で撃たれる可能性が高い。
しかも『鎌付き』らが奪っていった『はまゆり』は東亜連邦の船で、中には丙型や零式等の東亜の機体が積まれている。
現在『はまゆり』の扱いが東亜国内でどの様になっているのかは分からないが、近衛隊の言葉に拠れば脱走者扱いの様だった。
とりあえず貴重な零式や丙型を積んでいる以上、大人しく投降する振りでもしておけば一時的にでも姿を隠す事はできる。
もし『鎌付き』らに俺達の追跡を躱す為に東亜連邦に入られでもしたら、その時点でこの作戦は『詰み』になりかねない。
ただ、もし本当に『鎌付き』らが東亜に逃げ込むつもりなら、最初から東に逃げて東亜の領内に入ってしまえば良かったはずだ。
同様に欧州帝国が目的地なら、西に進路を取れば良かった。
だがしかし実際は『鎌付き』達は南に向かっている。これはつまり『奴らは南極点を通過して全米連合に入ろうとしている』のではないかと予想される訳だ。
始めから北極点経由で進まなかった理由も幾つか考えられる。
まず補給を必要としたならば、直近は大連から南下した台湾上空に東亜連邦の補給基地がある。
しかし近衛隊の連中が言っていた様に、始めはそこに向かって零式等で普通に戦おうとしたものの、東亜の守備隊に撃退されたのだろう。
恐らくはまどかの技量不足と、自爆戦術の確立前だったのだと予想される。
そこで西に逃げてからソ大連G-29宙域の第2中継基地に流れ着いたと考えるのが妥当だろう。
そして東亜連邦から追っ手が来る可能性を考えたら、東や北に戻るルートは取りづらいはずだ。
更に北極点には地球連合の政府コロニーがある。ここで何か行動を起こすと全世界から注目を集め、敵に回す事になる。
そこまでのリスクはいくら『鎌付き』でも取りたくないだろう。
何より奴らの目的地が南米大陸にある可能性も否めない。
といった感じで『鎌付き』らはアメリカで何かをしようとしている、という仮説のもとに俺達は行動している訳だ。
《…という事があったんだよ》
俺は『ワガハイ』との事の顛末を鈴代ちゃんに語っていた。
「そんなまさかぁ。ペットドローンにそこまでの高性能AIは積んでないでしょ?」
鈴代ちゃんは端から信じる気が無さそうだな。
《いや、俺もそう思ったんだけどさ、あの時の通信は確かに接触通信だったんだぞ? ロボ猫以外に俺に触ってた奴は居ないんだし、どう考えてもあの猫がな…》
「ハイハイ、お喋りはそこまで。次の基地に着いたわよ… って言っても前回と同じ様な感じで、大した情報は期待出来なさそうね…」
鈴代ちゃんの言う通り、俺達の目の前には前回と同様に虫食いだらけの基地があった。
《今度は犬のロボとか居たりしてな》
「…そしたら賑やかになるわね」
鈴代ちゃんはあまり興味が無さそうだ。犬はあまり好きじゃないのかな? いや『そうそう都合よく生き残りは居ない』って感じの答えだな。
「今回もαと∂で先行します。他は周囲の警戒を」
慣れた感じで鈴代ちゃんが命令を飛ばす。すかさず「了解」と5つの声が返って来る。
虫食い基地の探索も2度目だから、こちらも慣れたものだ。まずは基地全体を走査してみる。
《生体反応も熱源反応も無いな。ここもゴーストタウンだよ…》
「…今回の基地は完膚なきまでにやられていて、得られる情報は無さそうね」
そう、今回の基地は前回とほぼ同じ大きさだが、虚空現象による虫食いが余計に大きく見受けられた。
何と言うか、前回は物資を得る為に保管場所を探りながら穴を開けていたけれど、今回はそんな事お構い無しに、手当たり次第に穴を開けており、俺には『単に殺戮を目的とした襲撃』であるかの様に見受けられた。
これが『鎌付き』か或いはまどかかの考えで成されたのならば、奴らは輝甲兵爆弾のより効果的な使い方を『練習』していたのかも知れない。
まどかが自発的にそんな事を思いつくとは思えないから、恐らくは『鎌付き』の指示、または命令でやっているのだろう。
『鎌付き』が次第にまどかを使いこなして来ている状況に、並々ならぬ危機感を覚える。
『鎌付き』の中の人が悪人、或いは狂人であるならば、そう遠くないうちに居住コロニーに狙いを定める事は想像に難くない。コロニーなんて輝甲兵爆弾数発もあれば全壊させられちまう。
鈴代ちゃんの家族を含めて、この世界の住人はみな泥を啜る思いで生きている。そんな懸命に生きている罪も無い人達を応援してやりたい、守ってやりたい、という気持ちは外様の俺にだってもちろんある。
何にせよ今の段階では全てが仮説だ。少しでも良いから奴らの動機や目的に繋がる物が見つかって欲しいものだ。
「基地の内部にまで入り込んで、一際大きな虚空現象を起こした様な形跡がありますねぇ」
∂立花ちゃんが基地の外観から所見を述べる。確かに入り口よりも広い空間が中に確認できる。
「そこなら中のどこへ向かうにもアクセスが良さそうね。そこから入りましょうか」
という鈴代ちゃんの指示で2機の輝甲兵が基地内部へと侵入する。
…そして俺達は罠に嵌められた。
外壁と中の空間を繋ぐ通路の出口付近に恐らくはワイヤー式のブービートラップが仕掛けられていたんだ。
金属反応の無いカーボン繊維で張られたワイヤーに足を引っ掛け、すぐ後方で起きる爆発。その衝撃で俺達は反対側の球状内面の壁に正面から叩きつけられる。
爆発に後頭部を殴りつけられた様な感覚を受けて、俺の意識が段々と遠のいていくのを感じた……。
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