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魔王編

選択肢

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「桜さん。どうしたんですか? せっかくの戦勝パーティーが終わっちゃいますよ」

はっ。いけないいけない。そういえば我が国の王宮でパーティーをしてる真っ最中なんでした。

「大丈夫ですよミトさん。ちょっと考え事をしてて……」

そう言うとミトさんは安心した様子で飲み物を取りに行きました。

ゲームを終わるを選ぶとどうなるんでしょう。やっぱり……日本に帰れるんでしょうか。家族や友達の顔を思い出します。今の日本でどれくらい時間が経ってるかは分かりませんが、もし生きていたら心配してるでしょうね。このまま消えたらなんて親不孝者何でしょうか。両親とも優しくしてくれたのに……。

「桜。ボーッとしてますよ」

ひゃっ。ミトさん、いつの間に戻ってきてたんですか。びっくりしてると、ミトさんが顔を近づけて、ささやいてきました。

「桜さん。パーティーはまだ続くようですし、少し抜け出しちゃいませんか?」

「え、はい……。うわっ」

何も考えずに返事をしちゃいました。急にミトさんに手を引っ張れてしまいます。びっくりして変な声出ちゃいましたよ。

王宮の外に出ると夜空に星が光っています。庭園にある池に月や星が反射してとても綺麗です。
私達は噴水の近くにあるベンチに座りました。

「これどうぞ」

ミトさんが飲み物を渡してくれました。温かいコーヒーです。これは今日の夜は寝れなくなってしまいますね。

「ありがとうございます。こうやってゆっくりするのは久しぶりですね」

「そうですね。桜さん、下を向いて怖い顔してたので。知ってますか? 桜さんは悩んでる時はいつもそういう表情してますよ」

「ふふっ。バレちゃいましたか」

「なんで悩んでるのか、聞いてもいいですか?」

ミトさんは優しそうな表情でこちらに聞いてきました。月に照らされたミトさんの顔はとても綺麗です。口には小さな笑みを浮かべつつ、眉は少し下がっていて心配してくれているのが伝わってきます。

その顔を見ているうちに私は我慢出来なくなってしまって、全部話してしまいました。
なんで悩んでいるのか。何を迷っているのか全部。ミトさんは黙って聞いてくれました。

「でも……私……ここに来て、こんなにいい人達に囲まれているのに。こんな事に迷ってるのが恥ずかしいです……」

そんな事を話しながら、気づくと泣いていました。

「泣かないでください。桜さんが戻りたいなら、戻っても大丈夫ですよ。国は私がなんとかします。桜さんは安心して帰ってください」

そう言ってミトさんはハンカチを渡してくれました。その時、私は気づいてしまったんです。ミトさんが眉を震わせている事に。
私だってミトさんのことは良く知っています。これはミトさんの癖です。いつも悲しい時はこんな風になるんです。

私はなんてバカなんでしょう。悲しい気持ちを押し殺して、私に気を遣わせないようにしてくれる人が側にいたのに。こんなにも私を大事にしてくれる人がいたのに。
私は視界の端に追いやっていた選択画面を正面に持ってきました。

「ありがとうございますミトさん。私、決めました」

私は片方の選択肢に指を近づけます。これを選べばもう後戻りはできません。それでも……もう迷うことはありません。

「桜さん。今までありがとうございました。さよ……」

私はミトさんの言葉を遮りました。その言葉は間違っていますから。

「こんな事に迷うバカな私ですが……それでも良ければ、これからも一緒にいてくれますか? ミトさん」

ミトさんの顔がパァっと明るくなります。そして満面の笑みで返事を返してくれました。

「はい!」

「じゃあ王宮に戻りましょう。そろそろ抜け出した事がバレてしまいます」

「そうですね。一緒に帰りましょう!」

するとミトさんが手を握ってきました。指を絡ませた……恋人繋ぎってやつです。ちょっと距離感近すぎでは……まぁ今日はいいでしょう。
私もそっと握り返しておきました。
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2023.08.03 ユーザー名の登録がありません

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