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「ううう……」

 リアーヌは初めての大型商船の一室でソファーに倒れ込み、初めての船旅の洗礼を受けていた。

「お嬢様……」

 その周りにはアンナとオリバー、そしてゼクスがいて、眉を下げながらリアーヌを心配そうに見つめている。

「これは完全に船酔かなー……」

 呟くように言ったゼクスの言葉に、リアーヌは少し青白くなっている顔を盛大にしかめる。

「ぎもぢ悪いぃぃぃ……」
「回復かけた時はちょっと良くなってたみたいだけど……」
「その時は良いんですけどすぐにまた……」

 リアーヌは泣き言をいうようにフスンフスン……鼻を鳴らしながら答えた。
 そんなリアーヌにゼクスも眉を下げながら労るような視線を向けた。

「うーん……出発してからも結構楽しそうにしてたから、このままアウレラまでいけちゃうかと思ってだけど……行けなかったねぇ……?」
「私もあのまま行きたかった……」

 悲痛な顔つきでリアーヌが答えた瞬間、大きな波を超えたのか、船が大きく上下する。

「もう揺らさないで……」

 リアーヌは死にそうな顔つきでゼクスに懇願する。

「うーん……船で“揺れない”は無理かなぁ……?」
「ーーミント飴舐める? 頭がスッキリしたっていう人は多いよ?」
「スースー飴は好きじゃ無い……」

(あいつら飴のくせして全然甘く無い……ただ口の中がスースーして終わり……あんなの飴じゃないぃ……)

 ぐったりしながらも食に対するこだわりを見せるリアーヌに、ゼクスは苦笑を浮かべ、アンナとオリバーはリアーヌが食べ物に関しての好き嫌いを口にしたことに驚きの表情を浮かべていた。

(……お嬢にも好き嫌いがあったのか……)

 その時、ドアの外からゼクスを呼ぶ声がして、ゼクスは断りを入れてから廊下に出た。

「お嬢様はどうだ? 横になってりゃ平気そうか?」

 やって来たのは、腕の太いいかにも船乗り然とした男で、この船での船医も兼ねている人物だった。

「いやぁ……結構辛そう。 まだ喋れてはいるけどーーあの様子じゃきっとなにかを食べるなんてできなそうだから……ーーちょっとマズいかな?」
「ーー強制的にちまうことも出来るが……」
「それは、流石に……」

 ここで言っている“眠らせる”とは気絶させてしまう、という意味だった。
 海という完全に下界と隔離されている場所での荒事に慣れている彼らは、犯罪者や裏切り者、そして様々な理由で攻撃的になってしまった仲間を気絶させ、無力化することに長けていた。
 ーーいたのだが、その手段を自分の婚約者であり、子爵家のご令嬢、しかもそのお付きの前でーーとなると、そう簡単に頷ける提案では無かった。
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