上 下
83 / 1,038

83

しおりを挟む
 余裕あるたっぷりのゼクスの返答にフィリップの視線がさらに鋭さを増し、口の弧は深さを増した。

「ーーそうですね……実に残念です……ーーけれど卒業まではまだまだ時間がありますから……ねぇ?」

 意味ありげな微笑みをリアーヌに向けるフィリップ。
 その態度にゼクスは一瞬笑顔をかき消した。
 それを確認したフィリップは、ようやく頬を緩め満足そうにクスクスと笑い声を漏らした。

「ーーいくら時間があっても、すでに契約した以上、変更は難しいと思いますけどねー」

 そうゼクスがフィリップに突っかかるように言い返した瞬間、ビアンカがリアーヌの腕をそっと引っ張り、ゆっくりと二人から距離をとった。

「……ほっといていいの?」
「巻き込まれるよりマシよ」

 そほとんど声として聞き取れないほどの囁き声で話し合った二人は、素知らぬ顔をしてジリジリと廊下の窓際に移動するのだった。

「そうは言っても未来は誰にも分からないーー現に卒業までに後ろ盾を変えるギフト持ちは掃いて捨てるほどいるだろう? せっかくのギフトなんだ。 自分をより評価してくれる者の元にいる方が幸せだと思わないか?」

 自分の方がよりよい条件で雇えると、意地の悪い笑みを浮かべながらフィリップが言うと、ゼクスはその言葉を鼻で笑って見せた。

「十分に高く評価してるからこその契約ですけどー? しかもこれからボスハウト家の執事も交えて細かい条件のすり合わせまでするんですけどー⁇」
「ーーへぇ? そのすり合わせとやらがムダな労力にならないことを祈っているよ」

 バチバチと火花が散っているような幻が見えるほどの目力で、二人の視線がぶつかり合う。
 十分な距離を保っていたリアーヌの口から「ひえ……」と小さな悲鳴が漏れるほどの、凄まじい迫力であった。

「……ーーあんたがちょっかい出さなきゃ平和に終わるさ」
「はっ! 平和を望むなら庇護下に入れてやろうか⁇」

 この廊下には人気がないとは言え、どこで誰が見聞きしているか分からないというのに、そんなことはお構いなしとばかりに、眉を釣り上げ、歯を剥き出しにして睨み合う二人。
 ーーお互いに、腹の中では、相手の家と明確に敵対する覚悟を決めているようだった。

「ーー今更、吐いた言葉は戻らないぞ……?」
「おや? もう怖気付いたのかな⁇」
「まさか! ーー受けてたってやるよ。 全力でな」

 顔を突き合わせながらお互いに最大限の圧をかけながら言葉を交わし合う二人。

「ーーえ、ヤバ怖なんだけど……?」

 乙女ゲームでは絶対に出てこない迫力で言い争いをする二人に、リアーヌはその恐怖心からビアンカの後ろにそっと移動した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

O.T.I
ファンタジー
レティシア=モーリスは転生者である。 しかし、前世の鉄道オタク(乗り鉄)の記憶を持っているのに、この世界には鉄道が無いと絶望していた。 …無いんだったら私が作る! そう決意する彼女は如何にして異世界に鉄道を普及させるのか、その半生を綴る。

【完結】竜騎士の私は竜の番になりました!

胡蝶花れん
ファンタジー
ここは、アルス・アーツ大陸。  主に5大国家から成り立つ大陸である。  この世界は、人間、亜人(獣に変身することができる。)、エルフ、ドワーフ、魔獣、魔女、魔人、竜などの、いろんな種族がおり、また魔法が当たり前のように使える世界でもあった。  この物語の舞台はその5大国家の内の一つ、竜騎士発祥の地となるフェリス王国から始まる、王国初の女竜騎士の物語となる。 かくして、竜に番(つがい)認定されてしまった『氷の人形』と呼ばれる初の女竜騎士と竜の恋模様はこれいかに?! 竜の番の意味とは?恋愛要素含むファンタジーモノです。 ※毎日更新(平日)しています!(年末年始はお休みです!) ※1話当たり、1200~2000文字前後です。

モブ令嬢は白旗など掲げない

セイラ
恋愛
私はとある異世界に転生した。 その世界は生前の乙女ゲーム。私の位置は攻略対象の義姉であり、モブ令嬢だった。 しかしこのモブ令嬢に幸せな終わりはない。悪役令嬢にこき使われ、挙げ句の果てに使い捨てなのだ。私は破滅に進みたくなどない。 こうなれば自ら防ぐのみ!様々な問題に首を突っ込んでしまうが、周りに勘違いをされ周りに人が集まってしまう。 そんな転生の物語です。

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) イラストブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

訳あり冷徹社長はただの優男でした

あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた いや、待て 育児放棄にも程があるでしょう 音信不通の姉 泣き出す子供 父親は誰だよ 怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳) これはもう、人生詰んだと思った ********** この作品は他のサイトにも掲載しています

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

お兄様が攻略対象者で妹のモブ令嬢のはずですが、攻略対象者が近づいてきて溺愛がとまりません。

MAYY
恋愛
転生先が大好きだったゲームの世界だと喜んだが、ヒロインでも悪役令嬢でもなく…………モブだった。攻略対象のお兄様を近くで拝めるだけで幸せ!!と浸っていたのに攻略対象者が近づいてきます!! あなた達にはヒロインがいるでしょう!? 私は生でイベントが見たいんです!! 何故近寄ってくるんですか!! 平凡に過ごしたいモブ令嬢の話です。 ゆるふわ設定です。 途中出てくるラブラブな話は、文章力が乏しいですが『R18指定』で書いていきたいと思いますので温かく見守っていただけると嬉しいです。 第一章 ヒロイン編は80話で完結です。 第二章 ダルニア編は現在執筆中です。 上記のラブラブ話も織り混ぜながらゆっくりアップしていきます。

報われない恋の育て方

さかき原枝都は
恋愛
片想いってどこまで許してもらえるの? フラれるのわかっていながら告る。 これほど空しいものはないが、告ることで一区切りをつけたい。 ……であっさりフラれて一区切り。て言う訳にもいかず。何の因果か、一緒に住むことに。 再アタックもいいがその前に、なぜかものすごく嫌われてしまっているんですけど。 何故? ただ不思議なことに振られてから言い寄る女の子が出始めてきた。 平凡な単なる高校2年生。 まぁー、確かに秘密の関係であるおねぇさんもいたけれど、僕の取り巻く環境は目まぐるしく変わっていく。 恋愛関係になるのは難しいのか、いや特別に難しい訳じゃない。 お互い好きであればそれでいいんじゃないの? て、そう言うもんじゃないだろ! キスはした、その先に彼女たちは僕を引き寄せようとするけれど、そのまま流されてもいいんだろうか? 僕の周りにうごめく片想い。 自分の片想いは……多分報われない恋何だろう。 それでも……。彼女に対する思いをなくしているわけじゃない。 およそ1年半想いに思った彼女に告白したが、あっさりとフラれてしまう笹崎結城。 彼女との出会いは高校の入学直前の事だった。とある防波堤に迷いたどり着いたとき聞こえてきたアルトサックスの音色。その音色は僕の心を一瞬に奪ってしまった。 金髪ハーフの可愛い女の子。 遠くから眺めるだけの触れてはいけない僕の妖精だった。 そんな彼女が同じ高校の同学年であることを知り、仲良くなりたいと思う気持ちを引きずった1年半。 意を決して告ったら、あっさりとフラれてしまった。汗(笑)! そして訪れた運命という試練と悪戯によって、僕はフラられたあの彼女と共に暮らすことになった。 しかし、彼女は僕の存在は眼中にはなかった。 そして僕の知らない彼女の傷ついた過去の秘密。だからあの時彼女は泣き叫び、その声を天に届けさせたかったんだ。 自分じゃ気が付いていないんだけど、意外と僕ってモテたりしている? 女の片想いが、ふんわりと周りに抱き着くように僕の体にまとう。 本命は恵美なんだ。たとえフラれても……本命は彼女しかいない。 だが、その道は険しく脈どころか糸口さえ見いだせない。 彼女にかかわるとともに、僕の周りに近づく女性たち。 あれ? 実は僕、意外とモテていたりする? 気づかないのは本人のみ。 向かう先は叶わぬ恋。受け入れる思いはなぜか散っていく。 頑張る矛先を変えれば実るかも。 でも、たとえ叶わぬ恋でも想いたい。 なぁ、愛するっていったいどうしたらいいんだろ? 誰か教えてくれない? unrequited love(片思い)ってなんか悲しいんだけど!!

処理中です...