上 下
195 / 1,038

195

しおりを挟む
(ゼクスかメイドさんに頼めばもっと食べやすくて、綺麗に飾られたやつが出てくるだろうに……)

「だってこんな時じゃねぇと、あそこに乗ってるのなんて食えねぇぜ?」
「ーー確かに……?」

 再びザームに説得されたリアーヌは、そのまま無言でねだるような視線をゼクスに向ける。

「……ーーどうぞ? ってか……俺も食べちゃおー」

 肩をすくめながらヘラリと笑ったゼクスは、そう言いながら果物皿に手を伸ばす。
 ザームの言葉は、ゼクスの心の琴線にも触れたようだった。
 立ち上がってリンゴ一個とマスカットを一房を手に取ったゼクス。
 その姿を目で追っていたザームと目が合うと、お互いにニッと笑ってから、ゼクスはザームにリンゴを投げ、ザームは慌てることもなくそれを片手で受け取った。
 ーーつい最近開かれた狩猟大会にそろって参加した二人は、無言であっても意思の疎通が出来るほどには、打ち解けてきているようだった。

 マスカットを手に席に着いたゼクスは、ポケットからハンカチを取り出すと、それを皿代わりにマスカットをリアーヌに差し出す。
 
「ん。 普通だけど美味いな」

 早速リンゴに齧り付いたザームは納得したように小さく頷きながらムシャムシャとものすごい速さで食べすすめていく。

 そんなザームにリアーヌとゼクス顔を見合わせて、呆れたようにクスリと笑い合う。
 そして二人同時にマスカットに手を伸ばして、そこから一粒もぎ取ると、同じような動作で二人仲良くパクリと口に放り込んだ。

(ーーうん。 美味しいけど、普通だな)

 リアーヌはモゴモゴと咀嚼しながら、ザームと同じ感想を持った。
 そしてそんな自分にクスリと笑いが溢れる。
 同時に隣からも小さな笑い声が聞こえーー
 ゼクスが自分と似たような苦笑をもらしているゼクスと目があった。
 その瞬間、同時に「プッ」と吹き出し、肩を震わせてクツクツと笑い合う二人。

(普通のフルーツを普通に食べたんですもん、どう頑張ったって“普通に美味しい”以外の感想なんか感じませんよね……!)



「いやー、えらい! アンタはえらいよ‼︎」

 リアーヌたちが肩を震わせている背後、ソファーでリエンヌと共にお茶を楽しんでいたフリシアが突然大きな声を上げる。
 ーーしかしこの部屋の中にそれに驚くような者は、もはや一人としていなかった。

 あらかたの商談が終わり、この三組に別れた辺りから、クライスたちが集まる場所から、勝った負けたという雄叫びが聞こえることも、ザームが大声でおかわりを要求する声も、フリシアたちの席から、楽しげな笑い声や少々大きな声が聞こえてくること、これら全て、当たり前のことになりつつあった。

 最初はお互いがお互いの声に迷惑そうな顔を向けていたが、次第にその喧騒に慣れ出したのか、もはや他のグループの声に反応を見せることの方が珍しくなっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います

結城芙由奈 
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので 結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした

さこの
恋愛
 幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。  誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。  数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。  お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。  片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。  お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……  っと言った感じのストーリーです。

処理中です...