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ーーこれは事実で、リアーヌがあまりにアウセレの料理ばかりを好むのを心配したアンナとオリバーによって、アウセレの料理は一日一食までと制限されていたのだった。
ーーもっとも、その本人たちは、そんな制限をしてしまったことを、今現在、心から後悔しているのだったが……
「……つまり、今日のアウセレ料理はこれが始めて、ということですのね?」
「ーー相当我慢されていたんでしょうな……?」
タカツカサ夫妻は、何気なさを装いながら会話していたが、その言葉や肩が微妙に震えていることが、笑いを噛み殺している事実を物語っていた。
「ゼクス様! ここのご飯、本当に美味しいですよ⁉︎ 食べないと損ですよ⁉︎」
リアーヌはうなぎに全く手をつけていないゼクスに驚愕の表情を浮かべながら言う。
「ーーうん、今いただくよ……」
(リアーヌ……これ、ごくごく小規模ではあるけど食事会談だよ……? 社交の一環だよ……? 美味しいレストランに食事しにきたんじゃねぇんだよなぁ……?)
「……そんなに気に入りました?」
夫人が、どこか得意げにリアーヌに話しかける。
が、そんなことには全く気が付いていないリアーヌは、うなぎから少しだけ顔を上げ、大きく頷いた。
「はい! このお米で作ったおにぎりが食べたいです。 塩だけでもきっとご馳走ですよ! そのぐらい美味しいです!」
「ーーまぁ⁉︎」
そんなリアーヌの発言に夫人は驚いたように声を上げる。
しかしその声に嫌悪感などは感じられず、どこか楽しそうな雰囲気さえ感じ取れるものだった。
「ちょ、リアーヌ……⁉︎」
しかしゼクスからしてみれば、これだけ沢山の料理を並べられておきながら、屋台で売っているようなものをご馳走だと称するのは、失礼極まりない話で、慌ててリアーヌを止めに入る。
その瞬間「あははっ」と言う楽しげな笑い声がタカツカサ伯爵の口から出て、ゼクスは思わず動きを止めた。
「あー、いや失礼……しかしーーリアーヌ様の言い方があまりにも……」
そう言いながら伯爵は夫人に視線を送る。
それを受け大きく頷く夫人。
「ええ、私の父にそっくり! ディスディアス国の、しかもこんなお若い方に気に入ってもらえたと分かったら、きっと喜ぶわ? もちろんうちの領民たちも」
「うちの料理人も鼻が高いだろう」
「そうね! こんなに喜んでくれてるんですもの」
そう言うと夫妻はリアーヌに視線を向け、もぐもぐと美味しそうに咀嚼している姿を見て、また視線を絡ませ合いながらクスクスと笑い声を上げた。
少し戸惑っていたゼクスだったが、そんな夫妻の態度と会話から、不愉快に感じているわけでは無いということを理解すると共に、会話の糸口を見つけていた。
ーーもっとも、その本人たちは、そんな制限をしてしまったことを、今現在、心から後悔しているのだったが……
「……つまり、今日のアウセレ料理はこれが始めて、ということですのね?」
「ーー相当我慢されていたんでしょうな……?」
タカツカサ夫妻は、何気なさを装いながら会話していたが、その言葉や肩が微妙に震えていることが、笑いを噛み殺している事実を物語っていた。
「ゼクス様! ここのご飯、本当に美味しいですよ⁉︎ 食べないと損ですよ⁉︎」
リアーヌはうなぎに全く手をつけていないゼクスに驚愕の表情を浮かべながら言う。
「ーーうん、今いただくよ……」
(リアーヌ……これ、ごくごく小規模ではあるけど食事会談だよ……? 社交の一環だよ……? 美味しいレストランに食事しにきたんじゃねぇんだよなぁ……?)
「……そんなに気に入りました?」
夫人が、どこか得意げにリアーヌに話しかける。
が、そんなことには全く気が付いていないリアーヌは、うなぎから少しだけ顔を上げ、大きく頷いた。
「はい! このお米で作ったおにぎりが食べたいです。 塩だけでもきっとご馳走ですよ! そのぐらい美味しいです!」
「ーーまぁ⁉︎」
そんなリアーヌの発言に夫人は驚いたように声を上げる。
しかしその声に嫌悪感などは感じられず、どこか楽しそうな雰囲気さえ感じ取れるものだった。
「ちょ、リアーヌ……⁉︎」
しかしゼクスからしてみれば、これだけ沢山の料理を並べられておきながら、屋台で売っているようなものをご馳走だと称するのは、失礼極まりない話で、慌ててリアーヌを止めに入る。
その瞬間「あははっ」と言う楽しげな笑い声がタカツカサ伯爵の口から出て、ゼクスは思わず動きを止めた。
「あー、いや失礼……しかしーーリアーヌ様の言い方があまりにも……」
そう言いながら伯爵は夫人に視線を送る。
それを受け大きく頷く夫人。
「ええ、私の父にそっくり! ディスディアス国の、しかもこんなお若い方に気に入ってもらえたと分かったら、きっと喜ぶわ? もちろんうちの領民たちも」
「うちの料理人も鼻が高いだろう」
「そうね! こんなに喜んでくれてるんですもの」
そう言うと夫妻はリアーヌに視線を向け、もぐもぐと美味しそうに咀嚼している姿を見て、また視線を絡ませ合いながらクスクスと笑い声を上げた。
少し戸惑っていたゼクスだったが、そんな夫妻の態度と会話から、不愉快に感じているわけでは無いということを理解すると共に、会話の糸口を見つけていた。
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