766 / 1,038
766
しおりを挟む
◇
「ううう……」
リアーヌは初めての大型商船の一室でソファーに倒れ込み、初めての船旅の洗礼を受けていた。
「お嬢様……」
その周りにはアンナとオリバー、そしてゼクスがいて、眉を下げながらリアーヌを心配そうに見つめている。
「これは完全に船酔かなー……」
呟くように言ったゼクスの言葉に、リアーヌは少し青白くなっている顔を盛大にしかめる。
「ぎもぢ悪いぃぃぃ……」
「回復かけた時はちょっと良くなってたみたいだけど……」
「その時は良いんですけどすぐにまた……」
リアーヌは泣き言をいうようにフスンフスン……鼻を鳴らしながら答えた。
そんなリアーヌにゼクスも眉を下げながら労るような視線を向けた。
「うーん……出発してからも結構楽しそうにしてたから、このままアウレラまでいけちゃうかと思ってだけど……行けなかったねぇ……?」
「私もあのまま行きたかった……」
悲痛な顔つきでリアーヌが答えた瞬間、大きな波を超えたのか、船が大きく上下する。
「もう揺らさないで……」
リアーヌは死にそうな顔つきでゼクスに懇願する。
「うーん……船で“揺れない”は無理かなぁ……?」
「ーーミント飴舐める? 頭がスッキリしたっていう人は多いよ?」
「スースー飴は好きじゃ無い……」
(あいつら飴のくせして全然甘く無い……ただ口の中がスースーして終わり……あんなの飴じゃないぃ……)
ぐったりしながらも食に対するこだわりを見せるリアーヌに、ゼクスは苦笑を浮かべ、アンナとオリバーはリアーヌが食べ物に関しての好き嫌いを口にしたことに驚きの表情を浮かべていた。
(……あのお嬢にも好き嫌いがあったのか……)
その時、ドアの外からゼクスを呼ぶ声がして、ゼクスは断りを入れてから廊下に出た。
「お嬢様はどうだ? 横になってりゃ平気そうか?」
やって来たのは、腕の太いいかにも船乗り然とした男で、この船での船医も兼ねている人物だった。
「いやぁ……結構辛そう。 まだ喋れてはいるけどーーあの様子じゃきっとなにかを食べるなんてできなそうだから……ーーちょっとマズいかな?」
「ーー強制的に眠らせちまうことも出来るが……」
「それは、流石に……」
ここで言っている“眠らせる”とは気絶させてしまう、という意味だった。
海という完全に下界と隔離されている場所での荒事に慣れている彼らは、犯罪者や裏切り者、そして様々な理由で攻撃的になってしまった仲間を気絶させ、無力化することに長けていた。
ーーいたのだが、その手段を自分の婚約者であり、子爵家のご令嬢、しかもそのお付きの前でーーとなると、そう簡単に頷ける提案では無かった。
「ううう……」
リアーヌは初めての大型商船の一室でソファーに倒れ込み、初めての船旅の洗礼を受けていた。
「お嬢様……」
その周りにはアンナとオリバー、そしてゼクスがいて、眉を下げながらリアーヌを心配そうに見つめている。
「これは完全に船酔かなー……」
呟くように言ったゼクスの言葉に、リアーヌは少し青白くなっている顔を盛大にしかめる。
「ぎもぢ悪いぃぃぃ……」
「回復かけた時はちょっと良くなってたみたいだけど……」
「その時は良いんですけどすぐにまた……」
リアーヌは泣き言をいうようにフスンフスン……鼻を鳴らしながら答えた。
そんなリアーヌにゼクスも眉を下げながら労るような視線を向けた。
「うーん……出発してからも結構楽しそうにしてたから、このままアウレラまでいけちゃうかと思ってだけど……行けなかったねぇ……?」
「私もあのまま行きたかった……」
悲痛な顔つきでリアーヌが答えた瞬間、大きな波を超えたのか、船が大きく上下する。
「もう揺らさないで……」
リアーヌは死にそうな顔つきでゼクスに懇願する。
「うーん……船で“揺れない”は無理かなぁ……?」
「ーーミント飴舐める? 頭がスッキリしたっていう人は多いよ?」
「スースー飴は好きじゃ無い……」
(あいつら飴のくせして全然甘く無い……ただ口の中がスースーして終わり……あんなの飴じゃないぃ……)
ぐったりしながらも食に対するこだわりを見せるリアーヌに、ゼクスは苦笑を浮かべ、アンナとオリバーはリアーヌが食べ物に関しての好き嫌いを口にしたことに驚きの表情を浮かべていた。
(……あのお嬢にも好き嫌いがあったのか……)
その時、ドアの外からゼクスを呼ぶ声がして、ゼクスは断りを入れてから廊下に出た。
「お嬢様はどうだ? 横になってりゃ平気そうか?」
やって来たのは、腕の太いいかにも船乗り然とした男で、この船での船医も兼ねている人物だった。
「いやぁ……結構辛そう。 まだ喋れてはいるけどーーあの様子じゃきっとなにかを食べるなんてできなそうだから……ーーちょっとマズいかな?」
「ーー強制的に眠らせちまうことも出来るが……」
「それは、流石に……」
ここで言っている“眠らせる”とは気絶させてしまう、という意味だった。
海という完全に下界と隔離されている場所での荒事に慣れている彼らは、犯罪者や裏切り者、そして様々な理由で攻撃的になってしまった仲間を気絶させ、無力化することに長けていた。
ーーいたのだが、その手段を自分の婚約者であり、子爵家のご令嬢、しかもそのお付きの前でーーとなると、そう簡単に頷ける提案では無かった。
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説
【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜
O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。
しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。
…無いんだったら私が作る!
そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!
胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。
主に5大国家から成り立つ大陸である。
この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。
この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。
かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。
※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!)
※1話当たり、1200~2000文字前後です。
モブ令嬢は白旗など掲げない
セイラ
恋愛
私はとある異世界に転生した。
その世界は生前の乙女ゲーム。私の位置は攻略対象の義姉であり、モブ令嬢だった。
しかしこのモブ令嬢に幸せな終わりはない。悪役令嬢にこき使われ、挙げ句の果てに使い捨てなのだ。私は破滅に進みたくなどない。
こうなれば自ら防ぐのみ!様々な問題に首を突っ込んでしまうが、周りに勘違いをされ周りに人が集まってしまう。
そんな転生の物語です。
転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~
ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉
攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。
私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。
美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~!
【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避
【2章】王国発展・vs.ヒロイン
【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。
※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。
※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差)
イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/
Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/
※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。
全裸で異世界に呼び出しておいて、国外追放って、そりゃあんまりじゃないの!?
猿喰 森繁
恋愛
私の名前は、琴葉 桜(ことのは さくら)30歳。会社員。
風呂に入ろうと、全裸になったら異世界から聖女として召喚(という名の無理やり誘拐された被害者)された自分で言うのもなんだけど、可哀そうな女である。
日本に帰すことは出来ないと言われ、渋々大人しく、言うことを聞いていたら、ある日、国外追放を宣告された可哀そうな女である。
「―――サクラ・コトノハ。今日をもって、お前を国外追放とする」
その言葉には一切の迷いもなく、情けも見えなかった。
自分たちが正義なんだと、これが正しいことなのだと疑わないその顔を見て、私はムクムクと怒りがわいてきた。
ずっと抑えてきたのに。我慢してきたのに。こんな理不尽なことはない。
日本から無理やり聖女だなんだと、無理やり呼んだくせに、今度は国外追放?
ふざけるのもいい加減にしろ。
温厚で優柔不断と言われ、ノーと言えない日本人だから何をしてもいいと思っているのか。日本人をなめるな。
「私だって好き好んでこんなところに来たわけじゃないんですよ!分かりますか?無理やり私をこの世界に呼んだのは、あなたたちのほうです。それなのにおかしくないですか?どうして、その女の子の言うことだけを信じて、守って、私は無視ですか?私の言葉もまともに聞くおつもりがないのも知ってますが、あなたがたのような人間が国の未来を背負っていくなんて寒気がしますね!そんな国を守る義務もないですし、私を国外追放するなら、どうぞ勝手になさるといいです。
ええ。
被害者はこっちだっつーの!
男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)
@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」
このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。
「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。
男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。
「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。
青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。
ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。
「カクヨム」さんが先行投稿になります。
お兄様が攻略対象者で妹のモブ令嬢のはずですが、攻略対象者が近づいてきて溺愛がとまりません。
MAYY
恋愛
転生先が大好きだったゲームの世界だと喜んだが、ヒロインでも悪役令嬢でもなく…………モブだった。攻略対象のお兄様を近くで拝めるだけで幸せ!!と浸っていたのに攻略対象者が近づいてきます!!
あなた達にはヒロインがいるでしょう!?
私は生でイベントが見たいんです!!
何故近寄ってくるんですか!!
平凡に過ごしたいモブ令嬢の話です。
ゆるふわ設定です。
途中出てくるラブラブな話は、文章力が乏しいですが『R18指定』で書いていきたいと思いますので温かく見守っていただけると嬉しいです。
第一章 ヒロイン編は80話で完結です。
第二章 ダルニア編は現在執筆中です。
上記のラブラブ話も織り混ぜながらゆっくりアップしていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる