上 下
4 / 15
序章

序章④

しおりを挟む
 目が覚めて一番に飛び込んできたのは、私の大好きなエメラルドだった。見たことないくらい大きく開かれた宝石みたいな瞳が、周囲の赤を反射して、キラキラキラキラと輝いている。

「あんじゅ、あんじゅ、おまえ、おきて、」
「…」

  なんだか、周囲がやけに熱い。寝起きだからだろうか、頭もうまく働かない。どうしてだかは分からないけれど、にいさまに触れなくてはならないような気がして、先ほどと同様に頬に触れる。さっきよりもずっとずっと熱い。ああ、よかった、冷えて風邪は引かなかったのか。安堵して微笑めば、ぽたりと空から雫が落ちた。

「まってろ、にいさまに任せとけ。すぐ助けてやるからな。」
「にい、さま、」
「大丈夫、大丈夫だから。俺でダメならユーゴもいる。あいつの魔法はすげえんだ。賢者の血なんてもん、あいつが全部持ってっちまったんじゃねえかってくらい。だから、だから、あんしんしろ。いたいよな、あついよな、でも、でもさ、おれが、」

 空に、星が瞬いていた。夥しい量の星が降る。瞬間、理解した。してしまった。ああ、これが。せっかく、知ることができたのに。にいさまの未来を、予測することができたのに。なのに、そうか、きょうが。

「せい、べつ、」
「…アンジュ、しって、」
「かみさまって、いじわるね。」

 頬をふにふにと揉みながら、わたしは精一杯微笑んだ。彼の傷になんて、なりたくなかったから。未来の彼を間近で見れないのは少し残念だけれど、それはそれだ。今は何より、彼に幸せになってもらいたかった。

「にいさま、」
「だいじょうぶ、だいじょうぶだ。神様だって見てくれてる。お前は助かる。何に力を借りたって、助けるから。」
「にいさま、あのね。」
「お前が望むなら、何にだって祈ってやる。だから、」
「にいさま。」

 ふにぃ、と弱々しい力で彼の頬を摘んだ。歪んだエメラルドから、ひっきりなしに涙がこぼれ落ちる。場違いにもその美しさに見惚れてしまいそうになった。今はそれどころではないのだけれど。

「あのね、にいさま。」
「…あん、じゅ、」
「にいさま、いきて。しんじゃ、だめだよ。」
「…なに、いってんだ、おまえ、」
「わたしね、にいさまが、しあわせに、いきてくれたら、うれしいの。」
「…いや、だ、いやだ、いやだ、お前も一緒に生きるんだ、この村は無くなっちまうかもしれないけど、でも、でもさ、外にだっていくらでも。」
「にいさま、わたしね。」

 力が入らない。そこでふと、自分が焼けこげた毛布を丁寧に掛けていることに気がついた。ほらね、わたし、蹴飛ばさなくなったのよ。

「生まれ変わっても、あなたのことがだいすきよ。」

 実際、人生超えて大事に想っちゃっているのだから、間違っていないでしょう。

 最期の言葉は届いたのか不明瞭だった。ちょっと残念だなあ。そんなことを考えた自分の鼓膜を揺らしたのは、彼の絞るような声である。

「みとめない、おまえが、しんじまうなんて、みとめない。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

家庭の事情で歪んだ悪役令嬢に転生しましたが、溺愛されすぎて歪むはずがありません。

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるエルミナ・サディードは、両親や兄弟から虐げられて育ってきた。 その結果、彼女の性格は最悪なものとなり、主人公であるメリーナを虐め抜くような悪役令嬢となったのである。 そんなエルミナに生まれ変わった私は困惑していた。 なぜなら、ゲームの中で明かされた彼女の過去とは異なり、両親も兄弟も私のことを溺愛していたからである。 私は、確かに彼女と同じ姿をしていた。 しかも、人生の中で出会う人々もゲームの中と同じだ。 それなのに、私の扱いだけはまったく違う。 どうやら、私が転生したこの世界は、ゲームと少しだけずれているようだ。 当然のことながら、そんな環境で歪むはずはなく、私はただの公爵令嬢として育つのだった。

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

転生した悪役令嬢は破滅エンドを避けるため、魔法を極めたらなぜか攻略対象から溺愛されました

平山和人
恋愛
悪役令嬢のクロエは八歳の誕生日の時、ここが前世でプレイしていた乙女ゲーム『聖魔と乙女のレガリア』の世界であることを知る。 クロエに割り振られたのは、主人公を虐め、攻略対象から断罪され、破滅を迎える悪役令嬢としての人生だった。 そんな結末は絶対嫌だとクロエは敵を作らないように立ち回り、魔法を極めて断罪フラグと破滅エンドを回避しようとする。 そうしていると、なぜかクロエは家族を始め、周りの人間から溺愛されるのであった。しかも本来ならば主人公と結ばれるはずの攻略対象からも 深く愛されるクロエ。果たしてクロエの破滅エンドは回避できるのか。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

処理中です...