上 下
471 / 1,038

471

しおりを挟む
 リアーヌは満足そうに庭を眺めているが、ヴァルムたちが禁止令を出した理由は“暗い場所が危険だから”という理由だけでは無い。
 どのようなパーティにおいても、庭というものは、恋人たちーーこのような場所で火遊びを楽しむのは、未婚の若者たちではなく大人同士……既婚者たちや未亡人とその恋人……という場合がほとんどであったのだがーーその者たちの語らいの場所であったのだ。

 ーー今回は学園主催ということで、平民階級の生徒たちが、ロマンチックな庭散策を楽しんでいるようだった。
 そんな生徒たちを眺めながら、ゼクスがいたずらっぽくリアーヌにたずねる。

「本当はもっと近くで見たかったけど……ーーそれはまた今度かな?」

 パーティで庭を散策して問題が起こらないのは、婚姻関係にある者たちーーつまりこの発言は、貴族的言い回しで考えるのであれば「早く結婚したいですね」と、捉えることができるのだが……ーー当然リアーヌにそんな知識は備わっていなかった。

「えっ今度は連れてってくれるんですか⁉︎」
「ぇ、ぁ……ぅん?」
「楽しみです!」

 ニッコリと笑いかけるリアーヌにゼクスは「おう……」と珍しく口籠もりながら返事を返した。

「あー……ーーそうだ、セハの港で『イルミネーション』のギフト持ちを探してみようか?」

 軽く息をつき、気を取り直したようにリアーヌに笑顔で提案するゼクス。

「わぁ! 庭じゃなくて海でも絶対綺麗ですよね⁉︎」
「うん……でもそうだな、こういうのじゃなくて、もっと小さくてたくさん浮かべてもらおう」
「……星みたいな?」
「ふふ星も綺麗だけど、蛍みたいにふよふよ浮かんでる中を散歩しちゃうってのは?」
「ーー素敵⁉︎」
「ーーだろ?」

 そう言って意味ありげに微笑んだゼクスは、そっとリアーヌの手に自分の手を重ねながら、さらに語りかける。

「他に誰もいない海岸に蛍がたくさん飛んでる光景って、この庭より幻想的でロマンチックだと思わない?」
「ひぁ……」

 手を握り締められ、蠱惑的な眼差しに見つめられたリアーヌは、身体を硬くして奇妙な声を漏らすことしか出来なかった。

(あれ……? これはもしかして……そういう恋愛系のイベント的なお話をしている感じで……⁇)

 凍りつき、混乱するリアーヌの頬に、ゼクスの細くーーしかし男性特有のゴツゴツとした指が添えられるーー
 その感覚に、リアーヌはかつて無いほどの大混乱におちいっていた。

(おおお落ち着けリアーヌ! ええと……こういう時はーーそう! 大きな声をあげて周囲の注意を……え、注意を? あ、違う⁉︎ これは不審者に絡まれた時の対処法‼︎)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

モブ令嬢は白旗など掲げない

セイラ
恋愛
私はとある異世界に転生した。 その世界は生前の乙女ゲーム。私の位置は攻略対象の義姉であり、モブ令嬢だった。 しかしこのモブ令嬢に幸せな終わりはない。悪役令嬢にこき使われ、挙げ句の果てに使い捨てなのだ。私は破滅に進みたくなどない。 こうなれば自ら防ぐのみ!様々な問題に首を突っ込んでしまうが、周りに勘違いをされ周りに人が集まってしまう。 そんな転生の物語です。

処理中です...