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第7章

けしの花(66p)

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 かっては、パルチザン組織(ゲリラ活動を行う組織)のつわもだった、周保中が、頭を下げたので、芳子は、内心驚いた。
「今の私に、何かお手伝いが出来る事がありますか」

「私の任務は、雲南に残っている国民党を根絶やしにする事。それと、資金を調達することなのです。これを、お手伝い頂きたい」

「それは、どのように?」

「秀竹(山家の中国名)や、于景泰は、国民党軍に今も強い関係がある。雲南省には、まだ、数万人ほどの国民党の残党が立て籠もっています。彼らや、芳子さんが、彼らに投降をうながせば、無駄な戦いを防げるのです」

「わかりました。では、資金源は、どのように?」

「けしの花がどこに咲いているか、教えて頂きたい。あなたが、安国軍の総司令として活躍した熱河省は、阿片の産地でした。それに、阿片の製造、売買を取り仕切っていた、甘粕さん達とも親しい関係だった。満州国の阿片の栽培場所や、阿片精製の工場、その貯蔵庫などの場所を教えて下さい」

「なるほど。雲南省は、けしの花の栽培に適している。その、けしの花を原料とする、阿片を、雲南省で作る計画ですね」

「共産党政権の財政基盤は、きわめて脆いのです。しかし、近々、毛沢東主席が、北京の天安門広場で建国を宣言します。内戦が終わったばかりで、国民は戦いに疲れ、国土は焼け野原。経済活動は、まだまだで、貿易も出来ない。頼りは、ソ連の経済援助ですが、スターリンは、あてにならないのです。ここは、阿片を売るしかない」

 芳子は、大きなため息をついた。兄弟や、溥儀様の妻など、阿片中毒で苦しんでいる人は身近にいる。賢明な芳子は痛みがあっても、阿片を吸おうとは、思わなかった。麻薬は、人々を不幸にする。

 しかし、満州国は、阿片によって得られた膨大な収入によって、運営されていた。言い換えれば、阿片がなければ、国が存続しなかった。
 溥儀が書いた『和が半生「満州国」皇帝の自伝』には、満州国が崩壊するまでに生産された阿片は、現在の貨幣価値で、6505臆円以上もあったと記されている。

 アジアでは、植民地経営のために、阿片が溢れており、国際通貨の役割を果たしていたのである。

 芳子は、満州国の阿片の栽培場所や、阿片精製の工場、その貯蔵庫の場所を鮮明に記憶しており、数枚の紙片に書いて、周保中に渡したのであった。

 芳子の協力に感謝し、般若寺の釈樹培法師は、芳子に”帰依証”を発した。帰依証とは、居士証とも呼ばれ、中国の仏教寺院が発行する仏教信徒(居士)の為の身分証明書である。これを、出せば身分を証明する他にも、国内のどんな仏教寺院でも宿泊でき、食事をして仏事に参加出来る。山家が修行をしている、浙江省の国清寺でも、滞在することが出来たのであった。
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