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手掛かり・Ⅰ
しおりを挟む「しばてんと言うのは、西国に棲むという妖怪であろう」
緊張した空気の中、後藤がのんびりとした声で言った。
「ちゃかすな、後藤」
景山が不機嫌な目で後藤を見る。
「江戸払いであるにもかかわらず、無許可で戻って来ていたとなれば、見過ごすわけにはいかぬぞ」
「漢字で書けば、かまどのにくべる柴の字をあてるのであろう。
柴とは小さいという意味もある故、柴天狗とは小さな天狗という意味であろうな」
景山の声など聞こえていないふりをして、後藤が続ける。
「小さな天狗の妖怪だが、川岸に現れ、道行く人間に相撲をせがむ。
そんなところから、河童とも言われるようになった。
しばてんが、天狗であり、河童でもあると言うのは、そういう意味を含んでのことであろう。
なあ、研水殿」
「そ、そうです。
その通りでございます!」
後藤はしばてんを知っていたようであった。
分かりやすい説明を受けて、研水は安堵した。
そして、改めて景山を見る。
「お分かりいただけましたでしょうか、景山様」
「分かるか、馬鹿者ッ!」
景山が怒気を発した。
研水は「ひッ!」と身をすくませた。
「この者の、どこが小さい!
そもそも妖怪ではなく、人間であろう!」
「先生、あまり八丁堀の旦那をからかわない方がよいですよ」
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「いえ、そういう意味ではないのです」
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「落ち着け、景山。
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たしかに、平賀源内の放つ怪物たちと戦うにあたり、雷電を味方にすれば、これほど頼もしいことは無い。
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「し、しかし、我らは同心の役目として……」
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