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 ヴァルムはそう言うと、座っていた椅子を少し回転させ、窓の外に視線を移した。

「……群がる毒虫たちから必死に守ってきたーー力及ばす、先代、先先代の主人たちは一般学科への入学しか果たせなかった……ーーそんなこのボスハウト家からーー私が執事でいられるその間に……ーーもはや見ることすら諦めていた夢が叶うかもしれない……ーー私は毒虫たちが一掃された時よりも歓喜したよ……」
「ーーそれのなにがいけませんの⁉︎ 子爵へと位を落とし、それでも耐えてきたんです。 甘言を吹き込む輩たちから必死に守ってきたんですっ! たとえ疎まれようともっ‼︎ ……夢の一つ見て、なにが悪いとおっしゃいますの⁉︎」

 涙を滲ませながらに訴える侍女。
 それに続くように使用人たちは口々にヴァルムに思いの丈をぶつける。
 ーーだからどうか、罪だなどと言わないでほしいと願いを込めながら……

「我ら使用人たちの悲願でございました!」
「この家を正しい道へと導いてくださる次代様を! そのために次代様を正しく教育し、名誉ある教養学科へとご入学していただく! それのなにが間違っていると言うんです⁉︎」
「正しくボスハウト家の繁栄を願う使用人の、正しき考え方かと存じますっ!」

 口々に言葉を重ねながら、ヴァルムの発言を撤回させようとする使用人たちに、オリバーは軽く頭を振りながら唇を歪ませた。

「まだ分かりませんか? あなた方の罪に……ーーそれとも所詮市井しせい出の主人だと侮っているのか⁇」

 そんな態度のオリバーに、カッと顔を朱に染めた侍女は、くわりと目を吊り上げると、打ち据えるようにピシャリと言い放った。

「口を慎みなさいオリバー‼︎」
「そうよ、言い過ぎだわ。 ……貴方になにが分かるっていうの? 長い間ーー長い長い間耐えてきたの。 この家が食い物にされるのを少しでも阻止しようと!」

 侍女に続くようにアンナがオリバーを睨みつける。
 しかしそんなアンナの言葉に、グッと手を握り締めたオリバーは、込み上げる怒りを押し戻すかのようにゆっくりと息を吐き出すーー
 しかしアンナがなおも言葉を続けようと口を開いたのを見て、堪えきれなくなったようだった。

「その結果がこの現状だろう⁉︎ あの方は入学試験ですら、まともなマナーを身につけていなかったんだぞ⁉︎ これは誰の罪だ⁉︎ ……あの方はそれでも必死に取り繕った……ーーカーテンに隠れる? 菓子を口に詰め込む⁇ それで本気で教育したつもりか⁉︎ よくもそんな状態のあの方を試験会場に送り出せたな⁉︎ よくもあの方を誇りだなどと言えたものだな⁉︎ あなた方があの方になにを教えたと言うんだ⁉︎」
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