吉原お嬢

第２章

バレた（18P）

　多美子と、玉子が、同時に叫んだ。
「あら、竹宮様がこちらに、いらっしゃる！」
　竹宮様は、黒いフロックコートをお召しになり数人のお供を連れている。
「こちらのテントがお目当てなのよ！」
「まぁーどうしましょう。わたくし、宮様とは、ダンチよ」
「宮様は気さくなお方だから大丈夫。おもくろいわ（当時の流行語：おもしろいの意味）」
「あら、おもくろいなんて、宮様に失礼ですわよ」
　神様と崇められているあの゛天皇゛様。故郷のあばら家にも、吉原の松野家にも、壁の高い所に“御真影“（天皇の写真）が飾られていた。その天皇のお血筋をひく、宮様と私は、月とスッポン。奥様は、失礼のないようにと言っていたけれど。お話するのは絶対無理。
　
　竹宮様から頂いたお歌を思い出しながら、途方にくれていると、お種さんが、小走りに駆け寄ってきた。
「鈴子様、奥様がお呼びです」とあたしに囁く。
　園遊会の最中になんだろう？ でも、助かった。これで、宮様から逃げられる。私はお種さんと婦人室に急いだ。
奥様は、夫人室でイスに腰掛けて私を待っていた。金糸、銀糸を贅沢に使った着物を着ている。
　この着物だわ…女中さん達の噂になっている着物。フランスのエッフェル塔が刺繍されているもので、園遊会のために誂えたらしい。ヨーロッパの大使達を喜ばすための趣向だが、風合いがお気に召さないとか……たしかにエッフェル塔は着物の雰囲気に合わない気がする。
　「鈴子さん！」
　「はい！」
　奥様の口調がいつもより厳しいので、思わず緊張してしまう。
　「鈴子さん？あなた、本当に伯爵さまのご親戚なの？」
　あっ！バレた？ついに、身元がバレたの？