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第一章

呼ばれて飛び出てガシンガシン

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『ふあー もうダメ 眠すぎて死にそう この場で落ちますわー』

『おおー カリビンさんがログアウトする所なんてレアな場面に遭遇できたわーw』

『うっせー そういうこと言うバロッチ君にはもう手伝って上げませんw』

『嘘ですゴメンナサイ カリビン様サイコー!』

『仮眠して腹に何か入れたらまた来るから それまでにクエストイベント進めておいて』

『りょかい! く( • ̀ω•́  )✧』

『んじゃまたねー ノシ』

 俺はログアウトの処理をして立ち上がる。体の節々が痛い。60時間不眠でゲームするのも大変だ。ギルドの後輩の手伝いも先輩の立派な仕事だ。

 MMORPG、いわゆる『ネトゲ』と言われる多人数で遊ぶゲーム。
 そこで俺はゲーム内ギルドのリーダーとして、もっぱら新参のプレイヤー達の指導や、クエストクリアに必要なアイテム取り等、メンバーの諸々の手伝いをしている。

 そういやここ半年ほどは自分の用事で何かをした記憶が無いな……。
 気苦労だけが多い立ち位置だが、まぁ結構そんな頼られる自分が嫌いじゃ無かったりする。

 画面の向こうの俺は頼りになって格好いい長身の騎士様だけど、現実の俺は辛うじて入ったFランクの大学を2留して、親から勘当されつつあるロクデナシだ。
 もう現実の事は考えたら負けだと思っている。

 一人暮らしでネトゲ三昧の為に汚部屋と化してはいるが、決して引きこもりではない。コンビニや銭湯くらいは行く。たまにだが。

 まぁその辺の事はどうでも良い。今はこの睡魔に身を預ける事が第一優先の行動だ。
 月単位で干してない煎餅布団に倒れ込んで、三つ数える前に俺は爆睡していた。

 ☆

「…さん、みや… いちさん…」

 夢の中で誰かが俺の名前を呼ぶ。何故夢と分かるかというと声の主が若い女だからだ。俺が若い女から名前を呼ばれるなんて病院の待合室くらいしか無いし、俺はこの一年病院には行っていない。
 ギルドの女キャラクターから話しかけられる事は多々あるが、その時の名前はアバターの『カリビン』だ。本名じゃない。

 という訳で夢が確定したので俺は夢の中で目を覚ます。夢の中でハッキリ夢だと認識できる夢も珍しい。俺はリクルートスーツを着てパイプ椅子に座っていた。

 目の前には眼鏡をかけたややぽっちゃり系のお姉さんがホワイトボードの前で立っていた。軍服の様にも見える何かの制服を着ている。
 お姉さんは俺に深々とお辞儀をして口を開く。

「本日は当社の新戦力勧誘説明会にお越し頂きありがとうございます。私は今回担当させて頂く真柄まがらと申します」

 それに合わせて俺も「ども」と頭を下げる。
 お姉さん、もとい真柄さんはにこやかに話を進める。

「本日はですね、貴方の若い力を是非とも当社の新戦力としてお迎えしたいと思いましてお呼びしました」

 えと、何これ? 就職の面接? 俺、まだ卒業見込み立たないんですけど大丈夫なのかな?

「はい、大丈夫ですよ。学歴や職歴は一切不問です」

 え? 口に出してないのに何で分かった? 心読んだとか?

「はい、余計な手間をかけずに本音でぶつかり合いましょう」

 マジかよ。エロい事考えたらどうなるの?

「え? エロい事… ですか…」

 真柄さんはそう言うと制服の上着を脱ぎ、中のブラウスのボタンを恥ずかしそうに外しだした。俺は突然のラッキースケベイベントに目が離せない。

 そしてブラウスを脱いだ真柄さんは… その下に今脱いだ筈の上着とブラウスを着ていた。

「裸になると思いました? 残念! 私はプログラ厶なのでこれ以上脱げないんですよ」

 爽やかに話す言葉が余計に腹立たしい。機械だってんなら殴ってやろうか。

「あん、怒っちゃダメですよ? 私の話を最後まで聞いてもらえればきっとイイ事がありますから…」

 真柄さんの対応が何となく色っぽくなる。俺に合わせてインターフェイスを変えたりしたのだろうか?

「ご名答! やっぱり貴方は素敵な才能を持っていらっしゃるわ。すぐにでも採用したいくらいですよ」

 さっきから採用とか新戦力とか景気の良い話をしているけど、そもそもお宅の会社(?)は何してる所なの?

「説明するより実際に見て頂きましょう」

 そう言って真柄さんは後ろに手を広げる。するとホワイトボードにスクリーンが現れて映像が映しだされる。
 画面に映ったのは宇宙空間で多数の人型ロボットが、これまた多数の虫型のモンスターと戦っている場面だった。

 映像の出来としては普通のCGアニメかな? って感じで俺らの年代には特別に刺さる様なものでは無かった。
 ロボット軍団の方は携帯したり内蔵した火器を使って、カナブンに似た虫型モンスターを狩っていた。キルレートは凡そ20対1、文字通りの虐殺だ。ロボット側からすればほぼ『無双』という言い方も出来る。

 何より印象的なのはロボット達は全員宝石を散りばめているかの様にキラキラした外装をしている。デコっている感じでは無くて装甲その物が光っているのだろう。

「貴方、巨大ロボットに乗ってみたくはありませんか? 日本男児たる者、『変身!』と『行きまーす!』は絶対憧れますよね?」

 え? ま、まぁね。一生に一回くらい機会があったらやってみたいかな?

「素晴らしい! 我が軍の『輝甲兵《きこうへい》』は貴方のその望みを叶えてくれます! 貴方は今のその貧相な体を脱ぎ捨て、新たに強靭な肉体と鋼の精神を持ってこの世界に舞い降り、やがて伝説となるでしょう!」

 新戦力って、比喩じゃなくてそのまんまの意味かよ。って言うか貧相で悪かったな。どうせその辺の女子にすら筋力負けてるよ……。

 そこで真柄さんは今までのアトラクションの進行係の様な雰囲気をガラッと変え、真面目な顔で俺を見つめて口を開いた。

「貴方は今、人類の英雄になれる機会を得ました。どうか私共に力を貸して下さい。貴方の力で人類の敵、邪悪な虫共を殲滅して頂きたいのです」

 うーん、俺の力って言うけど、俺はケンカも強くないし、アクションゲームだって上手くない。対戦シューティングとかやっても1人倒す間に5回は殺される。そんな俺でも強ぇぇぇTueeee出来るのかな? て言うか役に立つのかな?

「我々が必要としているのは貴方のその生命力です。他の力は二の次ですよ。…さぁ、聞かせて下さい、貴方の選択を!」

 いやまぁ選択をって言ったってこれ夢だしなぁ。夢の中だから別に死んだりしても構わないかな? やっぱり何だかんだ言って巨大ロボはロマンだもんな!

 うん、良いよ。このキラキラしたロボに乗って戦ってみたい。答えは『イエス』だ!
 そう(心の中で)答えた途端、世界が暗転して一切の音も聞こえなくなった。

 そして急に鳴り響くアラームの音。設定していた目覚ましの音とは少し違っていたけど、まぁいいか。

 あー、何だよ。もう少しでロボ無双出来たのに、いい所で仮眠時間終了かよ。バロッチの奴の手伝いを始める前に何か食っておかないとな……。

 って、俺の部屋ずいぶん明るくね? さっきログアウトしたのが午前2時半頃で仮眠時間30分としてまだ3時。それにしては周りが妙に明るい。寝過ごしたのかな? 時計を確認しようと頭の上で鳴っているアラーム時計を取ろうとするが、金縛りに遭ったかのように手が動かない。

 視界がはっきりしてくると更に異常な事態になっていた。俺の周りを作業服の様なツナギを着た小さい妖精さん(?)達が走り回っているのだ。
 場所も明らかに俺の部屋じゃない。どこかの倉庫か格納庫と言った感じの広い部屋だ。

 正面に目を向けると、ぴっちりとした宇宙服の様な服に身を包んだ高校生くらいの年頃の女の子が立っていた。身長は20cm弱くらいか? 彼女の足場は俺の腹とか腰の辺りで少し上を向いて俺の顔を見つめている。

 少し釣り目の気の強そうな面立ちで、綺麗な黒い髪をショートカットにしている彼女。やや垢抜けない感じだが、素材は間違い無く美少女だ。小人さんとはいえ、あまり女性に免疫が無いので少し照れる。

「これが貴方の初陣よ『3071サンマルナナヒト』、虫共に私達の力を見せ付けてやりましょう!」
 彼女はそう言って俺の腹の蓋を開け(!)俺に乗り込んできた。

 ん? あれ? 俺、ロボットに乗るんじゃなくて、ロボットその物になってませんか?!
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