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 それだけでも非難されるべき態度であったが、さらに言うならば、この場において席をすすめるべきはホストであるラルフである。
 例えサロンを貸しているとは言っても勝手に采配していいものでも無い。
 しかしラルフの口から、フィリップのこの行為を咎めるような発言は、最後の最後まで出てくることはなかったのだったーー

 当然ゼクスは全てを理解していたが、分かった上でグッと奥歯を噛み締め、ニコリと頬を釣り上げ、その顔に笑顔を貼り付ける。

 ーー全てはけじめを付けるため。
 今日この場で、なんとしても過去は精算しなくてはいけないのだからーー

 そう自分に言い聞かせながら。

 そしてゆっくりと息を吸い込むと、隣に立つリアーヌの背中を軽く押して促して、フィリップが指し示した席へと足を進める。
 心の中ではボロクソにフィリップを罵りながら。

(こっちが下手に出るしかねぇと見て、好き勝手やりやがって……! テメェ俺にはなんの権限もないお飾り男爵だと舐めてんだろ? 残念だったな! これでも新店舗の候補地探しやら仕入れルートの開拓程度なら任されてんだよっ! ーーぜってぇテメェの領地にうちの店乱立させて、テメェの領地に根付いてた店々片っ端から潰して回ってやっかんなっ‼︎ 覚悟しとけよ根暗陰険野郎っ‼︎)

 表情は実に穏やかでにこやかなものだったが、その身に纏うオーラが刺々しく凶暴で、隣に座ったリアーヌは恐怖から顔を引き攣らせ、その様子からゼクスの不機嫌さを悟ったフィリップは、ニンマリと笑みを深くするのだったーー

(ーーなんでこんなにも不機嫌になってしまったのか、良く分からないないのですが、ハッキリしていることが一つ。  一刻も早くここから脱出したいっ! なんでこの二人はこんなにも相性が悪いのかとっ‼︎ ーー誰か、なごやかな空気プリーズッ‼︎)

 リアーヌのその心の叫びに応えてくれる者は存在せず、上部だけは和やかな、けれど誰の目から見てもギスギスとした空気で満たされたお茶会がスタートしたのだったーー



「リアーヌ嬢、久しぶり。 やはり教室が違うと、話す機会はなかなか無いんだねぇ?」

 ゼクスの隣で身を小さくしていたリアーヌに、気を利かせたのかゼクスに対する嫌がらせなのか、フィリップがニコニコと優しい微笑みを浮かべながら話しかける。
 その声にビクリと肩を揺らしつつも、その顔にーー多少引き攣ってはいたもののーー笑顔を貼り付けて答えるリアーヌ。

「……そうなんですかねー?」

(ーーダウト過ぎる。 主人公があんたのルートに入ったら、教室どころか建物すら違う専門学科の生徒と毎日のように逢瀬を交わしてたくせに……それこそ婚約者が嫉妬で犯罪を犯すぐらい頻繁に! ーー誰がどの口で言ってんだか……)

 微笑みを浮かべながら同意しつつ、お腹の中ではフィリップを盛大に罵るリアーヌ。
 そのため、リアーヌの笑顔には凄みが乗り、それはフィリップたち、そしてゼクスにも変化をもたらすことになった。
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