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27. お手伝い
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ひとしきり再会をかみしめた後、私たちはすぐに村を発たなくてはならなかった。
ナーダム地区一帯は予定より早く作戦が完遂されたらしいが、逆に難航している箇所もいくつかあるそうで、ルイーズ様は状況を確認するために各地域を巡回している最中だったらしい。
「……え、ナイラ村が?」
「ああ、あの辺りは特に手こずっているようだ。前回の討伐でも、魔物の数と言うより強さが、他の地域の魔物と比べて桁違いだったから、こうなることはある程度予想はしていたが……悪いけど君には、僕と一緒にナイラ村まで付き添ってもらう」
「それは構いませんけど……ルイーズ様も森へ行かれるんですか」
「ああ」
短く、ごく当然のように肯定されて不安がつのる。でもそれがルイーズ様の仕事だろうから、行かないでとか言えなかった。
私が黙ってしまうと、何か察した様子のルイーズ様は、明るい口調で話題を切り替えた。
「ナイラ村も、祭りが開かれれていてね。なんでも鹿肉の串焼きが絶品だって。君もひとつ食べてみたら……ところで荷物はこれだけ?」
「ええ、そうですけど」
チェックアウトを済ませた私に対し、宿の外で待ち構えていたルイーズ様は怪訝そうに私の鞄を見下ろした。
王都に暮らして約一か月。制服は支給された上、買い物に出るタイミングもなかったから、荷物はほとんど増えなかった。それでも小さな旅行鞄だけという物の少なさに、私も苦笑を浮かべた。
「生活に必要なものは、すべて王宮で支給されましたから」
「まあ、困らない程度には用意されてたとは思うけど……女の人っていろいろ持ち物が多いものじゃないの。化粧道具とか、アクセサリーとか」
たしかに私だって、おしゃれに興味が無いわけじゃない。そのうち仕事に慣れて落ち着いてから、徐々にそろえればいいか、と思っていたのであまり気にしてなかった。
「仕事に慣れるまでいろいろあったので、後でいいかなって」
「……君のそういうところ、嫌いじゃないよ。ま、この件が片付いた暁には、僕にねだってくれれば、いくらでも好きなものを買ってあげる」
「はあ……」
「もちろん、僕以外にねだっちゃ許さないけどね」
ぼそりとつぶやいたルイーズ様の手で馬上に押し上げられた私は、何と応えたらいいか分からず曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
「さて、ここからしばらく馬を走らせるけど、君は乗馬が好きだから気にならないよね?」
「はい」
馬で向かわなくてはならないということは、馬車を使う時間の余裕はないということだ。
私の背後から手綱を引くルイーズ様を振りあおぐと、その真剣な横顔に事の深刻さを伺えて、何も聞けなかった。
ナイラ村に到着すると、小さな村は大勢の人でごった返していた。祭りのせいでもあるけど、ギルドメンバーの姿も多い。
私たちが馬を下りるやいなや、ひとりの男性が息を切らせて駆けよってきた。
「ルイーズ様、お待ちしておりました」
「ああ。馬を頼む……場所は?」
「南へ下った、森番の小屋の先です。ゲネル隊長も加勢してるものの、苦戦を強いられてるようです」
ギルドメンバーだろうか、ルイーズ様が馬を引き渡すと、男性は軽く会釈をしつつチラリと私を見やった。
「彼女は私の大切な人だ。本当は王都に送りたかったが、時間も無いから一緒についてきてもらった……ヨリ、君はこの村で待機するように」
「あ、はい」
サラリと『大切な人』と紹介されて、頬に熱が集まる。顔を上げられないまま、ルイーズ様に背中を押されて向かった先は、以前訪れたことのある村長の家だった。
「じゃあまた後で……いい子にしてて」
玄関先でそっと耳打ちされ、顔がますます熱くなる。私が何か言おうと口を開く前に、ルイーズ様は背を向けると、ギルドメンバーと連れ立って、人ごみの中に姿を消してしまった。
(大丈夫かな……)
前回とは違って、今回はあくまで魔物を森の奥へ追いこむだけだ。きっと激しい戦闘にはならないはず。
(でも、もし魔物が逆上して襲い掛かってきたら?)
手こずっているって、どの程度だろう。魔除けの提灯が役に立ってないようだ。恐れていた通り、強い魔物すぎると、提灯の効果がないのかもしれない……でも私がついていっても、今回ばかりは足手まといにしかならない。
後ろ髪引かれる思いで、村長さんの家の玄関の呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばしたその時だった。
「ヨリさん? ヨリさんですよね!?」
「え……」
振り返ると、息を切らした女性が立っていた。どこかで見たことがあるような気がする。
「ルイーズ様はご一緒ですよね!?」
「え、あの……あなたは?」
「失礼しました、第一ギルドメンバーのシーラ・シェフィールドです」
その名前を聞いて、そういえば園遊会でゲネルさんと一緒にいた人だと気付いた。
「ルイーズ様なら、たった今ここで別れて、森へ向かわれました」
「ああ、なんてこと……どうやら我々は、ひと足遅かったようです」
シーラさんは最後の一言を、背後に向けて言った。そこで初めて、彼女の後ろには、闇に溶けそうなマントを羽織った剣士が立っていることに気づいた。
(誰だろう? ギルドの制服じゃないようだけど……)
その剣士は、高い背を少し屈ませて、シーラさんに何やら囁き返した。フードを深く被っているので顔は見えない。
(もしかしたら、地位の高い人なのかな……帯刀しているし、騎士なのかも?)
そういえば王都には、ギルドメンバーや兵士の他に、王族直属の騎士団がいくつか存在したはずだ。
騎士団にも種類があって、表舞台で華やかに活躍する騎士たちもいる中、裏仕事に徹して、消して正体を明かさない騎士たちも存在すると聞いたことがある。
この剣士が、そういった騎士かどうかは分からないが、きっとルイーズ様を助けに来たのだろう。そしてシーラさんと連れ立って、こうして駆けつけたってことは、ルイーズ様の身にかなりの危険が迫ってるに違いない。
(ルイーズ様が向かった、森番の小屋がある辺りって、この前と同じ場所だよね……)
あの時ツァークの使者であるサーガさんに出会って道案内してもらったから、迷子にならないで済んだ。つまり案内がないと、たどり着けないかもしれない。
(あの場所は分かりにくい。もし道に迷っている間に、手遅れにでもなったら……)
私はぐっと両手を握り締めた。
「シーラさん……どうか私に、ルイーズ様のいる場所まで案内させてください!」
「えっ、でも……」
シーラさんが戸惑っているのが分かったが、私は大きく頭を振った。
「分かりにくい場所なんです。私もこの間迷って、ツァークの人に助けてもらわなかったら、辿り着けなかった……でも一度行ったから、大体の方角は分かると思いますし、やみくもに探すよりきっとマシです」
熱心に食い下がると、シーラさんの後ろの剣士が再び腰を屈めて、シーラさんに何事か囁いた。
短いやり取りを交わしたあと、やがてシーラさんが観念したようにうなずいた。
「分かりました……案内していただきましょう。あなたの安全は、私たちが全力で守らせていただきます」
「はい……よろしくお願いします!」
心の中でルイーズ様に謝る……言いつけ通り、いい子で待っていれそうにないから。
でもこんな状況だから、私にできることは何でもやりたい。どんな結果になろうとも、何もしないで後悔することだけはしたくない。
私は手荷物を戸口の傍の茂みに隠すと、シーラさん達と一緒に森へ向かって走り出した。
森の入口に到着すると、そこで待ち構えていたギルドメンバーから、例の魔物除けの提灯を受け取った。
「お気をつけて!」
「ありがとう!」
茂みをかき分けつつ、南の方角へと走りながら、隣のシーラさんがポツポツと説明をしてくれた。
なんでもナイラ村の奥にひそむ魔物は、普通の魔物とは桁違いの強さらしい。
「調査によると、奴らはツァークの研究所から逃げ出した特別種だそうです」
「研究所? 特別種って……」
「強い魔物同士を掛け合わせて、より強い魔物を作り出す為の研究です」
「なんで、そんな危険なことを!?」
シーラさんの横顔が、苦々しくゆがんだ。
「それらを飼い慣らして、他の魔物の制御に利用するつもりだったようです。その失敗が、この事態を招いてしまった……しかしここ数十年間、ツァークの数は年々減少傾向にある。もはや彼らの力だけでは、すべての魔物を制御しきれなくなってきているのです」
だからルイーズ様が、夜な夜な魔物討伐に向かっていた。その原因のひとつに、そんな事実があったなんて。
(そんな強い魔物を……捕縛できるのかな)
シーラさんの隣を走る、黒いマント姿の剣士をそっと盗み見る。この無口で謎めいた剣士が、きっとルイーズ様達を助けてくれるはずだ……そう信じるしかない。
「あそこです……!」
前方を指さした私に、それまで並んで走っていたシーラさんと剣士が急に速度を上げて、あっという間私を追い越して走り去ってしまった。
二人と入れ替わりに、近くに待機してたらしきギルドメンバーが数名こちらにやってきた。
「皆さん、ご無事ですか!?」
満身創痍、とまではいかないが、かなりの深手を負ってるようだ。
「ああ、俺たちは大丈夫だ……ルイーズ殿下とゲネル隊長が向こうで戦っている」
「だがシーラ様と『あの方』を連れてきてくれたから、もう大丈夫だ」
「お二人を連れてきてくれてありがとう。君はどこのギルド所属なんだい?」
どうやら私もギルドメンバーのひとりと勘違いされたようだ。こんなところまで来てしまったのだから、そう思われても無理もない。
「いえ、私は……」
「待て、来るぞ!!」
え、と振り向いた時には、背後から魔物が迫っていて、大きな前足を振りかざして今にも私の頭上から飛びかかろうとしていた。
次の瞬間、体が横に吹っ飛ばされる衝撃を感じ、草むらに転がって視界が反転した。
「……ルイーズ様!」
「まったく、こんなところまで来るなんて……!」
怒った表情のルイーズ様ににらまれ、ハッと息を飲む。白い額からは血が流れていた。
「大丈夫、かすり傷だ」
そういってニッと笑ったルイーズ様は、すぐに体を起こすと、襲いかかってきた魔物に向かって、矢のように突っ込んでいった。
「……!!」
ぎゅっと目を閉じると同時に、獣の咆哮が辺りに響き渡った。
ドサリ、と地響きを立てて何かが落ちた音に、恐る恐る目を開くと……ちょうどルイーズ様が剣を下ろしたところだった。
「……後方援護、感謝する」
「いえ……お手伝いできて光栄です、ルイーズ様」
その声を聞いた時、まさかという思いで思考が一瞬停止した。
ルイーズ様がゆっくりと振り返る。その後方にはシーラさんの姿と……そして黒いマントのフードが外れた剣士、もとい宰相様の姿があった。
ナーダム地区一帯は予定より早く作戦が完遂されたらしいが、逆に難航している箇所もいくつかあるそうで、ルイーズ様は状況を確認するために各地域を巡回している最中だったらしい。
「……え、ナイラ村が?」
「ああ、あの辺りは特に手こずっているようだ。前回の討伐でも、魔物の数と言うより強さが、他の地域の魔物と比べて桁違いだったから、こうなることはある程度予想はしていたが……悪いけど君には、僕と一緒にナイラ村まで付き添ってもらう」
「それは構いませんけど……ルイーズ様も森へ行かれるんですか」
「ああ」
短く、ごく当然のように肯定されて不安がつのる。でもそれがルイーズ様の仕事だろうから、行かないでとか言えなかった。
私が黙ってしまうと、何か察した様子のルイーズ様は、明るい口調で話題を切り替えた。
「ナイラ村も、祭りが開かれれていてね。なんでも鹿肉の串焼きが絶品だって。君もひとつ食べてみたら……ところで荷物はこれだけ?」
「ええ、そうですけど」
チェックアウトを済ませた私に対し、宿の外で待ち構えていたルイーズ様は怪訝そうに私の鞄を見下ろした。
王都に暮らして約一か月。制服は支給された上、買い物に出るタイミングもなかったから、荷物はほとんど増えなかった。それでも小さな旅行鞄だけという物の少なさに、私も苦笑を浮かべた。
「生活に必要なものは、すべて王宮で支給されましたから」
「まあ、困らない程度には用意されてたとは思うけど……女の人っていろいろ持ち物が多いものじゃないの。化粧道具とか、アクセサリーとか」
たしかに私だって、おしゃれに興味が無いわけじゃない。そのうち仕事に慣れて落ち着いてから、徐々にそろえればいいか、と思っていたのであまり気にしてなかった。
「仕事に慣れるまでいろいろあったので、後でいいかなって」
「……君のそういうところ、嫌いじゃないよ。ま、この件が片付いた暁には、僕にねだってくれれば、いくらでも好きなものを買ってあげる」
「はあ……」
「もちろん、僕以外にねだっちゃ許さないけどね」
ぼそりとつぶやいたルイーズ様の手で馬上に押し上げられた私は、何と応えたらいいか分からず曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
「さて、ここからしばらく馬を走らせるけど、君は乗馬が好きだから気にならないよね?」
「はい」
馬で向かわなくてはならないということは、馬車を使う時間の余裕はないということだ。
私の背後から手綱を引くルイーズ様を振りあおぐと、その真剣な横顔に事の深刻さを伺えて、何も聞けなかった。
ナイラ村に到着すると、小さな村は大勢の人でごった返していた。祭りのせいでもあるけど、ギルドメンバーの姿も多い。
私たちが馬を下りるやいなや、ひとりの男性が息を切らせて駆けよってきた。
「ルイーズ様、お待ちしておりました」
「ああ。馬を頼む……場所は?」
「南へ下った、森番の小屋の先です。ゲネル隊長も加勢してるものの、苦戦を強いられてるようです」
ギルドメンバーだろうか、ルイーズ様が馬を引き渡すと、男性は軽く会釈をしつつチラリと私を見やった。
「彼女は私の大切な人だ。本当は王都に送りたかったが、時間も無いから一緒についてきてもらった……ヨリ、君はこの村で待機するように」
「あ、はい」
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「じゃあまた後で……いい子にしてて」
玄関先でそっと耳打ちされ、顔がますます熱くなる。私が何か言おうと口を開く前に、ルイーズ様は背を向けると、ギルドメンバーと連れ立って、人ごみの中に姿を消してしまった。
(大丈夫かな……)
前回とは違って、今回はあくまで魔物を森の奥へ追いこむだけだ。きっと激しい戦闘にはならないはず。
(でも、もし魔物が逆上して襲い掛かってきたら?)
手こずっているって、どの程度だろう。魔除けの提灯が役に立ってないようだ。恐れていた通り、強い魔物すぎると、提灯の効果がないのかもしれない……でも私がついていっても、今回ばかりは足手まといにしかならない。
後ろ髪引かれる思いで、村長さんの家の玄関の呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばしたその時だった。
「ヨリさん? ヨリさんですよね!?」
「え……」
振り返ると、息を切らした女性が立っていた。どこかで見たことがあるような気がする。
「ルイーズ様はご一緒ですよね!?」
「え、あの……あなたは?」
「失礼しました、第一ギルドメンバーのシーラ・シェフィールドです」
その名前を聞いて、そういえば園遊会でゲネルさんと一緒にいた人だと気付いた。
「ルイーズ様なら、たった今ここで別れて、森へ向かわれました」
「ああ、なんてこと……どうやら我々は、ひと足遅かったようです」
シーラさんは最後の一言を、背後に向けて言った。そこで初めて、彼女の後ろには、闇に溶けそうなマントを羽織った剣士が立っていることに気づいた。
(誰だろう? ギルドの制服じゃないようだけど……)
その剣士は、高い背を少し屈ませて、シーラさんに何やら囁き返した。フードを深く被っているので顔は見えない。
(もしかしたら、地位の高い人なのかな……帯刀しているし、騎士なのかも?)
そういえば王都には、ギルドメンバーや兵士の他に、王族直属の騎士団がいくつか存在したはずだ。
騎士団にも種類があって、表舞台で華やかに活躍する騎士たちもいる中、裏仕事に徹して、消して正体を明かさない騎士たちも存在すると聞いたことがある。
この剣士が、そういった騎士かどうかは分からないが、きっとルイーズ様を助けに来たのだろう。そしてシーラさんと連れ立って、こうして駆けつけたってことは、ルイーズ様の身にかなりの危険が迫ってるに違いない。
(ルイーズ様が向かった、森番の小屋がある辺りって、この前と同じ場所だよね……)
あの時ツァークの使者であるサーガさんに出会って道案内してもらったから、迷子にならないで済んだ。つまり案内がないと、たどり着けないかもしれない。
(あの場所は分かりにくい。もし道に迷っている間に、手遅れにでもなったら……)
私はぐっと両手を握り締めた。
「シーラさん……どうか私に、ルイーズ様のいる場所まで案内させてください!」
「えっ、でも……」
シーラさんが戸惑っているのが分かったが、私は大きく頭を振った。
「分かりにくい場所なんです。私もこの間迷って、ツァークの人に助けてもらわなかったら、辿り着けなかった……でも一度行ったから、大体の方角は分かると思いますし、やみくもに探すよりきっとマシです」
熱心に食い下がると、シーラさんの後ろの剣士が再び腰を屈めて、シーラさんに何事か囁いた。
短いやり取りを交わしたあと、やがてシーラさんが観念したようにうなずいた。
「分かりました……案内していただきましょう。あなたの安全は、私たちが全力で守らせていただきます」
「はい……よろしくお願いします!」
心の中でルイーズ様に謝る……言いつけ通り、いい子で待っていれそうにないから。
でもこんな状況だから、私にできることは何でもやりたい。どんな結果になろうとも、何もしないで後悔することだけはしたくない。
私は手荷物を戸口の傍の茂みに隠すと、シーラさん達と一緒に森へ向かって走り出した。
森の入口に到着すると、そこで待ち構えていたギルドメンバーから、例の魔物除けの提灯を受け取った。
「お気をつけて!」
「ありがとう!」
茂みをかき分けつつ、南の方角へと走りながら、隣のシーラさんがポツポツと説明をしてくれた。
なんでもナイラ村の奥にひそむ魔物は、普通の魔物とは桁違いの強さらしい。
「調査によると、奴らはツァークの研究所から逃げ出した特別種だそうです」
「研究所? 特別種って……」
「強い魔物同士を掛け合わせて、より強い魔物を作り出す為の研究です」
「なんで、そんな危険なことを!?」
シーラさんの横顔が、苦々しくゆがんだ。
「それらを飼い慣らして、他の魔物の制御に利用するつもりだったようです。その失敗が、この事態を招いてしまった……しかしここ数十年間、ツァークの数は年々減少傾向にある。もはや彼らの力だけでは、すべての魔物を制御しきれなくなってきているのです」
だからルイーズ様が、夜な夜な魔物討伐に向かっていた。その原因のひとつに、そんな事実があったなんて。
(そんな強い魔物を……捕縛できるのかな)
シーラさんの隣を走る、黒いマント姿の剣士をそっと盗み見る。この無口で謎めいた剣士が、きっとルイーズ様達を助けてくれるはずだ……そう信じるしかない。
「あそこです……!」
前方を指さした私に、それまで並んで走っていたシーラさんと剣士が急に速度を上げて、あっという間私を追い越して走り去ってしまった。
二人と入れ替わりに、近くに待機してたらしきギルドメンバーが数名こちらにやってきた。
「皆さん、ご無事ですか!?」
満身創痍、とまではいかないが、かなりの深手を負ってるようだ。
「ああ、俺たちは大丈夫だ……ルイーズ殿下とゲネル隊長が向こうで戦っている」
「だがシーラ様と『あの方』を連れてきてくれたから、もう大丈夫だ」
「お二人を連れてきてくれてありがとう。君はどこのギルド所属なんだい?」
どうやら私もギルドメンバーのひとりと勘違いされたようだ。こんなところまで来てしまったのだから、そう思われても無理もない。
「いえ、私は……」
「待て、来るぞ!!」
え、と振り向いた時には、背後から魔物が迫っていて、大きな前足を振りかざして今にも私の頭上から飛びかかろうとしていた。
次の瞬間、体が横に吹っ飛ばされる衝撃を感じ、草むらに転がって視界が反転した。
「……ルイーズ様!」
「まったく、こんなところまで来るなんて……!」
怒った表情のルイーズ様ににらまれ、ハッと息を飲む。白い額からは血が流れていた。
「大丈夫、かすり傷だ」
そういってニッと笑ったルイーズ様は、すぐに体を起こすと、襲いかかってきた魔物に向かって、矢のように突っ込んでいった。
「……!!」
ぎゅっと目を閉じると同時に、獣の咆哮が辺りに響き渡った。
ドサリ、と地響きを立てて何かが落ちた音に、恐る恐る目を開くと……ちょうどルイーズ様が剣を下ろしたところだった。
「……後方援護、感謝する」
「いえ……お手伝いできて光栄です、ルイーズ様」
その声を聞いた時、まさかという思いで思考が一瞬停止した。
ルイーズ様がゆっくりと振り返る。その後方にはシーラさんの姿と……そして黒いマントのフードが外れた剣士、もとい宰相様の姿があった。
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