上 下
831 / 1,038

831

しおりを挟む
「あ、いや……すまん」

 リアーヌの反応に、シンイチは気まずそうに言葉を濁しながら視線を逸らした。

「ーーうちから望む条件は金銭では無かったので? ……今では良い縁を掴んだものだと、自分の幸運に感謝していますよ」

 ゼクスはリアーヌを見つめながら、ふにゃりと照れ臭そうに笑いながら言う。
 それをリアーヌは少し照れくさく感じながら前髪をいじる。

(ーー……いや、イイハナシダナー風にまとめたけど、この人完全に騙し討ちしてきたんですけどねー? ーーまぁ……今となっては、そこまで気にしてないんだけどさぁー?)

 視線を揺らしながら前髪をいじっていたリアーヌは、チラリとシンイチを見つめた後、ゼクスに向かってそっとたずねた。

「それっぽっちじゃ無いですよね……?」
「ーー……まぁ? ほら、商家に嫁ぐって考えれば、そんなもんなんじゃ無いかな?」
「ーーですよねぇー⁉︎」

 ゼクスの言葉にリアーヌはホッとしたように同意する。

「いや、そこ平均以上……」

 呆れながらそう喋り始めたシンイチだったが、仲の良さそうなリアーヌたちの姿に(……別にそんなこと、どうでも良いか)と考え直し、少し芝居がかった口調で話を変えた。

「いやぁ……ーーその、誤解しちまって悪かったな? ……金の話だけじゃ無く嬢ちゃんのこともさ?」

 へらり……と笑いながら、すまんすまんと顔の前で手を立てているシンイチの仕草に少しの懐かしさを感じ、和んだリアーヌはフンスッと一つ鼻を鳴らすと、少し芝居がかった口調で「分かれば良いんですよ」と、大袈裟に胸を張った。
 その態度から、気分を害しているわけでは無いと理解したのか、シンイチはホッとしたようにヘラリ……と微笑みを浮かべた。

「いやぁ……ーー人の好みなんて分かんねぇもんだなぁ……」

 ポソリと呟かれたシンイチの言葉に、リアーヌの顔が盛大に歪む。

「ーー精神的に苦痛を感じたので慰謝料としてもう一割値引いてーー」
「悪かった! 謝るっ!!」

 ぶっすりと頬を膨らませるリアーヌの言葉にシンイチが慌てて声をかけ、ゼクスもリアーヌを宥めるように声をかけた。

「……リアーヌ、本当にそんなに引いちゃうと、次からの取引消える可能性があるから……」

 そんな二人の説得に、リアーヌは面白くなさそうにフンッと盛大に鼻を鳴らすのだったーー



 宿の部屋の中、帰り支度をしているアンナたちを眺めながら、リアーヌは最後のアウセレ料理として、屋台で買ってきた食べ物たちを堪能していた。

(お土産はこれでもかってぐらい買い込んだし、お米や味噌、昆布にかつおぶしもたくさん買ったから、これでおにぎりとお味噌汁ぐらいは向こうでも食べられる!)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...