上 下
490 / 1,038

490

しおりを挟む
「あ、えっと……ーーちゃんとした名前があったんだなって……」
「ええ……?」

 リアーヌの答えに、困惑した声をあげるゼクス。

「だ、だって! 子供たちみんな“木の下の”って呼んでて!」

  だからてっきり! と続けるリアーヌの言葉にクスクスと笑いながら答えたのは、唯一この花の名前を知っていたディルクだ。

「そうですね、この村では大体それで通じてしまいます。 冬に咲く花というだけで限られてしまいますし、この花は木下にしか咲かないものなので……」

 その説明をフムフムと大きく頷きながら聞くリアーヌ。

(言われてみれば、冬の花なんてそこまで無いもんなぁ……)

「ーーでもリンゼルって名前も可愛いですし、名前も形もベルっぽいし、これは花園で人気が出ますよ⁉︎」
「欲を言うならもう少し雪に映えてくれるほうが良かったけど……ーー今の季節なら、咲いてくれるだけで御の字だ」
「映えない方が探す難易度が上がるんで、いいんじゃないかと……」
「……難易度?」

 ゼクスはリアーヌの話の意味が分からず、首を傾げながら視線で詳しい説明を求めた。
 その視線にリアーヌはニヤリとイタズラっぽく微笑み、内緒話をするように声をひそめ、口元に手を添えて話し始めた。

「なんでも花園には冬にしか見つけられない小さなベルがあって、それを見つけられた人には幸せが訪れるんだそうですよ?」
「ーー……それがこのリンゼル?」
「はいっ!」

 リアーヌは得意げに胸を張って答える。

「リアーヌ天才。 いける。 その話、絶対いける!」
「ですよね⁉︎」

 ゼクスに褒められ得意満面のリアーヌは、ふへへーっと身を捩らせながら頬を押さえる。
 しかし急に真顔に戻り、今度は心配そうな顔つきでゼクスに向かってたずねる。

「……この花って使えますかね? どこかのお家の紋章になってたりしませんかね?」
「リンゼルって花は聞き覚えが無いから大丈夫だと思うけど……ーーもしどこかの家が使ってたとしても、こっちで交渉しておくよ」
「ありがとうございます!」

 ホッとしたように答えたリアーヌは、嬉しそうにリンゼルの花をちょんちょんっとつついた。

「ああーーリアーヌ様、もうすでにその花で遊んでみましたか?」
「え……子供たちみたいに指にはめてーーとかですか……?」

 リアーヌのは答えにディルクは困ったように曖昧な微笑みを浮かべながら答えた。

「ーーでは無いですね。 あー……っと本当は朝露なんですけどーー今回はこちらで……」

 そしてそう説明しながら、部屋に置いてあった水差しからコップに少しだけ水を注ぐと、ディルクはそのコップをリアーヌたちの前に差し出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...