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生存説を裏付けるエピソード

処刑場で

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 昭和二十二年、三月二十五日未明。芳子が脱獄して、ほどなく、監獄の正面から軍のトラックが入ってきた。数十人の軍警が、荷台から飛び降り、監獄の周囲に並んだ。銃を抱えての警備である。
 午前六時前、黒塗りの乗用車で、死刑執行検察官、書記、検死係官の三人が、到着した。

 監獄の裏庭、そこには、すでに机と椅子、そして、筆記用具が用意されていた。検察官ら三人と、監獄の幹部数人が席についており、銃を携えた軍警が数人直立している。

 朝日が射しこむ頃、二人の男の看守に挟まれて、女性の囚人が引き出されてきた。

「金璧輝、前へ出なさい」

その囚人は、髪は長く俯いていたので、立会人の誰もが顔を見る事はできなかった。

「金璧輝、お前の抗告は、棄却された。裁定書は昨夜届けたから、すでに承知のことだろう。本官は、命令に従い、これから、死刑を執行する。何か言い残すことはないか?」

 金璧輝は、黙ってうつむいている。

 検察官は、習慣から死刑囚に、二個の饅頭を差し出した。金璧輝は、大きく首を左右に振って、それを、受け取らない。

 検察官は、死刑執行係の法官に合図する。法官は、彼女を十メートルほど歩かせて、所定の場所にひざまずかせた。そして、銃を彼女の後頭部に近づけ、引き金を引いた。


 銃声と共に、彼女は、地面に突っ伏し、後頭部から鮮血があふれ出た。

 銃弾として、用いられたのは、「ダムダム弾」と呼ばれ、体内で弾丸が破裂する。後頭部から入った弾丸は、額、鼻、口、そして、脳みそまで、打ち砕き、もはや、誰の顔か分からなかった。
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