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骸・Ⅰ
しおりを挟む人魚が一斉に、濠へと逃げ去った後のことである。
生き延びた何艘かの小舟が岸に戻り、藩士たちが濠端にあがった。
そこで、転がっていた人魚の屍に刀を突き立てたのである。
憎悪の刃である。
これが発端となった。
「この化け物めッ!」
「くそッ! くそッ!」
他の藩士たちも刀を抜き、手近に転がる人魚の骸に斬りつけた。
徳蔵と徳蔵の連れて来た男から、平賀源内の目撃情報を詳しく聞こうとしていた景山と後藤が、これに気付いた。
「待てッ!」
「勝手な真似をするな!」
二人は慌てて藩士たちの暴挙を止めに走った。
藩士たちの怒りは分かる。
人魚の群に、何人もの同僚を殺害されたのだ。
しかし、目の前の暴挙を見過ごす訳にはいかなかった。
見た目は人魚の化け物であっても、元々は人間で、自身とは関係なく改造された可能性も出てきたのである。
研水との約束もある。
何より、まだ息があり、尋問できる人魚がいるかも知れない。
「退けッ! 人魚に近寄ってはならん!」
「人魚の骸は、すべて町奉行で引き取る」
景山と後藤が藩士たちを制止した。
「なんだと」
血の気の多い藩士が、二人を睨みつけた。
「小舟に乗り、この化け物と戦っていたのは我らだ!
陸の上で震えていた同心風情が、偉そうなことをぬかすな!」
藩士の言葉に、景山の顔つきが変わった。
「景山……」
それに気づいた後藤が止めようとしたが遅かった。
「震えていただと?
人魚を斬り捨てたのは、我ら二人だ。
小舟で戦ったと勇ましいことを口にしたようだが、濠で人魚を討った者はいるのか?」
罵倒された景山は、痛烈な言葉で返した。
藩士たちは怒りで顔を歪めた。
景山の言う通り、水上での戦果は無いに等しい。
だからこそ、景山の言葉に激怒した。
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