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古今十傑・Ⅱ

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 しかし、これだけの強さがありながら、最高位は大関であり、横綱にはなっていない。
 雷電が横綱の推薦を固辞したためであるとか、お抱え主である松平家と細川家の対立で邪魔が入ったためであるなど、色々と推測されているが、はっきりとした理由は分かっていない。

 江戸時代から昭和時代にかけての最強力士十人は、『古今十傑』と呼ばれる。
 谷風、双葉山らの横綱が九名、そして、もう一人が雷電為衛門である。
 雷電は、ただ一人大関でありながら、十傑に名を連ねている。

   ◆◇◆◇◆◇◆

 急速に気迫が充実していくのか、研水の目には、雷電の背中がギチギチと膨張していくように見えた。
 と、雷電の背がわずかに沈んだ。
 軽く握った手が、地面に触れたのであろう。
 次の瞬間、雷電が人魚の群に突っ込んだ。

 人魚の密集している場所に、ぶちかましを仕掛けたのだ。
 まるで崖から落ちて来た巨大な岩である。
 落ちてくる巨岩の前では、ぬめる体液で体を覆っていても意味を成さない。
 五、六匹の人魚が軽々と吹き飛ばされた。
 衝撃で幾つもの骨が砕けたのであろう、吹き飛ばされ、地面に転がった人魚たちは、体の形が歪んでいた。
 中には、人間と魚の境い目が、半分千切れかけてしまった個体もいる。

 が、人魚は、まだ多い。
 新たに増えた人魚も加わり、四方から雷電に群がった。

 現役時代、あまりに強すぎた雷電は、四つの技を封じられていた。
 突っ張り。
 張り手。
 さば折り。
 かんぬき。
 この四つである。
 雷電がこの技を使えば、必ず相手が大怪我を負い、最悪の場合は死に至らしめると言う理由で禁じ手にされたのだ。
 雷電は、この技を思う存分に使った。

 高く跳ね上がり、正面から襲い掛かって来た人魚の胸へ突っ張りを放った。
 巨大な手の平が、真っすぐに人魚を打つ。
 鐘を打つ太い橦木の一撃と変わらない。
 大きく弾き飛ばされた人魚の胸は、大きく凹み、胸骨、肋骨は砕け、突き抜けた力は背骨までも破壊した。

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