吉原お嬢

あさのりんご

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第2章

二人でワルツ?(24p)

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「だめっ!」
 私は、慌てて輝の腕をふりほどき、立ちあがった。これは、流石にヤバイでしょ。
 「いいじゃないか――俺達、もう子供じゃねえぞ」
 輝は強引に私を引き寄せた。
「やめてよ!」
 輝の腕に パシリと平手を食らわせる。
「痛てっー!鈴にやられた。今でも、かなわねや」
 
 輝は大げさに言うとベッドにゴロンとひっくりかえる。天井を見つめたままつぶやいた。
「――贅沢出来て、楽しいか?」
「ううん…つまんない」
「ははは。わかる。わかる。鈴がお嬢様って、そりゃ、無理だろ」
 言いながら輝は私の背中をグイと引っ張った。
「…あっ!やめて!」
「大丈夫だ。鈴は、恐くて触れねぇや。
 俺達は幼馴染だもんな。エロい事はしねぇ」

 よかった。いつもの輝に戻っている。二人で、黙ってベッドに寝転んでいた。
 草むらで、一緒に空を見た時を思いだす。ここが、故郷だったらな。
「あー田舎に帰りてぇー。輝、どこに住んでいる?」
「あ、俺か?陸軍から官舎をもらって。駒場の近く。ここから近いぞ」
「官舎って?嫁さんでも、もらったのか?」
「まさか。」
「輝モテるし。結婚しそう」
「いや、嫁さんは、無理だ」
「どうして?」
 
 輝は黙って唇を噛みしめている。その横顔はとてもとても真剣で、はっとした。
「好きな人がいて。禁断の愛とか?」
「ばか!そんなんじゃねえ。俺の命は――昭和維新に賭ける。
だから結婚はしねぇ。できねぇ」
「は?」
「この国は、腐りきっている。そうだろ?農民は飢えて死ぬが、金持ち連中は贅沢のし放題。
 今の議会政治は、江戸時代の殿様がそのまま貴族院議員になっている。だから農民から年貢を取り立てるような仕組みがそのままだ」
「世の中、昔から変わらねえよ。金持ちは勝手に国を動かして得をするけんど、、貧乏人はなんもできねえ」
「いや。西洋では、貧乏人が立ち上がり、国王を死刑にした」
「知っているよ。フランス革命だろ?」
「俺達も、革命を起こすつもりだ」
「え?じゃぁ――輝は何かするの?それは、危ない事じゃない?」
「今は言えん。実行計画は何度かあったが事前に漏れて失敗してしまう。大丈夫だ。俺の事など、心配すんな」
 ベッドで天井を見ながら話していた輝は、顔をこっちに向けた。目が会うと、私の顔を両手で挟んで
「鈴、幸せになれ。お前は、強いから、俺の分も幸せに生きろ」
 そう言ってふっと笑った。悲しそうな目――
 自分の幸せを考えているの?一緒に幸せになれないって私も悲しいよ。

「輝、無理してない?輝はもともと弱虫だよ」
「もう、弱虫なんかじゃねぇ。俺は、いつかこの腐りきった国を転覆させる」
「そんな事、本当に出来るの?」
「出来る!クーデタだ。軍人が国を動かす時が来た。
 弱腰の政治では、日本は植民地同然になってしまう。
 そうなれば鈴だって毛頭の奴隷になるんだぞ」
「まさか!でも……ほんとにそうなったら、奴隷とか怖すぎる」
「大丈夫だ。この国は俺が命を賭けて守る」

 きっぱり、そう、いい言いきった輝は、ぎゅっと唇を結んだ。ぷっくりした艶やかな唇。少し伸びた口髭。高い整った鼻。その綺麗な顔は不思議な力がみなぎって“軍人輝”は超人のようにも見えた。真剣になれば、人は変われるのだろうか――私も男だったら『昭和維新』に賭けてみたい。輝の同志になりたいな。
 
 しばらく、黙って二人で天井を見ていた。気がつくと、外が静かになっている。軍楽隊の演奏が終わったのだろうか? 
     ~♪~♪~♪
 ワルツの演奏が始まった。立ちあがって窓から外を覗いてみると、若いカップルが、数組踊りだしている。
「わっ!楽しそう。」
 輝も窓際に寄ってきた。二階から庭を見下ろすと、令嬢達が綺麗なドレスを翻し、流れるように踊っている。
「ははは。外人の真似しても、サマにならねぇ」
「そんなことないって。ね、輝?」
 恥ずかしくていい出せないけど?
「は?鈴?なんでこっち見るの。俺の顔になんかついている?」
「ばか!そうじゃ、なくて。……ちょっと、踊ってみたい。ワルツ」
「は?俺できねぇよ」
「あたしも出来ないけど。でも誰も見てないし……」
「お前、触るなって、言ったよな?俺と踊りたいのか?」
「いやらしいダンスじゃなくて。紳士と淑女の踊り――一度踊ってみたかったの」
「へえ――女心は、わからん。まあ、なんでもいいや。よし、踊ってやるぞ」
 
 ワルツのメロデイーは大好き。
     ♪~♪~♪~

 あれ?
「輝?全然曲に合ってないけど……」
「……そうかな」
「だって……ほらぁ…流れるように……もっとロマンチックな感じで……あ、いたっ」
「わりぃ。足踏んだ?」
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