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第5章

お猿のもんちゃん(47p)<エピソード>

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 昭和十三年頃から、中国では、親日派の汪兆銘おうちょうめいを擁立して新しい政権を樹立する話が持ち上がっていた。汪兆銘は、清朝の家臣で若い頃は官費で日本に留学したこともある。しかし、清王朝を裏切り革命運動を始めた。
 芳子が三歳の頃、彼は清の重臣を暗殺しようとして、捕えられた。父、粛親王は彼の罰を軽減して、死刑から救ってやったので、娘の芳子には、恩を感じている。蒋介石と決別した彼は、日本との、和平工作を水面下で行っており、親日派の芳子に協力を求めてきた。汪兆銘の使者に誘われて、芳子は、再び北京に戻ったのである。

 しかし、北京に戻ると、すぐさま、日本陸軍に尾行された。あまり、しつこいので、文句を言ったら、憲兵を殴ったとして、又日本に送還されてしまった。

 中国と日本を結ぶ、日華連絡船は長崎港から出航する。芳子は、日本と中国を行き来する度に、九州の『清流荘』に泊まる事が多かった。『清流荘』の板前、小方とは、妙に気が合う。ついに小方は彼女の秘書として働く事になった。

 芳子は、東京では、山王ホテルの一室に籠り、何もすることがない。浅草で見かけた子サルが可愛くて、つがいで買って来て、もんちゃん、副ちゃんと名前をつけた。

 もんちゃんと副ちゃんは、ホテルの二階の窓から、路面電車を眺めては、首をかしげている。二匹の仲睦まじい様子は、見ているだけでも、心がなごんできた。
 
 サルはしつけが難しいが、芳子は、上手に手なずけた。慣れてくると、肩に止まって甘えてくるのが、いじらしい。つぶらな瞳は、人間の目より、はるかに綺麗だった。
 
 副ちゃんは、子供を二ひき産んだ。デコとチビと名付けてやった。副ちゃんは、自分で食べる前にデコとチビに食べさせている。安心しきって、眠りこける子猿たち。―――サルは嘘をつかない。なんだかうらやましい気がした。
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