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第三章 繰り返しの幽霊
第48話 独白
しおりを挟むエピローグ。
或いは少し長い後日談。
あれから何が起きたのか、正直言うとぼくも分かっていなかった。何故ならば、目を覚ますとそこは病室のベッドだったからだ――某ロボットアニメの主人公よろしく、知らない天井だ、と呟いたところでそれを受け取ってくれる人も居なければ、仮に居るとしてもそのアニメを見ていたリアル世代はとうに三十代から四十代であり、何故だかこの病院には二十代の看護士が現場を回っていることを踏まえると、きっと反応はしてくれなかったかもしれない。新劇世代であったとしても、もう二十年近く前の作品だしね。
ともあれ、だ。
あんまり関係のない話を、こうもつらつらと述べていくと永遠に終わらなくなってしまう……。インターネットに掲載されているから、永遠に原稿用紙の枚数が増えようとも関係ないのだし。増えるとしたら、テキストファイルの容量ぐらいか。まあ、それでも一ファイルに十万文字以上詰め込めるようになったから、これから一昼夜無駄話を続けたところで、きっとそれでもファイルの容量はいっぱいになりはしないだろう。それぐらい、技術進歩は革新的になっているのだから。
さて――あれからの話を、ぼくは口伝として聞かされた。とはいうのも、ぼくが目を覚ました時病室に居たのは、あの心霊探偵ではなく、ハッピーハッピー研究所の所長だったからだ。ご丁寧にリンゴの皮むきまでしてあるし、皿の上にのせてあるリンゴはウサギさんカットにされている。
丁寧なこって。
ハッピーハッピー研究所の所長は、それから軽い自己紹介をした。これからの話では、いちいち説明するのが非常に億劫なので、占部さんということにしておく。
で、その占部さんが言うには、ぼくは幽霊の作り上げた空間に閉じ込められていたらしい。
まあ、そこまでは想像がつくかな。
そしてそこから引きずり出したのが――他でもない、占部さんなのだという。
一体全体どういう手段で引きずり出したのか……などと思っていたのだけれど、占部さんは続けてその能力について語り始めた。
曰く、どんな扉でも解錠することが出来るらしい――いや、この現代にそんなチートが実在するのか? ここはファンタジーの世界か……。いや、冷静に考えて幽霊専門の心霊探偵も居たし、バベルプログラムに居た、如何にも現実離れした力を持つ人間が多数居たことを踏まえると、そういった現実離れした能力だって、少しは理解しておいた方が良いのかもしれない。
え? 何で覚えていなかったのか……って? 残念ながら、ぼくは記憶力が良くない。だから占部さんがバベルプログラムに在籍していた――なんて言われても、思い出せやしなかった。あそこは変わり者だらけだったし、そこについては向こうも納得してくれていると思っている。多分。
占部さんはつらつらと自分の能力について語った後、自らの私見について語り始めた。
無論、ぼくを閉じ込めた幽霊についてだ。
幽霊は、ずっと繰り返していた。
きっと、何も考えたくなかったから。
きっと、今を見つめたくなかったから。
きっと、ここから逃げ出したかったから。
それでもなお――それが出来なかったのは、未練があったからだろう。
どういうメカニズムなのかは置いておくとして、幽霊は現世に未練があると、地縛霊としてその場に留まり続ける。幽霊は自らを視認出来るようになるまでは、たとえ何をしようとも視認されることはない――それが幽霊の厄介な点ではあるけれど、仮に幽霊が誰でも彼でも見えるようになってしまったならば、それはそれで非常に厄介なことになっていただろうし、別にそれは良いかな。
「ところで――」
最後に、占部さんはぼくに語りかけた。
「きみはあの場所からどうやって脱出しようと? 何か秘策があった訳ではないのだろう?」
「秘策――ですか?」
そんなもの、ある訳がない。
あったのならば、とっくに一人で脱出出来ていただろうし。
「……ならば、どうしていたんだ?」
「待っていた……とでも言えば良いですかね。簡単に言うと。つまりは、ぼく一人では何も出来ません。正直、幽霊の空間に閉じ込められる――なんてことは、ぼくからしてみれば完全な想定外でした。そして、それは神原もそう思っていたことでしょう。神原は仕事を自ら進んでしたがりませんけれど、それは神原なりのルールがあってこそ、の話。幽霊は、神原にしか干渉しない――今までは、それがデファクトスタンダードとなっていました。けれども、今回、それが完全に覆された。失敗した、とも言えますかね……」
ぼくだって、まさかああいう展開になろうなどとは思わなかった。今まで危険な目に遭うことはあったけれど……。
「それじゃあ、信頼をしていた、と?」
「あいつを何だと思っているんですか?」
敢えて言うことではないのかもしれないけれど、しかして今はそれをする場面だろう。
「――あいつは心霊探偵、神原語。仕事はしないけれど、腕は確かですから」
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