吉原お嬢

あさのりんご

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第3章

秘密の武器弾薬(37p)

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それから、皆に聞かれるままに、生い立ちを話した。
「吉原で、奉公もしかたねぇな……親孝行だ」
「鈴子さんは、貧乏に生まれたばってん、結構な御身分になれて、運がよか」
「あたし、節約が美徳と教えられた貧乏人だから。湯水のようにお金を使う人とは、どうも、あわなくて……」
「ん?なら、鈴ちゃん。鼠小僧みたいに伯爵さまから小判でも盗みだして、貧乏人に分けてやんなよ」
「鼠小僧、かっこいいですよね。独眼竜さんも、あの映画見ました?」
「ああ。トーキーの方だけど」
「声が出る映画も、できたとです」
「おもしろそう。行きたい!」
「合点承知。おいどんが連れて行きます」
「ザキオ!でけん。でけん。お嬢様とランデブーは無理ばい」
「なに?ザッキー鈴子はんは、おれらの仲間たい」

 ザッキーとザキオって?おかしな名前。独眼竜もありえない。この連中は本名を隠して呼び合っているらしい。
 独眼竜は、私に焼酎の入った盃を差した。
「うまいぞ。グイといけ」
 口に含むと、とろりとして、甘く美味しい。

「ところで、鈴子さん。紫出原伯爵の邸宅には武器、弾薬が秘蔵されている……そんな噂を聞いた事があるのだが、何か思い当たる事はないかね?」
「さあ……そんな話し聞いた事ない。怪談話ならあるけど――?なにしろ、庭がバカでかいから。奥には、誰も行かない土地が広がっているの。隠されている武器って、ピストルですか?」
「そう、拳銃だ。型式はベルギー製の『ブローニング1910』だ」
「独眼竜?あんた、なんで、型式まで知っとる?」
「ザッキー。うるせえ。貴様が、ガキの頃の話しだ。黙って聞け。
 ……清朝の旧臣がモンゴルと手を組み宣統帝を復活せようと計画していた頃……モンゴルのパプチャップ将軍からの使いが日本に来た。袁世凱と戦う武器弾薬を調達する為だ。
パプチャップ将軍は日露戦争の時、日本とともに戦いロシアを負かした勇敢な武将だ。日本は彼に恩返しをするために、要求を飲んだ。
 そうそう…今、人気の川島芳子…彼女はパプチャップの息子と結婚しておるのだ。
 わしは、その武器弾薬をシナまでの輸送する任務をおおせ付かったのだ。樽や、沢庵樽の中に枠を組みブリキで包んだ爆弾を詰め込んで貨物列車に載せた。わしがやったのはそこまでだが――」

 独眼竜は、コップ酒をぐいっとあおり、再び話し初める。
「清と蒙古と日本は袁世凱と戦う準備を着実に進めていた。ところが…袁の奴、呆気なく死んじまった。脳卒中、毒殺といろんな噂はあったが、真相は分からん。とにかく、武器弾薬の運搬は、中止になった。戦争が無ければ、物騒で邪魔なだけのシロモノだ。そいつの置場に困った物産会社は、紫出原家に保管を頼み込んだらしい。あの広大な領地ならいくらでも武器弾薬を秘蔵できる」

 独眼竜の話しが終わり、しばらくシーンとなった。沈黙を破ったのは、白松だった。
「そんな話しは、自分も聞いた事があります。近衛兵の噂ですから、どこまで信じていいのかわかりませんが……日本が戦争に負けても、陛下の身をお守りする武器弾薬だけは、ある伯爵が秘蔵していると……」
「さっそく、屋敷の邸内を探検してみるわ。怪談話しがあって、誰も近づかない場所があるの。あそこに、倉庫があるかもしれない」
「よし、見つけたら、俺達に知らせろ」

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