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「嬢は、どっかの店で働いてたのか?」
「図書館で写本してました。 顔役に仕事斡旋してもらって」
「写本! そりゃいい金になったろ?」
「あー……どうなんでしょう?」
「……写本は高級品だぞ?」
「そうなんですけど……ーーそこの顔役だった親方には最初から「あんまり割りのいい仕事は回せねぇからな」って言われてましたし」
「ーー子供だからって……!」

 ムッと顔をしかめながら憤る船員たちに、リアーヌは慌てて詳しい事情を説明する。

「その、子供だからトラブル防止で私に任せても構わないって言ってくれる人の仕事しか回してもらえませんでしたしーー子供のお小遣い稼ぎで大人の稼ぎ場を荒らすのはあとがこえーんだって言われてたんで……!」

(あの人たちのほとんどは家庭があって家族がいた人たち。 いなくたって、自分の生活を自分で守らなきゃいけないんだから、稼ぎ場を荒らされて仕事にありつけなくなったら確実に恨まれてた。 あれだけの数の大人たちを敵に回すのは絶対得策じゃないって……)

「私はお菓子やちょっとした日用品ーーお茶や砂糖、ちょっといいお肉なんかが買えればそれで良かったんで……」

 リアーヌの説明を聞いた船員たちは、面白くなさそうに鼻を鳴らしながらも、納得はしたようだった。

「……まぁ? そんな子供に仕事取られたらーー面白くはねぇよな?」
「頭にはきちまうよなー……?」
「だから子供のおこずかい程度しか稼いでませんでしたし、それでも文句言ってくるやつは親方が対応してくれてました。 ……その分、上前もはねられてましたけどー……」
「あー……」
「ーー顔役って感じだな……?」
「……まぁ、取られるよなー?」

 身に覚えがあるのか、船員たちは顔をしかめ、困ったように肩をすくめ合いながらリアーヌに同情的な視線を送る。
 そんな視線にリアーヌも肩をすくめ返しながら答える。

「きっとどこでも一緒だよね? でもそこの親方は……割といい人だったよ。 そのこともひっくるめて全部説明してくれてたし、私たちは親方にだいぶがめられてる可哀想な子供たちでいられた」
「……良いのか悪いのか」
「ーー子供だったんなら……安全に働けるだけで悪くはねぇんだろうけどな?」
「……その親方がいいとこ取り過ぎな気がしねぇか?」

 そんな船員の言葉にリアーヌはきょとりと目を丸くしながら首を傾げた。

「……どこのどんな職業だって、顔役や元締めが一番いいとこ取ってくんじゃ無いの?」
「ーーその通りだな?」
「たまーに一歩引くが、たいがいいい思いすんのは元締めだわな?」

 その言葉に頷きながら、リアーヌは(いや待てよ……?)と疑問を感じていた。
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