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「いや使んだと思う」
「ーー本人の意思とは関係なく使えるものなのか?」
「ーー子爵のギフトはアクティブ型だ」「ーー⁉︎ それすらも⁉︎」
「可能性の話だ。 だが、彼女が親しい者たちに助言をしたことは、私が把握している限り全てうまく転がっているんだ」
「ーー……ならばユリアは……」

 教養学科に編入してくる、と? との質問は言葉にならなかった。
 ならなかったのだが、首を振りながら口を開いたフィリップの言葉は、その質問への答えだった。

「ーーあの答えでは分からないな。 ……あれはおそらく失敗ーーいやあの男がヘタを打ったんだ」

 そう言いながら忌々しそうに顔を歪めるフィリップ。

「……心底嫌ってるな?」

 呆れたようなレオンの言葉に、フィリップは素知らぬ顔つきで肩をすくめて見せる。

「馬が合わないヤツというのは誰にでもいるものだろう? ーー今回アイツは『ユリア嬢は編入出来るか?』とたずねた。 ーーこれの答えはおそらくユリア嬢への助言となるんだろう……結果、リアーヌ嬢は力を使わなかったんだ」
「……しかしラッフィナートはユリアが編入すると確信したようだったが?」
「ーー実際のところ、無い話ではない。
君では無いにしろ、王族に嫁がせようとしているのならば、必ずどなたかが手心を加える。 たとえ側妃にすえる気であっても、教養科は出ておいた方がいい」
「ーー……兄の正妃にするならば余計、か……?」
「その動きがあってもおかしくはないだろうな」
「ーーまだあの女に気取られるわけにはいかない。 たとえ父が……陛下がどれほどボスハウト家に心を砕こうとも……ーー次の王は私だ」
「……もちろんだとも。 君の望みは我が家の望み……」
「……ボスハウト家が、リアーヌ嬢の力が邪魔になるその時は……」
「ーー心得ているよ。 ……たとえリアーヌ嬢を手にかけることになろうとも、君に玉座を……」
「……ーー頼む」
 ーーだが、そうならないよう祈っていてくれ……
 レオンはフィリップから顔を逸らしながら心の中でつぶやいた。

 フィリップが部屋から出ていき、それと入れ替わるように侍従のエーゴンが、入ってくる。
 レオンはなにも語らず、ジッと窓の外を眺めていた。

(ーー政治なんてもの、理想だけではどうにもならない……目的を果たすためならば、この手ですら汚すことを厭うてはいけない……ーーたとえそれが、なんの非もない人物であったとしても……)

 レオンは自分に言い聞かせるように心の中で呟く。
 そして真っ暗な空を見上げ、今は亡き母を想った。
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