28 / 55
28
しおりを挟む
◇
――その次の日。
その日も春鈴は祭に出す料理の練習をするため、厨房で準備を進めていた。
そんな春鈴のもとに、いつも料理の材料を届けてくれる龍族たちが、文字通り慌てて飛び込んで来たのだった――
「――えっ? ヨモギが全滅⁉︎」
「ああ……昨日まではあんなに生い茂っていたと言うのに……今朝行ってみたら一本も……」
「ええー……?」
(――庭師の人に雑草認定されちゃったとか……? あ、いちいちあそこの庭園には入れないから、ヨモギ取るのは、里の近くの森だって言ってたっけ……?)
「……その、春鈴殿になにか考えは無いだろうか? その、我らにはどうにも心当たりが……」
飛び込んできた龍族たちは、懇願するように春鈴にたずねる。
春鈴の料理は、もうすでに多くの龍族――それもわりと高い地位の者たちが楽しみにしているものになっていた。
そんな春鈴の料理が、材料が調達出来なかったため今日は作れなかった――となれば、春鈴はともかく担当の龍族たちにお叱りがあることは十分に考えられたのだ。
うすうすそんな事情に気がついていた春鈴は、少し困ったように眉を寄せながらも、不安そうな顔つきの龍族たちを安心させるように大きく頷いた。
「――どうにもならなかったら、蓮歌山まで取りに行きます。 あの山ならどこになにが生えてるか全部知ってるから、すぐに集められると思うし……」
「なるほど……!」
春鈴の言葉に顔を明るくする龍族たち。
「――でもなんでヨモギ無くなっちゃったんだろうね?」
「それが、我々にも全く心当たりが……」
「我ら龍族は、ヨモギを使った料理を知りませんし……」
厨房の中、春鈴と龍族たちは、揃って首を傾げるのだった――
◇
――そんな騒動の翌日。
「申し訳ございません!」
蒼嵐に向かい、見慣れない龍族たちが深々と頭を下げていた。
「……どうしたの?」
そんな姿を隣の部屋から眺めながら、春鈴は近くにいた優炎に小声でたずねる。
「蒼嵐様の所に届くはずだった書類の大部分が誰に誰かに隠されていたようだ」
優炎は目を細め、忌々しそうに蒼嵐の前にいくつも積み上げられた書類の山を睨みつける。
――届くべきはずの書類が届いていなかったのは蒼嵐側も把握しており、それを問い合わせ、ようやく隠されていたという書類を発見した役人たちが、慌てて蒼嵐のもとに駆け込んで来たようだ。
「…………蒼嵐いじめられてんの?」
優炎の答えに驚いた春鈴の口からは、思わずそんな言葉が漏れ出ていた。
その言葉を聞き取った蒼嵐は呆れたように息をつくと、目の前で頭を下げ続ける龍族を一瞥しながら口を開く。
「――これは、そんな些細な問題ではない」
その言葉にビクリと体を震わせ、さらに頭を下げる龍族たち。
そんなやり取りに、春鈴は確認するような視線を優炎に向けた。
優炎は小さくうなずき蒼嵐の言葉を肯定する。
「蒼嵐様の許可が遅れれば、最悪場合、人が死ぬこともり得る……」
「ええ⁉︎」
「最悪の場合、だがな。 だが……――これらの書類の中にそのような重大なものが混じっていた場合、ただの紛失では済まされんぞ」
「っ申し訳も!」
蒼嵐の言葉にさらに頭を下げ、みな、顔が膝に付いてしまいそうだった。
「――さっさと行って、詳細をつまびらかにせよ」
「はっ!」
そう短く返し、そそくさと部屋から出て行く龍族の役人たち。
「優炎、浩宇! 確認を手伝え! この上で洩れがあったとすれば、被害が拡大すると心得よ!」
「はっ!」
二人は同時に返事をすると、素早く動き、届けられた書状を確認し始めた。
――三人がかりで書類の中身を確認し、蒼嵐に仕えるすべての役人たちと共に、休憩も休みもなく、各方面へ式を飛ばして事実確認した結果、人命に関わるような案件の書類は紛れていなかったが、報告されていたものよりも事態が悪化し、解決するために予算の組み直しを余儀なくされた件が何件か出てしまった、とのことだった。
「……なんだってこんなことに」
休憩も取らずに作業を進める蒼嵐たちのために、片手でつまめる軽食を用意しながら、春鈴は困惑したように首をかしげるのだった。
――その次の日。
その日も春鈴は祭に出す料理の練習をするため、厨房で準備を進めていた。
そんな春鈴のもとに、いつも料理の材料を届けてくれる龍族たちが、文字通り慌てて飛び込んで来たのだった――
「――えっ? ヨモギが全滅⁉︎」
「ああ……昨日まではあんなに生い茂っていたと言うのに……今朝行ってみたら一本も……」
「ええー……?」
(――庭師の人に雑草認定されちゃったとか……? あ、いちいちあそこの庭園には入れないから、ヨモギ取るのは、里の近くの森だって言ってたっけ……?)
「……その、春鈴殿になにか考えは無いだろうか? その、我らにはどうにも心当たりが……」
飛び込んできた龍族たちは、懇願するように春鈴にたずねる。
春鈴の料理は、もうすでに多くの龍族――それもわりと高い地位の者たちが楽しみにしているものになっていた。
そんな春鈴の料理が、材料が調達出来なかったため今日は作れなかった――となれば、春鈴はともかく担当の龍族たちにお叱りがあることは十分に考えられたのだ。
うすうすそんな事情に気がついていた春鈴は、少し困ったように眉を寄せながらも、不安そうな顔つきの龍族たちを安心させるように大きく頷いた。
「――どうにもならなかったら、蓮歌山まで取りに行きます。 あの山ならどこになにが生えてるか全部知ってるから、すぐに集められると思うし……」
「なるほど……!」
春鈴の言葉に顔を明るくする龍族たち。
「――でもなんでヨモギ無くなっちゃったんだろうね?」
「それが、我々にも全く心当たりが……」
「我ら龍族は、ヨモギを使った料理を知りませんし……」
厨房の中、春鈴と龍族たちは、揃って首を傾げるのだった――
◇
――そんな騒動の翌日。
「申し訳ございません!」
蒼嵐に向かい、見慣れない龍族たちが深々と頭を下げていた。
「……どうしたの?」
そんな姿を隣の部屋から眺めながら、春鈴は近くにいた優炎に小声でたずねる。
「蒼嵐様の所に届くはずだった書類の大部分が誰に誰かに隠されていたようだ」
優炎は目を細め、忌々しそうに蒼嵐の前にいくつも積み上げられた書類の山を睨みつける。
――届くべきはずの書類が届いていなかったのは蒼嵐側も把握しており、それを問い合わせ、ようやく隠されていたという書類を発見した役人たちが、慌てて蒼嵐のもとに駆け込んで来たようだ。
「…………蒼嵐いじめられてんの?」
優炎の答えに驚いた春鈴の口からは、思わずそんな言葉が漏れ出ていた。
その言葉を聞き取った蒼嵐は呆れたように息をつくと、目の前で頭を下げ続ける龍族を一瞥しながら口を開く。
「――これは、そんな些細な問題ではない」
その言葉にビクリと体を震わせ、さらに頭を下げる龍族たち。
そんなやり取りに、春鈴は確認するような視線を優炎に向けた。
優炎は小さくうなずき蒼嵐の言葉を肯定する。
「蒼嵐様の許可が遅れれば、最悪場合、人が死ぬこともり得る……」
「ええ⁉︎」
「最悪の場合、だがな。 だが……――これらの書類の中にそのような重大なものが混じっていた場合、ただの紛失では済まされんぞ」
「っ申し訳も!」
蒼嵐の言葉にさらに頭を下げ、みな、顔が膝に付いてしまいそうだった。
「――さっさと行って、詳細をつまびらかにせよ」
「はっ!」
そう短く返し、そそくさと部屋から出て行く龍族の役人たち。
「優炎、浩宇! 確認を手伝え! この上で洩れがあったとすれば、被害が拡大すると心得よ!」
「はっ!」
二人は同時に返事をすると、素早く動き、届けられた書状を確認し始めた。
――三人がかりで書類の中身を確認し、蒼嵐に仕えるすべての役人たちと共に、休憩も休みもなく、各方面へ式を飛ばして事実確認した結果、人命に関わるような案件の書類は紛れていなかったが、報告されていたものよりも事態が悪化し、解決するために予算の組み直しを余儀なくされた件が何件か出てしまった、とのことだった。
「……なんだってこんなことに」
休憩も取らずに作業を進める蒼嵐たちのために、片手でつまめる軽食を用意しながら、春鈴は困惑したように首をかしげるのだった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる