23 / 42
第2章
秘密の地下道(23P)
しおりを挟む
馬場の奥に数頭の馬が見え始めた。
「皆さんが戻っておいでです」
上田は馬を止め,彼らを待った。先頭の白い馬に乗っている人を見てドキリとした。遠目ではっきり見えない。でも輝だ!間違いない。
軍人さん達も私達に気づいて速度を落とし、立ちどまる。輝は、私の視線に答えるように、こっちを見た。輝は私を見ると、驚いて馬を進め駈けよってきた。カーキ色のマントが翻って緋色の裏生地が鮮やかに見えた。
「鈴っ…?」
「久しぶりだな」
「びっくりした!どしてここにいる?」
「……」
何と説明したらいいものか。周りに人がいて吉原のいきさつをここでは、話せない。口ごもっていると、上田が、ひらりと馬から降りた。
「安藤中隊長殿、お久しぶりです」
「おお!上田じゃないか。貴様、なんでここにいる?」
「自分は、陸軍を辞めました。今は伯爵様の執事として働いております。こちらは、伯爵の姪御様でございます。以上!」と、輝に敬礼をする。
「陸軍じゃ俺より優秀だった上田が執事?信じられん。それに、お前……鈴子だよな。伯爵の姪?嘘だろ」
輝は馬を降り、私に詰め寄った。
「鈴子さま?安藤中隊長とお知り合いですか?」
上田は驚いて私と、輝を交互に見ている。
「ええ……まぁ……同じ故郷なの。上田さんも、輝を知っているの?」
「はっ!同期の桜であります。」
「優秀な上田が軍を辞めたのは惜しいな」
「いや。わたしには、軍人は務まりません。こうして、お嬢様のお伴をしていたほうが性に合っております」
「ははは。鈴。コイツは手が早いからな。気をつけろ。
で?どうしてお前が、お嬢様なの?お転婆で、貧乏なお前が、お嬢様ってありえないよな」
なんて輝はニブイのだろう。なんて気が利かないのだろう。私は、”お嬢様”を演じているのだから、調子を合わせて欲しい。これ以上、余計な事を言わせないために、馬から飛び降りた。
「説明するから――」と言いながら輝を小道に引っ張り込んだ。他の人達に聞かれると困るのだ。私が吉原から見受けされた話は秘密にしたい。
小道で二人だけになると
「鈴、何か訳がありそうだな」
輝は驚きを隠せない様子で、すぐに聞いてきた。
「歩きながら話そう―― 」
私は、吉原でお坊ちゃまの命を暴漢から救ったこと。そのお礼に身受けされお屋敷に入ったこと。吉原にいたのを秘密にして、伯爵様の親戚と偽ってることなどを手短に説明した。
「そいつは、すげぇ!さすが、女ガキ大将だ」
「ははは。ま、偽物お嬢様なんて……いつまで続くか分かんないけど。今は、綺麗な部屋を貰っているの」
なんだか、輝にちょっと自慢したくなった。
「すごいよな。伯爵様のお屋敷に住んでいるなんて。鈴、俺を案内しろ」
「いいよ。秘密の道がある。こっちさ、来てみろ?」
お花畑を通って、池まで歩く。輝の傍にいると小さい頃みたいに自然な自分に戻れる。たわいもないことを気楽にしゃべりながら歩いた。
池に着いて、輝と地下道に降りた。
「ゲッ!鈴子。暗くて何も見えんぞ。…もっと、ましな道はないのか?」
「輝、うるせぇ!黙って歩けや」
「そういえば……おら達、田舎で秘密基地を作ったな」
「うん。面白かったな…あ!階段だ。輝、気をつけて登れや」
「わかった」
暗い階段を上りきって、扉を上げて地上(クローゼット)に出る。
「ジャーン!あたしの部屋でーす」
クローゼットのドアを開く。光りが注して広い洋間が視界に入る。
「わおっ!いい部屋だなあ――ベッドまである」
輝はフランス製のベッドにドンと座った。
「あ?あっちの応接セットに座って」
「いや。いや。こっちがいい。鈴子もおいで」
輝は、ふっとズルそうな笑みを浮かべ私の手を引いた。見たことがない目つきにドキっとした。
「…ぅ」
輝の腕の中にすっぽり埋まってしまう。座っている背中から輝の身体の熱が伝わってくる。うなじに輝の暖かい息がかかって、くすぐったい。恥ずかしい。顔を見られてないからよかった。赤くなっていたら、よけい恥ずかしい。
「ひかる…く、くっつきすぎ」
「そんなことねぇ。大丈夫だ……」
輝の唇ヒゲが頬に触れてピクッとした。
「キャ!痛いよ!
髭なんか、生えちゃってさ。輝って、なんか、大人みたい」
「みたい…って?俺は大人。男だ。……鈴も奇麗になったし」
「皆さんが戻っておいでです」
上田は馬を止め,彼らを待った。先頭の白い馬に乗っている人を見てドキリとした。遠目ではっきり見えない。でも輝だ!間違いない。
軍人さん達も私達に気づいて速度を落とし、立ちどまる。輝は、私の視線に答えるように、こっちを見た。輝は私を見ると、驚いて馬を進め駈けよってきた。カーキ色のマントが翻って緋色の裏生地が鮮やかに見えた。
「鈴っ…?」
「久しぶりだな」
「びっくりした!どしてここにいる?」
「……」
何と説明したらいいものか。周りに人がいて吉原のいきさつをここでは、話せない。口ごもっていると、上田が、ひらりと馬から降りた。
「安藤中隊長殿、お久しぶりです」
「おお!上田じゃないか。貴様、なんでここにいる?」
「自分は、陸軍を辞めました。今は伯爵様の執事として働いております。こちらは、伯爵の姪御様でございます。以上!」と、輝に敬礼をする。
「陸軍じゃ俺より優秀だった上田が執事?信じられん。それに、お前……鈴子だよな。伯爵の姪?嘘だろ」
輝は馬を降り、私に詰め寄った。
「鈴子さま?安藤中隊長とお知り合いですか?」
上田は驚いて私と、輝を交互に見ている。
「ええ……まぁ……同じ故郷なの。上田さんも、輝を知っているの?」
「はっ!同期の桜であります。」
「優秀な上田が軍を辞めたのは惜しいな」
「いや。わたしには、軍人は務まりません。こうして、お嬢様のお伴をしていたほうが性に合っております」
「ははは。鈴。コイツは手が早いからな。気をつけろ。
で?どうしてお前が、お嬢様なの?お転婆で、貧乏なお前が、お嬢様ってありえないよな」
なんて輝はニブイのだろう。なんて気が利かないのだろう。私は、”お嬢様”を演じているのだから、調子を合わせて欲しい。これ以上、余計な事を言わせないために、馬から飛び降りた。
「説明するから――」と言いながら輝を小道に引っ張り込んだ。他の人達に聞かれると困るのだ。私が吉原から見受けされた話は秘密にしたい。
小道で二人だけになると
「鈴、何か訳がありそうだな」
輝は驚きを隠せない様子で、すぐに聞いてきた。
「歩きながら話そう―― 」
私は、吉原でお坊ちゃまの命を暴漢から救ったこと。そのお礼に身受けされお屋敷に入ったこと。吉原にいたのを秘密にして、伯爵様の親戚と偽ってることなどを手短に説明した。
「そいつは、すげぇ!さすが、女ガキ大将だ」
「ははは。ま、偽物お嬢様なんて……いつまで続くか分かんないけど。今は、綺麗な部屋を貰っているの」
なんだか、輝にちょっと自慢したくなった。
「すごいよな。伯爵様のお屋敷に住んでいるなんて。鈴、俺を案内しろ」
「いいよ。秘密の道がある。こっちさ、来てみろ?」
お花畑を通って、池まで歩く。輝の傍にいると小さい頃みたいに自然な自分に戻れる。たわいもないことを気楽にしゃべりながら歩いた。
池に着いて、輝と地下道に降りた。
「ゲッ!鈴子。暗くて何も見えんぞ。…もっと、ましな道はないのか?」
「輝、うるせぇ!黙って歩けや」
「そういえば……おら達、田舎で秘密基地を作ったな」
「うん。面白かったな…あ!階段だ。輝、気をつけて登れや」
「わかった」
暗い階段を上りきって、扉を上げて地上(クローゼット)に出る。
「ジャーン!あたしの部屋でーす」
クローゼットのドアを開く。光りが注して広い洋間が視界に入る。
「わおっ!いい部屋だなあ――ベッドまである」
輝はフランス製のベッドにドンと座った。
「あ?あっちの応接セットに座って」
「いや。いや。こっちがいい。鈴子もおいで」
輝は、ふっとズルそうな笑みを浮かべ私の手を引いた。見たことがない目つきにドキっとした。
「…ぅ」
輝の腕の中にすっぽり埋まってしまう。座っている背中から輝の身体の熱が伝わってくる。うなじに輝の暖かい息がかかって、くすぐったい。恥ずかしい。顔を見られてないからよかった。赤くなっていたら、よけい恥ずかしい。
「ひかる…く、くっつきすぎ」
「そんなことねぇ。大丈夫だ……」
輝の唇ヒゲが頬に触れてピクッとした。
「キャ!痛いよ!
髭なんか、生えちゃってさ。輝って、なんか、大人みたい」
「みたい…って?俺は大人。男だ。……鈴も奇麗になったし」
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…
時代小説の愉しみ
相良武有
歴史・時代
女渡世人、やさぐれ同心、錺簪師、お庭番に酌女・・・
武士も町人も、不器用にしか生きられない男と女。男が呻吟し女が慟哭する・・・
剣が舞い落花が散り・・・時代小説の愉しみ
我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。
一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。
二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。
三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。
四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。
五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。
六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。
そして、1907年7月30日のことである。
永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる