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心肺蘇生・Ⅲ
しおりを挟む二度目の呼気の吹込みでも、ミツの自発的呼吸は復活しなかった。
研水は、再び、胸部圧迫による心肺蘇生法に戻る。
……まだ、可能性はある。
……ミツちゃん、息を吹き返すんだ。
研水は、祈る思いでミツの胸部の圧迫と解放を繰り返す。
この時代の医師たちは、まだ手探り状態での心肺蘇生を行っていた。
研水の心肺蘇生法も、師である杉田玄白から口伝で学んだだけである。
どのような理で、再び心臓が動き始めるのかは理解していない。
……くそ。だめなのか。
三十回の胸部圧迫を数え、口による人工呼吸法を行う。
それでも心肺は停止したままである。
ミツの顔色は、さらに白くなっていく。
……あきらめるな。
……絶対にあきらめるな。
研水は萎えそうになる自身の気持ちを叱咤する。
……私は医者だ。
胸部圧迫に戻る。
……今、ここで戦わねば、いつ戦うのだ。
……景山様、後藤様は、命を賭して、源内の放った怪物と戦ったではないか。
……私が、この場であきらめてどうする!
「手を握って、呼び掛けてッ!」
母親にそう言った研水は、三度目の人工呼吸法を行い、そして胸部圧迫法を続けた。
ミツに変化はない。
……この処置法ではダメなのか?
自信が揺らぐ。
……死なせてしまうのか。
……このまま、死なせてしまうのか。
不吉な思いが頭を暗雲のように広がる。
……くそ。くそ!
それでも研水はあきらめない。
しかし、ミツは息を吹き返さなかった。
……あきらめるな!
……私があきらめれば、この娘は死ぬ!
……呼び戻せるのは私だけなのだ!
研水は疲労がたまり、棒のように強張り始めた腕で、心肺蘇生を繰り返し続けた……。
◆◇◆◇◆◇◆
そのころお城の濠端は、異様な緊張感に満ちていた。
景山、後藤たち町奉行所の役人と外様大名の藩士たちが睨み合っていたのだ。
一触即発の状況であった。
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