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 ――その次の日。
 その日も春鈴は祭に出す料理の練習をするため、厨房で準備を進めていた。
 そんな春鈴のもとに、いつも料理の材料を届けてくれる龍族たちが、文字通り慌てて飛び込んで来たのだった――
 
「――えっ? ヨモギが全滅⁉︎」
「ああ……昨日まではあんなに生い茂っていたと言うのに……今朝行ってみたら一本も……」
「ええー……?」
(――庭師の人に雑草認定されちゃったとか……? あ、いちいちあそこの庭園には入れないから、ヨモギ取るのは、里の近くの森だって言ってたっけ……?)
「……その、春鈴殿になにか考えは無いだろうか? その、我らにはどうにも心当たりが……」
 飛び込んできた龍族たちは、懇願するように春鈴にたずねる。
 
 春鈴の料理は、もうすでに多くの龍族――それもわりと高い地位の者たちが楽しみにしているものになっていた。
そんな春鈴の料理が、材料が調達出来なかったため今日は作れなかった――となれば、春鈴はともかく担当の龍族たちにお叱りがあることは十分に考えられたのだ。

 うすうすそんな事情に気がついていた春鈴は、少し困ったように眉を寄せながらも、不安そうな顔つきの龍族たちを安心させるように大きく頷いた。
「――どうにもならなかったら、蓮歌山まで取りに行きます。 あの山ならどこになにが生えてるか全部知ってるから、すぐに集められると思うし……」
「なるほど……!」
 春鈴の言葉に顔を明るくする龍族たち。
「――でもなんでヨモギ無くなっちゃったんだろうね?」
「それが、我々にも全く心当たりが……」
「我ら龍族は、ヨモギを使った料理を知りませんし……」
 厨房の中、春鈴と龍族たちは、揃って首を傾げるのだった――
 

 
 ――そんな騒動の翌日。
 
「申し訳ございません!」
 蒼嵐に向かい、見慣れない龍族たちが深々と頭を下げていた。
「……どうしたの?」
 そんな姿を隣の部屋から眺めながら、春鈴は近くにいた優炎に小声でたずねる。
「蒼嵐様の所に届くはずだった書類の大部分が誰に誰かに隠されていたようだ」
 優炎は目を細め、忌々しそうに蒼嵐の前にいくつも積み上げられた書類の山を睨みつける。
 
 ――届くべきはずの書類が届いていなかったのは蒼嵐側も把握しており、それを問い合わせ、ようやく隠されていたという書類を発見した役人たちが、慌てて蒼嵐のもとに駆け込んで来たようだ。
 
「…………蒼嵐いじめられてんの?」
 優炎の答えに驚いた春鈴の口からは、思わずそんな言葉が漏れ出ていた。
 その言葉を聞き取った蒼嵐は呆れたように息をつくと、目の前で頭を下げ続ける龍族を一瞥しながら口を開く。
「――これは、そんな些細な問題ではない」
 その言葉にビクリと体を震わせ、さらに頭を下げる龍族たち。
 そんなやり取りに、春鈴は確認するような視線を優炎に向けた。
 優炎は小さくうなずき蒼嵐の言葉を肯定する。
「蒼嵐様の許可が遅れれば、最悪場合、人が死ぬこともり得る……」
「ええ⁉︎」
「最悪の場合、だがな。 だが……――これらの書類の中にそのような重大なものが混じっていた場合、ただの紛失では済まされんぞ」
「っ申し訳も!」
 蒼嵐の言葉にさらに頭を下げ、みな、顔が膝に付いてしまいそうだった。
「――さっさと行って、詳細をつまびらかにせよ」
「はっ!」
 そう短く返し、そそくさと部屋から出て行く龍族の役人たち。
「優炎、浩宇! 確認を手伝え! この上で洩れがあったとすれば、被害が拡大すると心得よ!」
「はっ!」
 二人は同時に返事をすると、素早く動き、届けられた書状を確認し始めた。
 
 ――三人がかりで書類の中身を確認し、蒼嵐に仕えるすべての役人たちと共に、休憩も休みもなく、各方面へ式を飛ばして事実確認した結果、人命に関わるような案件の書類は紛れていなかったが、報告されていたものよりも事態が悪化し、解決するために予算の組み直しを余儀なくされた件が何件か出てしまった、とのことだった。
 
「……なんだってこんなことに」
 休憩も取らずに作業を進める蒼嵐たちのために、片手でつまめる軽食を用意しながら、春鈴は困惑したように首をかしげるのだった。
 
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