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 その視線だけですぐさま、パトリックのたずねたいことを理解したビアンカは、軽く頷きながら口を開いた。

「グランツァとは、真っ赤な花をたくさんつける香りの強い木で、それがずらりと並んだ道はそれは見応えがありましたわ。 そのあでやかな見た目や甘い香りで……多くの女性に好まれそうだなと感じました」

 ビアンカかの説明にパトリックは大きく頷きながらも笑顔を浮かべて「今度、僕ともご一緒に……」とビアンカに声をかけていて、同席していたイザークとラルフもビアンカの説明を聞き、納得したように頷き合っていた。

「女性が好む……」

 そんな中、フィリップだけが腕を組み、アゴに手を当て、何事かを考え込みながらジッと一点を見つめていた。

「……えっと?」

 リアーヌが経験した、模擬も含めた全てのお茶会において、こんなふうに周りを無視したまま考え事を始めた者などいなかったため、どうすれば良いのか分からなくなったリアーヌは、助けを求めて隣に座る大先生ビアンカを見つめた。
 見つめられたビアンカではあったが、フィリップがなにについて考え込んでいるのか、確証はないが少しの心当たりがあったがために、どう声をかけるべきか、そもそも声をかけるべきなのかを迷っていた。

 ーーそんな中フィリップに声をかけたのはゼクスだった。

「ーーそうなんですよー。 あ、パラディール様もご婚約者様をお誘いすれば喜ばれるんじゃないですかねぇ?」

 ニコニコとやけに愛想の良いゼクスがそう声をかけた途端、ピキンッ! という幻聴が聞こえてくるほど、一瞬にして空気が凍りついたーー

(……ーー座の空気を読む、笑顔に隠された本心や意図を読み取る能力にいちじるしく欠けていると評判のわたくしではございますが……今のは分かったぞぉ? ゼクスの言葉で空気が凍った! そして粉々に砕け散った‼︎)

 そんなことを考えつつも、リアーヌはやらかしてしまったゼクスの顔をチラリと盗み見る。
(ゼクスにしては珍しい……)と考えながら。
 しかし、リアーヌの視線の先にあったのは、ニコニコとそれは楽しそうに笑ってフィリップを見つめているゼクスの姿だった。

(ーーあ、確信犯だわこれ。 わざとだわ……ーーなんでケンカ売りに行ったし⁉︎ ーー……え? ケンカ売りに行ったってことになる……のか⁇ 確かにフィリップは攻略対象だけど、まだ主人公は入学してないから認識すらされてなくて、だとしたらフィリップと婚約者って普通の関係なんじゃ……? なのに「デートに誘ってみたら?」って提案されて、あんなに空気が凍る……⁇)

 リアーヌはゼクスから自分の手元に視線を落としながら、フィリップとその婚約者について考えを巡らせ始めた。
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