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生存説を裏付けるエピソード

刈り込んだ髪が、一週間で肩まで伸びていた

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 昭和二十二年、三月二十四日の夕刊には、「金璧輝の、処刑は、二十五日にも」との憶測記事が掲載されていた。
 
この記事を読んだ野次馬や、取材に血眼になっている記者達は、二十五日の朝早くから、監獄の大門の前に集まっつていた。北京では、囚人の死刑執行は早朝と決まっていたのである。
 
 刑場の銃声を聞いて、数十人が、大門に押し寄せ、「門をあけろ」と騒ぎだした。軍警、数人が駆けつけ、銃口をかれらに向ける。人々は、しかたなく、引き下がっていった。

 と、大門の横の通用口から、男達が出て来て、金髪の記者を招き寄せた。監獄の敷地に入っていったのは、ライフ誌の記者と米国人カメラマンの二人である。
 
 これを、見た中国人記者は、大声で講義する。
「どうして、外国人記者だけに、取材させて、自国の中国人記者は締め出すんだ」
「公開審判された、死刑囚は、公開死刑と決まっているのに。秘密に死刑執行をするなんて、何かたくらんでいるんだろう」
「処刑が行われる場合は、事前に記者諸君には連絡すると、聞いたぞ。それなのに、執行後も、取材を許可しないのは、どうしてなのだ」
 皆は、口々に訴えたが、門は閉ざされたままであった。

「金璧輝は、国際的なスパイであるから、外国人記者の取材は許可する」
これが、当局の方針だと言う。

 死刑の一週間前に、芳子はインタビューを受けているが、その時の記者も、米国人である。名前は、スペンサー・ムーサ。AP通信の記者である。その時の記事が興味深い事を伝えている。

『清朝最後の皇帝で満州国皇帝溥儀の血縁にあたる彼女には戦争中、日本のために彼女の魅力を振ったあの東洋の妖婦としての面影はすっかりなくなっていた。二年にわたる刑務所生活は彼女の健康と、容貌をすかり損なわせたのである。しかし、彼女の美しい肌、大きな黒い瞳には、かっての美しさの残映をとどめていた。小柄な体にはねずみ色のジャケットをまとっており、実際よりずっと、大きく見えた。髪は男のように短く刈り込んでいた』

 この記事によれば、芳子の髪は短い。けれど、ライフ誌が、金璧輝の処刑された遺体として報道した写真では、彼女の髪は、肩まで、長く伸びていたのである。刈り込んだ髪が、一週間で、肩まで伸びるのだろうか……

 この遺体は、中国にいた日本の高僧によって弔われ、遺骨は、松本市のお寺にある川島浪速のお墓の隣に埋葬されている。 
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