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人体改造・Ⅱ
しおりを挟む「……分かった。
先生、立てるか?」
辰五郎が、研水に手を貸そうとした。
そのとき、研水の脇を小さな人影が走り抜けようとした。
「父ちゃん! 父ちゃん!」
泣きながら、人魚と化した父親に駆け寄ろうとしたのはチヨであった。
徳蔵の手を振り払い、ここまで走って来たのであろう。
「チヨちゃん!」
研水は慌てて手を伸ばすと、危ういところでチヨを抱き留めた。
「やーー、やーー!
父ちゃんのところに行くの!
行くの!」
研水の手を振り払おうと、チヨが暴れる。
「チヨちゃん!」
研水は何をどう言っていいのか分からず、ただチヨを抱き止めるしかなかった。
「先生!」
辰五郎が小さく、それでも緊迫した声を出した。
見ると、チヨの声に誘われたかのように、松次郎の右側面を回り込む形で、新たな人魚が、二匹、三匹と現れた。
「……!」
研水は、チヨを抱きかかえたまま立ち上がろうとするが、足が震えて、うまく立ち上がることが出来ない。
「シャッ!」という呼気が聞こえた。
研水が目を向けると、今度は松次郎の左側面を回り込む形で、さらに二匹の人魚が現れた。
研水たちに視線を向け、「シャッ! シャッ!」と威嚇するように息を吐いている。
……どうにかして、チヨちゃんだけでも逃がさなくては。
研水がその方法を思いつく前に、人魚が左右から距離を詰めてきた。
◆◇◆◇◆◇
「しッ!」
後藤は、鋭く刀を振った。
前を塞いでいた人魚の目を切っ先で斬り裂き、その右横を駆け抜ける。
とどめを刺している間は無い。
人魚たちの向こうで、地べたに座り込んでいたのは研水一人では無かった。
研水の陰で見えなかったが、若い男がいた。
後藤に突っかかって来た、辰五郎という威勢の良い町火消しである。
そして、何が起こっているのか、そこに幼い少女が駆け込み、研水が抱き留めたのだ。
その間に、鯰尾の人魚を回り込み、他の人魚が接近していく。
後藤の目には、もはや研水が逃げる機会は失われたようにみえた。
左から飛び跳ねるように襲ってきた人魚に対して、後藤は刀の峰で、その顎を叩いた。
牙がまとめて砕け、人魚は地べたに叩き伏せられた。
後藤は、突っ立ったままで、研水の状況を見ていた訳では無い。
人魚を斬り伏せて進み、駆けつけようとしているのだ。
しかし、一匹斬り伏せて進む間に、三匹が濠から這い出で前を塞ぐ。
その三匹をかわす間に、さらに五匹が前に回り込む。
濠から吐き出される人魚は留まることを知らず、場所によっては、人魚の上に、二重三重にも人魚が重なっている。
それらが、研水との間で、壁のようにうごめいている。
……いかん。
……これは、間に合わぬ。
さらに一匹を斬り伏せた後藤は、研水から離れた、おのれの迂闊さを呪った
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